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黄昏のミリアム  作者: 雅流
安奈
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安奈

昨夜のお通夜もそうだったが葬儀への出席者はまばらだった。


青森県の山村から東京へと転居してきて間もない夫婦には知り合いもほとんどなく、郷里からは数人の血縁の者が参列しただけだった。


その血縁の者たちにしても、少女に身寄りがないために警察から連絡を受けて仕方なく上京して葬儀の手配をしたという具合で、残された少女を心配して付き添うという者さえおらず、遠巻きにしてひそひそと何事か話すばかりであった。


そんな中で両親を亡くしたまだ6歳の少女は感情を失ったかのように無表情でだだ呆然としているのだった。


「村を追われたあげく、こんなところでこんな事故にあうなんてねえ」


「それにしても、またあの娘だけ生き残って」


「親がこんな死に方をするなんて因果応報とでもいうのかねえ」


「しっ、こんな時にそんな言い方をするもんじゃないよ」


火葬場から戻ると血縁の者たちは少女の両親が住んでいた部屋へと集まった。


夜逃げのようにして上京したせいか、ほとんど荷物のないガランとした部屋である。


「親戚と言っても親兄弟ならともかく、うちは従妹だし、娘まで引き取るような間柄でもなかったからねえ」


「それはどこも同じだろう」


「それに藤田さんのところのことを考えると、あの村に戻るのがこの子にとって幸せと言えるのかどうか」


「しかし、こんな小さな子を放り出すわけにもいかないしねえ」


血縁の者たちはいつまでも結論のでない話し合いを続けていた。


そんなところに、玄関のベルが鳴りその男は唐突にやってきた。


「突然お邪魔して申し訳ありません」


「内田安奈さんのお宅はこちらでよろしいでしょうか?」


「はあ、そうですが何か?」


「テレビや新聞の方でしたら、もうキリがないので勘弁してください」


「いえマスコミの者ではありません」


「私、宮城県で孤児を預かる施設を運営している楽名という者です」


「ニュースで安奈さんがご両親を亡くされたのを知りました」


「この度はご愁傷様です」


「私どもの施設で何かお役に立てることがないかと思い参上させていただきました」


施設の者だと名乗る楽名を親戚一同は誰もが訝し気な目で見つめた。


「決して怪しい者ではございません」


「十分な施設とは言えませんが、ご家族の事故などで身寄りを亡くされたお子様をお預かりさせていただいております」


「もちろん、ご親族の方のご了解がいただければのことですが」


楽名は集まった親戚達のあからさまな疑惑の視線にもまったく怯むこともないようで、まじめな表情で小さく会釈をした。


「私どもは町の駐在さんとも親しくさせていただいております」


「もしご不審に思われるようでしたら宮城県七ヶ宿町の警察署までお問合せください」


「決して怪しい者ではないことはご確認がいただけると思います」


「もし私どもでお役にたてることがございましたら、いつでも結構ですのでご連絡ください」


そう言って楽名は親族たちに名刺を配り始めた。


親戚筋の者たちはあまりにも都合よく現れた楽名を初めは怪しげに見ていたものの信用は警察へ問い合わせてくれという話を聞いて、俄然その気になったようだった。


「孤児のための施設ということだが、預かるのに料金はどのくらいかかるのかね?」


「私どもでは不幸な事故や事件で身寄りを亡くされたお子様をボランティアで預からせていただいておりますので、料金というようなものはありません」


「ご親戚の皆様のご承諾書だけをいただいております」


「寄付などを求められることはないのかね?」


「ボランティアで運営している施設ですので、お志があられる方にはご寄付をお願いしています」


「ほらごらん、そんな都合のよい話があるわけがないんだよ」


「寄付で大枚ふんだくられたあげく、子供はほっぼり放しなんてことなんじゃないのかい」


「私どもでは預からせていただいたお子様が自立するまできちんと対応をさせていただいております」


「その辺りはあわせて地元警察にでもご確認くださればわかっていただけると思っております」


「ご寄付にしましても基本はお志で、まったく寄付がなくてもそれでお子様をお預かりしないとか、お預かりさせていただいたあとの対応に違いがあるというようなこともございません」


「本当に寄付も料金もかからないんだね?」


「あまり申し上げたくはないのですが、実際には大半の事例でご寄付も全くいただけていないのが実情です」


「わかった、しかしあんたの施設が本当に怪しい団体じゃないのか確認させてもらってから決めたい、それでいいかね?」


「もちろんです、私どもはいつでも門をあけてお待ちしていますので、何か月、何年かしてからでもお困りの際にはご相談ください」


親戚筋の者たちは話の終わりのころにはすっかり少女を厄介払いをしたような表情になっていた。


楽名と名乗る男は話が終わると少女に会わせてほしいと言った。



「こんにちは安奈ちゃん、おじさんは楽名というんだ」


「君はもうすぐ私のところに来ることになる」


「そうしたら君はもう今までの君じゃなくなるんだよ」


「安奈ちゃん。 私の施設に来たら名前も変えよう」


「もう安奈じゃない」


「私は知っているよ、君はもう安奈ちゃんでいたくないってね」


「なぜ横断歩道を渡らなかったの?」




「こわかったから」




「やっぱりそうか、怖いよね、動けないのはあたりまえだ」


「怖いのはご両親のことだけではないよね? 」


「だけど私のところにくれば君は新しい君になる、もう内田安奈じゃない」


「だから一郎君が死んだのも、ご両親が亡くなったのも君のせいじゃない」


「お父さんも一郎くんも、もう死んでしまった」


「天罰が下ったんだ、神様はどんなことも知っているからね」


「君は知らされただけなんだよ、君が何かしたわけではない」


「いつか君はもっと大事なことを知らされるようになる」


「そのために君は神様から遣わされたのだからね」


「今までのことはそのためにあったんだ、だからは君は何も悪くないんだよ」


「おじさんは君のような子を探して日本中を旅しているんだ」


「君は私のところで巫女になる。神様のために私と一緒に暮らしていこう」




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