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黄昏のミリアム  作者: 雅流
幽霊の館
18/33

ホーンテッドマンション

大きい以外にはとりえのないオンポロのレンタカーの助手席から窓にはりつくようにして少年は町の様子を窺っていた


「ねえミコ、デトロイトって大都市だって聞いてたけど、この町って本当に生きているの」


サングラスをかけ長い黒髪をポニーテールのように無造作にまとめた女はハンドルを握ったまま前方から視線をまったくそらさずに答えた


「リョウタ、デトロイトは人口68万人。れっきとした大都市よ」


「でもまあ最盛期は185万人だから、人口が1/3になってしまったという意味では死にかけた町かもしれないわね」


「市の負債は1兆8000億円、こっちはもうとっくに死んでる数字ね」


「だから市内はどこもかしこも空き家だらけ、ゴーストタウン化して治安は最悪」



「ねえミコ、あの巨大な幽霊屋敷みたいなのはなに」


「地図にはなんにも書いてないんだけど」



「あれはミシガンセントラルステーション。 というか、だったところ」


「とっくに廃駅になったけどね、まあ死にかけた町の象徴みたいなものかもしれないわね」


「なんだか、どこもかしこも気味が悪いよ、本当に大丈夫なのミコ」


「預言ではヤバいことが起きるんでしょ」


「そうね、知らされた通りなら、普通なら私たちは殺人事件の被害者になってしまうかもしれない事態ね」


「だけど平気よ、そのために君を連れてきたんだから、リョウタ」


「そのためにって言われても、こんなところに連れてこられたくなかったな」


「拳銃で撃たれたりとかしたら、どうしようもないよ」


「大丈夫、私たちはここでは死なないことになっているから」


「それよりも早く、そのホーンテッドマンションだかなんだかの住人を見つけましょう」



「そろそろ、目的地はこの辺りのはず、ちょっと降りて誰かに聞いてみましょう」


「いくらゴーストタウンだって言ってもね、本物の幽霊屋敷だなんて聞き込みすればすぐにわかるはずよ」


「なんだか、あんまり降りたくない感じの場所なんだけど」


「男の子でしょ、びびってないで行くわよ」


黒髪の女はそう言うと運転席のドアを開けて、車の外に出た


辺りを見回しても荒れはてた空き家ばかりが点々と並んでいるだけで人の姿はまったく見当たらない


リョウタと呼ばれた少年は黒髪の女の半分ほどの身長しかなかった


ひょろりとして青白い顔いろをした、いかにも引き籠り児童という感じの子供だ


二人はとぼとぼと町の中に人の姿を探しながら並んで歩き始めた


最初に気配に気づいたのは少年のほうだった


後ろを振り向くと大柄ないかにも愛想のよくなさそうな黒人の大男が二人立っている


こちらを見ながらじっと立っているだけだ


あわててミコと呼ばれた女の袖を引っ張るが、女は振り向こうとはしなかった


数人の黒人がニヤニヤしながら前方からこちらに向かって歩いてくるのを見ていたからだ


女と少年はゴーストタウンで、雰囲気の悪い連中に前後から挟みうちにあったのを理解した


男たちは慌てる様子もなく前後からゆっくりと迫ってきていた


黒髪の女が突然、大きな声で叫んだ


思いがけないデトロイ訛りの蓮っ葉で流ちょうなスラング混じりの米語だった


「そんなに警戒しなくたって、取って喰いやしないよ坊やたち」


「ちょっと聞きたいことがあるだけ、このあたりに幽霊屋敷ってよばれてる家があるって聞いたんだけど、どこだか知ってる」


いかにも観光客風のアジア系の女がスラング混じりのデトロイト米語を使うのに男たちは驚いた素振りを見せたが、それも一瞬だけのことだった


「姉ちゃん、この辺りじゃ俺たちに質問する奴はいないんだ」


「質問するのは常に俺たちのほうだからな」


「それにこの辺りを歩くには通行料がいる、そうさな二人で500ドルだ、安いだろ」


女はまったく怯まずに言い返した


「そうかいそれなら話が早いね」


女は財布からドル札の束を抜き出して、左腕をふり紙吹雪のように札びらをばら撒いた


「さっさと取りな、幽霊屋敷はどこだい」


そう言いながら背中に忍ばせていた護身用の折り畳み警棒を引き抜いて、勢いよく振り下ろして伸ばした


男たちはその様子を見て薄笑いを浮かべた


「姉ちゃん、悪いが、それじゃあダメだな」


「この町は俺たちの町だ」


「だからこの町に一歩でも足を踏み入れたら、もうあんたの金はその時点で全部俺たちの金なんだよ」


「あんたが今ばら撒いたのはあんたの金じゃない、俺たちの金だ」


「だから通行料は現物で払ってもらうことになってる」


「そうさな、あんたの体はちょっと貧弱だが顔は悪くない、俺たちが一発ずつ相手をしてやるよ」


「安心しな、この町じゃあ売春は合法だ」


「そうだな一発50ドルが相場ってとこかな、俺たち5人で250ドルか、いい稼ぎになるな姉ちゃん」


「だけど通行料は500ドルだからちょっと足りないな、しょうがないから一周終わったらもう一回ずつ相手してやるか」


「俺たちのはビッグだからな10回やったら忘れられなくなるぜ、こっちが50ドルもらいたいくらいだ」


「あそこはガバガバになっちまうかもしれないけどな」


大男たちは一斉に下品た馬鹿笑いをした


正面から向かってくる一団の先頭の男は黙ってサバイバルナイフを腰のあたりから引き抜いた


それが合図だったのか5人の男たちはそれぞれに潜ませていた刃物を取り出していた


その様子を見て少年は怯えたように屈みこんでしまった


デトロイトの町は静寂に包まれている、屈みこんだ少年から発せられる経文のような呟きだけがその場の音源だった


前方から歩いてくる団体の先頭の男がいきなりサバイバルナイフを振りあげた


まだ女たちからは10mも離れた場所だった


男はいきなりサバイバルナイフを振り下ろすと自分の右の太もものあたりにそれを突き立てた


「ぎゃっ」


自分で突きたてておきながら男は盛大な悲鳴をあげてのたうちまわった


他の4人の男たちは何事が起きたのか理解ができず、あっけにとられていた


屈みこんでいた少年は起き上がると、後ろに向き直り迫ってきていた二人の大男と対峙した


その直後に二人のうちの片方が先ほどの男とまったく同じように自分の太ももに刃物を突き刺した


残った三人の男たちは気味悪そうに青白い少年を凝視した


少年の横で女がまたデトロイト訛りで叫んだ


「こいつは悪魔に憑かれているんだよ」


「こいつに憑いている悪魔はこいつが死ぬのを望んでいない」


「このままだと、あんた達みんな死ぬことになるよ」


残った三人の男たちはその言葉に明らかに怯んだ様子を見せたが、なめられたら終わりという生活習慣のほうが勝ったのだろう


一瞬の後にはまたじりじりと女と少年に近づき始めた


いきなり三人のうちの一人が手にしていたナイフで自分の喉元を引き裂くように横に振った


周囲に盛大な血しぶきが舞い、男はその場にそのまま昏倒した




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