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黄昏のミリアム  作者: 雅流
抜け殻
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抜け殻

「わざわざ地域限定ではなくて都市部在住の方々を対象として東北で養護老人ホームを運営するのは単なる箱としてのホームではなくて、関係人口を増やすことによって都市から地方への人の流れを創り出す試みなのです」


「関係人口をいかに増やしていくかということが地方活性化のカギだということですね」


養護老人ホームの職員の説明は滑らかだった


きっと、もう何十回何百回と同じ説明をしているのだろう


聞きたいのはそんなことではなかったけれど、話の先を即すために私は興味ありげに質問を続けていた


「関係人口の増加といっても養護老人ホームの収容人員数ではたかがしれているのではありませんか?」


「このホームは入れられる養護施設ではなくて、はいりたい終の住み処をコンセプトにしています」


「なのであまり重篤な、いわゆる寝たきりの方を介護するような施設ではないのです」


「それなりに元気で残りの人生を楽しく過ごしたい、そういう方々のコミュニティーとしての場を提供しています」


「そうしてそういう方々のご家族や知人の方が週に何回かは会いに来られる」


「そういう関係人口の増加を機会と捉えて、この自然の美しさや人間性の開発をアピールしていく」


「もうすでに意識の高い一部の方々の間ではリモートワークによる脱都市社会の動きが始まっています」


「そういう人々の興味を惹きつけ、インフラを整備してリモートワークに適した環境を提供します」


「その流れが本格的に始動すれば東京から地方への新たな人の流れが生まれ、地方にオフィスや住宅などのインフラも整備され空き家や廃校なども再活用されるようになるでしょう」


「新たな関係人口が地方の担い手となり、多面的な経済効果が期待できます」



もう退屈な説明は十分だった


溜息をつきたくなるのを押し殺して私は相槌をうった


「それは壮大で素晴らしい構想ですね、期待していますよ」


私の熱のこもらない相槌で商売にはなりそうもないと感じたのだろう、説明員はそろそろ説明をきりあげようというように頷いた


私は最後にここに来た目的であり本当に訊きたかった質問をしてみた


「以前の理事長、楽名さんと言いましたっけ?」


「辞任されたということですが、どちらかにお移りになられたのですか?」


「以前はNPO法人で、白石市の元市長なども直接支援されていたと伺いましたが?」


「現在は事業売却されて貴社グループの営利事業として行われているのですよね? 」


「何かうまくいかなくて売却されたということですか?」



説明員は露骨に不愉快そうな顔をしたがそれでも質問にだけは答えてくれた


「人間性の開発と地方創生というキーワードはかわらないと思いますよ」


「より資本力があり実現可能性の高い母体として当社グループが意志を引き継いだとお考え下さい」


「前理事長は今どちらにいられるかご存じですか?」


「いえ私がこちらに来たのは買収後のことですし、NPOの役員の方々のことはまったく存じ上げません」



これで四つめの施設だったが、まったく収穫はなかった


孤児院、引き籠り児童を受け入れている民間学校、以前は大変な賑わいだったという神殿と呼ばれていた集会場


楽名という人物を中心とした集団が始めた地方創生の試み、正確には地方創生の試みとは本人たちは誰も言っていなかったが


その熱を帯びた活動はあっという間に口コミで全国へと広がり、多数の人びとをこの田舎町へといざなった


そこには確かな希望の光と人の輪が存在していた


そしてそれはなぜか突然に終結した


楽名とよばれる出所不明の人物はどこに消えたのだろう


元市長であり預言者とも言われる巫女、天才ピアニストの三池沙耶、そして全国から集められた数十人の孤児たち


それらはこの地方から忽然と姿を消し、その行方は誰も知らなかった


本当にこのプロジェクトはとん挫したのだろうか?


そうは思えなかった。


誰に聞いてもこの地域の活性化は順風満帆だったとしか思えなかった


生き神とよばれた楽名という男がその使徒数十人と一緒に突然いなくなるまでは


なぜこんなことになったのだろう


ピカピカに磨きあげられた窓、高そうな音響機器から流れ出しているクラッシック音楽の柔らかな響き


能面のように退屈そうな表情でそこに集う人々



魂の抜けた、まさに抜け殻のような空虚な世界がそこには残されていた



これではとても魅力的な記事にはなりそうもないな


私はこの日なんど目かの深い溜息をついていた

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