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人生二回目! ――氷煙の騎士と火焔の神子――  作者: みゃ~うち?/宮内桂
9/13

(8)廃墟の村での攻防戦①

5月も半ばとなり。

 マスコミたちに「蜘蛛の端末の一件が、リークされる」といった事があったものの。その件はある種の報道規制を公爵名義でなされ。表面上では穏やかな日々が続く。

 「言い含められ」、しぶしぶ引き下がったマス「ゴ」ミ瓦版(ニュースペーパー)の記者たち。

 今彼らも、大したネタではなかったのかよ、と他のネタ探しに奔走し始めた頃。


 天馬城市内のとある飲食店にて、その会合は、なされた。

 お昼過ぎ。くもり。

 曇り空でも、その店の外観は映えた。

 外壁はビスケット風。屋根は板チョコを摸しているのか? ところどころアクセントに半透明で色とりどりな砂糖菓子をかざって。

 お菓子の家。会合には場違いに思えるが。

 奥に数室の個室を備えている為に、こういった密談めいた会談に向く。

 そういうのが、経営者の老婆の判断だ。


 会談の主役はまず一人、老爺(ろうや)

 旧大陸フォレスト国仕込みの山高帽に、ネクタイ背広姿が似合う。これだけでも異国人と分かるのだが。

 異質なのはその肌。

 浅黒さを通り越し、土気色した肌は不健康そうに見えるが、地の肌色だから仕方ない。

 小柄な体躯と相まって、破落戸(ごろつき)に鴨にされそうだが。見掛けにだまされてはいけない。そう思わせる危険なナニカが。彼にはあった。


 その老人が予約した店に入り、しばらくして。若い男女の二人組が現れる。

 少女の方は終始満面の笑顔で、嬉しそう。

 最近流行りの宝石模した人工透明樹脂(プラスチック)の髪止めを、セミロングの髪に飾り。

 黒髪に小麦色の肌に、黒い瞳。

 真っ白なワンピースにサンダルとお洒落な出で立ちだが、肌の色から新大陸の原住民(ネイティブ)だと分かる。

 でもこの国リーブスでは、違和感は無い。

 ただ清楚な出で立ちの中に、やや不似合いなものをただよわせていた。色気? それも、まるで食虫植物の様な?

 

 一方の相手方の男性は長身。鍛え抜いているのは、直ぐ分かる。短髪。男くさい顔立ち。

 加えて腰の剣――片手半剣の(つば)の根元に、金と銀の輪っかが二つはまる。

 この状態は、青年が正騎士試験に受かって、研修中の従騎士である事をあらわす。

 そんなことが分かるのは、騎士団関係者か一部のマスコミか、よほどの騎士マニアかだが。

 長身、不敵な笑みが似合いそうな男前だが、やや憮然とした態度がそれを台無しにする。

「旦那さま♪」

「止めてくれ、俺はそちら関係から身を引いたんだ」

「でもでもお。ワタシにとっては、旦那さまなんですよお」

 やや粘着性な物言いに、さらに憮然さを増しつつ、店内に。

「「「若旦那と若奥方さまがお帰りになられました~」」」

「あらあらあ♪」

 青年騎士、こめかみに血管浮き立たせつつ。

 忙しさに理由に。店予約をコイツに任せるんじゃなかったと後悔しつつ、我慢ガマン。

 冥土……もといメイド喫茶が会談場所になったのは、サマンサ女史の店だから仕方なく。

 サー・オーガスト・スミス・ラインは、色々飲み込んで会談に挑む。

                                ◆◆◆

「なんでも好きなモノ頼んでくれ! 今日の支払いはラインにせよ査察騎士団あてにせよ、財布のヒモはゆるいしな!」

 不敵な笑み浮かべつつ、店主の老女はそうのたまった。

 剣士の青年は苦笑しつつ、答えを返す。若奥様をきどる少女は、にこにこと微笑み静観する様だ。

「今日のはペガサス公払いですよ。査察も俺んもそうそう好き勝手気軽に予算使えるほどでは無いんでね。

お久しぶりです、グランマ。エド小父は先日ぶりですね」

 帽子を脱いだ頭ははげ上がり。残った髪を剃りきってスキンヘッドにしているのが潔く。

 肌の色と少し耳朶が尖った耳も有り、人と言うよりは子鬼ゴブリンにも見える男――エドが答えを返す。

「そうだな。オーガスト殿とは先週の県人会以来。グランマ、昼食を食べ損ねたのでな。

 我は魚介類の生臭さが苦手ゆえ、マリネなど避けて腹に溜まる物をお願いしたい」

「けれども、エド小父はオイルサーディンや魚のパイなど大丈夫だったですよね、先週の会合では」

「火が通っているとそうでもない。ただな、我……と言うか我らゴブリン氏族は生魚を苦手とする者が多い。

逆に海沿いの遠縁は、獣の肉を苦手とする傾向にある」

「あいよ。リズ~っ! ちーっと注文取りに来ておくれ」

「はいはい~~っ!!」

 サマンサ女史が扉開けて、厨房に向けて指示を投げると間髪入れず元気な声が返る。

 カツサンドにローストビーフサンドなど重めの料理に、香り立つ紅茶のポットに、少しのお茶菓子。

 甘味の類も余り得意で無いエド氏の好みを重視された、チョイス。

 三種三様プラスわん。無言であるが、和やかな空気の中、遅めの昼食はとどこおり無く進み。

 会談の本題は、文字通り食後のお茶の和やかな中、切り出された。

                                ◆◆◆

「サマンサ女史、サー・オーガスト……で良かったな? 正騎士位ナイトに正式に叙勲されたわけだし」

「はい、姫に任じて頂きましたから。まだ休暇中の身ではありますが。銀の輪っかが外れるのは正式な着任のあとになりますが、ね」

「で、エド。アタシの店でわざわざライン家の坊主ボンまで呼んだってのは、かなりヤバイ案件ってことかい?」

 単刀直入に切り込む大魔女。

 ストレートさに苦笑しつつ、紅茶のカップをかかげてみせる初老の男。

「ダイナゴンの欠片が、このペガサス領に持ち込まれたそうです。その反応があったと7セブン・ジーからの緊急連絡です」

「っ! また突然だね。クモの端末の件に加えて危険度が上がる。……いやそれに関連して……るってことかね?」

 不作法にも着座するテーブルの上で両肘ついて。その手を組み合わせ、その拳の上にあごを載せただらしない老婆。

 その姿も不思議とさまになるが、その表情は苦い。少し黙考し、言葉を継ぐ。

「ボン、ダイナゴンに関しては大まかにヤバイものとしか知らないんだ。説明出来るかい?」

「俺は人づてにしか知りませんが、それでよろしければ。……お二人は『いさらづ』っていう旧大陸極東の国をご存知ですか?」

「我は氏族のあがめる神獣方の生まれ故郷とも聞くが、源華帝国のさらに東の島国とか」

「いさらづかー。またややこしそうな話になりそだね」

「大まかにはご存知ですか。いさらづ国内では魔素マナの濃度が濃過ぎ。その地ので魔獣や神獣は、力のランクは数段上。

ダイナゴンとは、その地での大魔獣の名です。

 元々は『大納言』という位であったいさらづ貴族の将軍が、直々に討伐に出向き、返り討ちにあう。その際にその大魔獣に

 その貴族の位が冠されて『大納言』となったと聞きます。巨大な鳥の姿をしているとの事ですが――」

「ちょい待ち! アタシが聞いてたのはスライムの出来損ないつーか、能力的にスライムの上位互換版って聞いてたよ?」

 女店主のさえぎりに、特に不満顔しないで。青年騎士は、むしろ当然と思っていたらしく、こう返す。

「それも間違いでは無いんです。やっかいな事にね。――」

「うむ、知性は無いスライムに似た姿。あらゆる生き物を飲み込んで、取り込んだその性質を十全に使い切る化け物だったか?

セブン・ジーの話だと、一番馴染みやすい形態だから巨鳥の姿を取るとか」

「そうです。あと巨鳥の形態だと、極めて高度な知能を有している可能性が高い。で、エド小父。

セブン・ジーのバカは、他に何を伝えてきたんで?」

「ペガサス領数か所に反応があるが、アウリガの廃村付近がこころもち、その反応が濃いと。

可能な限り最大級戦力で持っての調査活動――威力偵察を進言すると」

 それを聞いて、「サマンサ女史の事情を知る」オーガストは思わず老婆の方を見てしまう。

 サマンサ・スカーレットはこれを聞いて、大仰に肩をすくめて見せた。

「しゃー無いさね。で、ボンよ。一つ聞きたいんだが、サルベージされたアウリガのマキーナは?」

「まだウチの『倉庫』で修復中ですね。完全稼働まであと一年はかかりますよ。

さきに言っときますが、マナ・スタンドのアンコモン・アビリティとヒーリング&リペアのアンコモン・アビリティのコンボで、時間早めた結果でこれですからね」

「や。それは分かってるよ。……となると、公爵閣下やアンタ自身を送り込んで戦力補強する段階でも無いっと。

で、アタシは引退してるしねー」

 歴戦の女傑の意味ありげな視線に苦笑を返しつつ青年騎士はこう返す。

「うちの『倉庫』の武器を貸し出しますよ。そのくらいなら議会の横やり入らないでしょう。金持ち騎士が寄付をする。それは良くあることです。

 まっ、俺んはせいぜい小金持ちですがね」

「それに関しては、微力ながら我のふだを二十枚ほど提供する。

下準備には念には念をの精神は、我も同意するところではあるが。

 ところでお二方、まぼろしの剣士殿と、紅蓮の炎の神子殿が居ると聞く。守護星座も同一。戦力的には元々十分ではないか?」

「あー、それに関してはさ」

 なんでもストレートに切れ込む老母的には、やや歯切れの悪い言葉が返り

「あの子はまだ踏ん切りはつかないのさ。決断力に欠けるっていうのか。まぼろしの――サー・レイクの方は、実力も人格も十二分なんだけどね」

「それとサー・オーガスト。確証が薄い話らしいのだが、地縁の濃さゆえに7セブン・ジーからの緊急連絡がまぼろしのか、神子あてなら届くかもとの事だ。

参考になれば。ただあまり保障出来ないとも」

「有難う御座います。確実に相棒に伝えておきます」

 そう答えつつ。秘書役に徹してずっと黙していた現地民ネイティブ少女を、騎士は見やる。

 ニッコリ。

 その満面の笑みに、少し背筋に寒気を生じ。

 少女は何も言わずに両手を合わせた。しばし置き。その手を開くと、半透明の生き物めいたモノが、そこに居た。

 蝙蝠こうもり

 その力素オドで編まれたコウモリに、少女はキスを落とすと、かのモノは飛び立つ。壁を容易にすり抜け天に舞う。

 ネイティブ系のスキル持ちの使うアンコモン・アビリティの、メッセンジャーだ。

 程なく彼女の部族の若長の元に、この会談の結果が過不足無く伝わり。

 若長経由で門番騎士団に、公爵閣下に、そしてレイク宛てに直接連絡がいくだろう。

(コウモリにキスなんて、これみよがしに雰囲気だしやがって)

 オーガストはしかめっ面。アビリティ発動に「使い魔にキス」なんて手順は無い。断じて無い。

(さて、会合を抜けたあとが問題だな。今度はどんな手を使ってくるか……ね)

 元現代人で社会人だった彼が報告・連絡・相談のいわゆるホウレンソウの大事さを知っている。

 ゆえに、効率優先で懇意にしているかの部族に助力をもとめたのだが。彼女が来たのは想定外。

(俺は……彼女の処女を死守せんとな!)

 彼の心の決意は、意味不明過ぎたが

(まだ俺は結婚する気が無い。いや、それ以前になし崩しなのは、納得いかん!!)

 そのあとの部分でおおよその、この二人の関係性が想像できると思われる。

 端的に言うと、オーガスト君、貞操の危機!


 サー・オーガスト・S・ラインは、この日何とか彼女の貞操を守り切ることに成功した。かろうじて逃亡に成功した結果、とも言い換えられる、まる。


明日のこの時間に②を掲載します。

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