ネクタイと匂い
ニコニコと笑う翁に藤太も、
「んじゃ。あとは《自己紹介》の文だw まぁ、なんだ。無難にしておいて。後で改めて書きゃやいいさwwww」
そう肩を竦めて、そう言った。
3 ドーナッツ:《自己紹介》
「無難な、文ンん?? って、言われてもなぁー」と翁もボヤいた。
肉まんを1人で頬張り続けた。結果として、箱の中の肉まん4個は。
翁の胃袋の中に消えてしまうのだった。
「んじゃあー……
――4月に入社した新人です! 3週間後には現場に出動すると思いますので、よろしくお願いします!
好きなものは可愛いものです♡ 今はラッコの人形が1番可愛いっ!――
って感じで。いいですかぁ?」
ハートの絵文字に藤太は口をへの字にさせた。趣味をどうこういうつもりはない。
だが、あまりに可愛い文で。26歳の男のものとは思えない。
(これ。どうなのw 勘違いされちゃわない?wwww まぁ、俺じゃないもんなぁw でも。ダンマルちゃんがどう思うかだよなぁ)
どうでもいいとか、自分のじゃないし。などと藤太も思うのだが。
「そこにさw 既婚者です♡ か、新婚です♡ て一文書いてもらってもいいかなw」
後々の、弟からの嫉妬で。めちゃくちゃにされそうに思い。
可哀想だしと、声を掛けた。けん制と、所有物の証拠はあった方が。
ダンマルも、納得がいくだろうと。
「ぅえぇえー~~……それってぇ。弟さんの対策か、何かですかぁ?」
藤太の思惑を察した翁も。
嫌々に聞いてしまう。
「そゆことw 案外、鼻が利くねwwww 義理の嫁ちゃんは♡」
藤太の言葉に表情を崩し。口を突き出す翁。
自身のような男を《弟の嫁》認識する藤太に困惑しかない。
――今日、結婚しました♡ お仕事頑張るぞいっ!――
「……で。いいのぉう?」
「上出来w 上出来wwww」
手を叩き誉める藤太に、
「そぉうですかぁー~~」
不貞腐れた返事をする翁であった。
「そんじゃ。第一声、書いてみようじゃないかw な?」
鼻先で大きく息を吐くと。
*すたぁ~*:寒い日の肉まん、ぅんまい♡ さて、おやすみなさい♡
「っん」
「まぁ、そういう無難な呟きでいいよw 俺もフォローしとくからwwww さて。帰るか――あ! 忘れてたっ!」
立ち上がろうとした藤太だったのだが。
宙へと手をやると、掌にどこから来たのか紙袋が置かれた。
「? もぉう、肉まんは要らないですよ? デザートは欲しいですけど」
それを机の上に置くと。
中からビニール袋に入れられた《ネクタイ》を取り出した。
「ネクタイ、……ですね?」
「ああ。あンたの旦那の私物さ、匂いもたっぷりと染み込んださwwww」
「要りません! 気色悪いなぁ」
怪訝に言う翁に藤太ははっきりと言う。
「匂いに慣れろ。じゃねぇと今後、ダンマルに会ったとき、エライ目に会うぞ? 女のように組み敷かれてぇか? 嫌だろぉ~~うwwww 鼻先を麻痺させんだよ。匂いがなくなったり、薄れたら新しいのを送ってやるから。DMでも送って来いよ♡ 仕事、したいだろう?wwww」
藤太の言葉に翁も力強く頷き。
ネクタイの入った紙袋を受け取った。
「したいですけどぉ。麻痺って? ちょっと、意味が分かんないですがぁ」
「そっかw そっかwwww」
にこやかに藤太はネクタイを一本を取り出すと。
ふわっ――……
「!? っぐ!」
一気に空気に何かが混じったと翁は感じた。
同時に心臓が高鳴り、脂汗が浮かび。力も抜けて来た。
あっという間の出来事。
身体が床に倒れ込んでしまい、視界が宙に浮かぶ蝋燭を映し出す。
「っは、……っは、……藤太さぁんンん?っ!」
翁も、驚きに藤太へと助けを求めたのだが。藤太はといえば。
ネクタイを翁の鼻先に持って来た。
「!? ゃ、っだ! ってぇええ~~っ‼」
顔を背けてネクタイから顔を背ける翁。香る匂いが、より胸を高鳴らせる。
高ぶってきてしまう――股間に。翁も堪らなく悔しかった。
身悶える翁の首に、ネクタイを括り締めた藤太が身体を離した。
「そうやって。ずっと身につけて出勤しときゃあ、鼻も慣れるだろうw」
頭を撫ぜる藤太の顔は優しく、兄弟の顔になっている。
ただ、ほんの少しだけ申し訳ないとも思うのか、表情は暗い。
「慣れる、とか。身体自体がぁ、動かないんですけどぉおぅう?!」
「だぁ~~からw 慣れるまでの我慢w 我慢wwww」
笑いながら親指を立てる藤太に、
「無理ぃいい――~~っ!」
翁も絶叫をしてしまう。
「はいw はいはいっとwwww」
大粒の涙を流す翁に藤太もネクタイを外した。
そして、ビニール袋へと格納をする。
「っは! はぁー~~はぁー~~っっっっ‼」
勢いよく上半身を起こした翁。
真っ赤な顔に、
「そんなに気持ちよかった?w ダンマルちゃんの匂いwwww」
からかうように藤太も聞く。
「ちっともよくなんかないですよ?」
目が眩む程に。気持ちよかったのだが。
それをいうのも、認めるのも嫌だった。
「そっかw まぁ、慣れるまで頑張ってくれよ。んじゃ、帰えるわwwww 夜分に済まなかったね」
「あ。じゃあ《骨壺》まで一緒に――」
【00:00:00】
『パパ! パパ! 翁さんンん!』
「ふぇ??」と翁もカグヤの声に目が冴えた。辺りを見渡せば真っ暗だ。
そして、今、床の上にいるのが分かる。
『いくら暑いからって、床に寝るなんてっ。ベッドに戻って下さい!』
「あれ? 藤太さんは??」
『? 誰ですか?? ああ、尾田ダンマルさんのお兄さんですか? ……夢でも見ていたんじゃないですか?』
素っ気なく言い放つカグヤに、翁もベッドに戻った。
確かにいたのだが、カグヤは知らないようで。
「……夢。だったのかなぁ?」
そう呟きながら。翁は目を閉じるのだった。




