翁と荒波
地球国籍同士での《決闘》、もしくは諍いにて。
両者が怪我を負うか、万が一に死亡した場合。
怪我も治らず、《再生》は行えず。
その状態のままとなり。
《殉職者》となる。
◆
倉庫が開き、救出された翁。
辺りは騒然となっていた。
それは、翁が地面に並べた頭部であった。
救出に来た救援部隊が横目で、疲労困憊で壁に寄り掛かった翁を。
猟奇的殺人者のように伺い見ている。
だが、その視線を翁が気づくこともなかった。
聖ヴァイラスによって両目の眼球を潰された。
なのに、そのあとに。
◇
『《万翼の戒眼》を与えてやろう』
◆
翁の両目から、何かが生えていた。
しかも、視界は万華鏡。
虫視線のようで、少し気持ちが悪いものだった。
意味も分からず、知りたいとも思えずに翁は項垂れる。
「あなたが、……尾田ダンマルさんですか?」
「? あー~~……誰?」
声は少女のもので、涙声でもあった。
顔を上げた瞬間、
「教えて下さい」
両頬を彼女に――千鳥によって掴まれた。
角度も固定される翁。
「夫は、……牛男カズマは活躍しましたか?」
万華鏡の視界に映し出されたのは。
泣きじゃくった、臨月の千鳥。
「苦しまずに、……死ねましたか?」
強張った声で訊かれた翁は、どう返すか考えるよりも。
「分かんないです。気を失っていて、……見ていないんですっ」
正直に千鳥に言い返した。
「見てないんですぅうう~~‼」
翁の悲痛な叫びに千鳥も手を離した。
項垂れてしゃがみ込んでしまう。
「この子に、……何て言えばいいですか? 父親がどんな人だったか、どんな死に方だったのか。なんて、応えたらいいんです? 教えて、下さいませんか? お願いですからっ! 思い出してよぉうぅうう~~‼」
顔を両手で覆って泣き出してしまう千鳥。
そんな彼女に応える答えもなく翁は立ち上がる。
「ごめん。分からないからっ」
壁を伝い、翁は歩き出した。
その様子を誰も気づくこともなく。
翁は倉庫から姿を消した。
◆
同時に社内メールにて一斉に通達された。
それは勤務によっての負傷者、及び、死亡リスト。
・獅子唐 芥子(28) :頭部意外の遺骸消失により死亡理由は《不明》
・戸次 あすな(31) :頭部意外の遺骸消失により死亡理由は《不明》
・花菱 七々緒(19) :頭部意外の遺骸消失により死亡理由は《不明》
・牛男カズマ(???) :頭部意外の遺骸消失により死亡理由は《不明》
・アウター=ゾオイ(???) :今回の一件の首謀者との特定。全身の骨の粉砕及び、筋肉の捻じれ。生きたまま炎に焼かれた、数分間。もがき苦しみ絶命した模様。同時に第三者の、《異人》との癒着、共犯があったと予想される。倉庫に足跡と、皮膚の断片を回収。追って、随時情報公開とする。
・尾田ダンマル(19) :今回の隊の中の唯一の生存者。4日間の自宅謹慎行為に背き、倉庫への商品確保の関与。1週間の自宅謹慎の上、本社への出頭にて事情聴取を行うものとする。
◆
「早く、帰らないとっ! ジュースも、買って! っくぅうう~~っっっっ‼」
目は気がつけば視界が戻っていた。
しかし、身体はいうことを訊かず。
「もぉうぅ~~ぃ、やっだぁ~~‼ どぉして、おればっかなの!?」
泣き言を漏らしてしゃがみ込んだ翁に。
「それはこっちの末の弟の台詞だと思うけど?」
また、誰かも知れない男が声をかけた。
だが、末の弟という言葉に、翁は息を飲んだ。
「ぉ、尾田、……ダンマルさんか。の家族の方、デスカ??」




