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簡単に傷はつくのだから

 右も左も。

 見えるものも、聞こえるのも。

 何かもが同じとは限らない。


 なぁ、そうだろう?


 兄弟。


 ◆


(っな、何時っだぁあ!?)


 腕時計を見た百目鬼を、

「何? なんなんだよー空気読めよー空気ー」

 堤が諫めるように言う。


「こんなに愉しいときを、針の確認なんか野暮ってもんでしょう♪」

 

「そうそう! 本当に空気嫁って感じだなぁw あンたわさぁ~~wwww」


 堤に乗るように藤太も。

 腕を組んで頷いた。


(なんなんだよっ、藤太ぁああ!)


 内心、藤太にブチ切れの百目鬼。


「でも。そろそろ、お開きにしないとw 堤さんwwww」

 藤太が堤に口を開くと、

「まぁ。時間も、状況も経っているだろうし……」

 堤も、残念と顔をはにかんで頷いた。


「うん。仕方がない、かな♪」


 堤の言う【時間】

 堤の言う【状況】


 どちらの【経過】の意味など。


 それを分かるには藤太だけであって。

 そんな言葉の意味を。

 百目鬼も汲み取る事が出来ないのは当然のことだ


 彼たちが何を、待っていたのか。

 なんて、無粋なことは。


(この最低な奴ら、……なんか、俺を引き留めてないか? 気のせい、かな?)


 しかしだ。

 本当に空気の読めない百目鬼の勘が働く。

 それは、同僚であり友達となった翁のことのように感じたからだ。


(早く、帰りたいっ……帰らないとっ)

「あの。すんませんンん~~俺ぇ、便所に行きますぅ~~」


 股間を両手で抑えた百目鬼に。

 堤と藤太の目がかち合った。


「「行って良しっ」」


 飛び跳ねて百目鬼がトイレへと駆けた。

 そんな彼の背中に、

「あれ。帰る気だよねぇ」

「そりゃあw 鼻が利く犬なら、尚じゃないっすかぁwwww そちらさんの犬も、毛並みは違えど――」


「……私は犬を飼ったことはないよ。鯨ヶ浜君と間違っているね」


 真面目な表情で、目を細めて堤が睨んだ。

 それに藤太も肩を竦めて、赤い舌を出した。

「そいつぁ、っしっれいしゃしったぁ~~wwww」

 悪びれる様子もない藤太の態度に、

「でも。いい犬の素質はあるのかもね、あの子は」

 頭を掻いてほくそくんだ。


「そりゃあ~~躾次第っすよw 堤室長さんwwww」


 っだっだっだっだ!


 百目鬼はトイレを通り越して。

 散乱するモニターの破片を踏みつけて走り続けた。


 大騒動だったのもつかの間で。

 気がつけば、賑やかな空間が戻って来ていた。

 それには(っぱ、ねぇええ♡!)と百目鬼も苦笑する。

 

 ドン!


「っだ!」


 よそ見をしていた百目鬼が。

 何かと肩がぶつかってしまう。

「っご、ごめん――」

 顔を上げると、そこには。


「「どこのトイレに行く気だったのかな??」」


 満面の笑顔を向ける。

 堤と藤太が立っていた。

「――……っだ、ぅ」

 茫然とする百目鬼の肩を藤太が叩いた。


「ぅ、っひょぉうぅうう‼」


「笑かすなw 時間切タイムアップれだw 送るよwwww」

「っほ、本当にぃ? 本当かぁあ?」


「ああ。嘘だぞwwww」


「!?」


 真面目な顔で、百目鬼の両方の頬を摘まむ藤太。

 顔面蒼白になってしまった百目鬼。


 ここで。

 彼の中に人間不信が生まれた。


 ――翁以外の従業員は嘘つきだ、と。


 それは些細な行為であったのだが。

 そこから溝が大きく割れて、

(いい顔して。いい答えを吐いて、ご機嫌を伺って、……様子を見るか)

 真っ白なものが染まっていくのは簡単だ。


 人格すらも捩じって。


「こら。藤太君、虐めないで。送ってあげなさい」


「っはぁ~~いwwww」


 たとえ事実を言っても。

 もう植えつけ、芽吹いてしまったものはどうにもならない。

 取り返しはつかないのだ。


 弱った心の、弱い場所を踏み荒らした行為は。

 後々、爆発をするのだが。


 後の祭りなのである。


「…………」


 ◆


「25時か。ちょっと、遊びに付き添い過ぎたなぁ~~プラス君wwww」


 藤太が運転席でご機嫌に喋る。

 だが、百目鬼は無言で窓の外を見ていた。


「怒るなよ。真面目な話しもすっから、な?」

「…………」

「どこまで誤魔化せたかは分かんねぇけどw あンたの同居人の翁ってのが俺の弟のダンマルとクリソツな訳だよ。だから、弟のダンマルちゃんって自己紹介をしたんだ」

「………」

 依然と沈黙の百目鬼に、藤太は続けた。


「その方が。あンたの大事な同居人にとって――……未来サキが残るから」 


 とても重い口調の藤太を、

(んな嘘ばっか、よく吐けるもんだわっ!)

 全く、百目鬼は信じなかった。


「多分、明日以降の授業で。習うだろうな、……頼むから、その後は――」


 声を震わせる藤太に、

「?」

 百目鬼が目を向けると、我慢している表情が見えた。


「翁の奴を1人にしてやってくれ、……優しさなんかをクソくらえだ」


 ◆


 そして、日本支部から。全異世界の従業員たちに。

 深夜、一斉に社内メールが送られた。


 未明のゲームセンター《MOO》の爆破事件において。

 彼の者が関わったとして。


 尾田ダンマル(19)の処分。

 4日間の自宅謹慎を与えるという文面と、共に。


 そして、異例の速さで与えられた。


 《腐滅のダンマル》の二つ名が。

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