団体行動に向かないタイプ
尊い者は何れにしろ失う。
尊い物は何れにしろ壊れてしまう。
失い、壊れても。
尊いからこそ――伏せるのだ。
◆
(距離感。半端なくない、か?? 翁ちゃん)
職員室から教室に戻ると。
賑やかだった教室内が、凍てついたかのように静かになった。
(そりゃあ。そぉだよ、おれたちなんかと一緒にいたかなんかないだろうよ……)
百目鬼の驚きに、翁もため息交じりに言う。
視線が針の筵。
視線がかち合えば、明後日の方向に。
または俯いていく顔と顔。
「嫌な感じだなぁー~~なぁ! 翁ちゃんっ!」
「そりゃあ! こうなるわ! 何?? お宅ってば、本当に馬鹿なの?!」
キレた百目鬼に翁もキレ返してしまうのだった。
そして、またまたと。
職員室:② 喧嘩両成敗 担当教員 室星剛太郎
「……だからな? 手前が大人になれってっ。子供に子供のように言い返したら、どうなるのかなんざ。分かりきったことなんじゃねぇのか? なぁ、馬場ぁ」
まさかの。
3分ももたずに、職員室に出戻ってしまった。
翁も、顔を垂れて力なく頷いた。
あまりにしょげた彼に、
「本当に。今日は、もう呼び出されない様に!」
傷のある閉じた左目を指先で掻いた。
問題があるとするならば。
「いや。うん、マジで春雨を呼び戻そうか? なぁ、そっちの方がいいのかな? なぁ、おい。おいって」
春雨という言葉に、
「ぃ、や! っだ、ダメっす! アカン、アカンっ!」
怯えた百目鬼が顔を横に高速で振った。
その様子に(今度から、このうたい文句でいこうじゃないか)と拳を握った。
ガラガラララ――……
「! ……翁ちゃん。待ってたんだ」
「ああ」
「なんで」
「あんな空気の教室に1人で行くよか、……マシだからさ」
「……かもね」
腰を浮かせると翁も立ち上がった。
のだが、どうにも。
「つぅか~~もぉう! 無理! 本っっっっ当に無理だってっばぁ~~‼」
すぐに腰を床に沈ませてしまう翁。
「ぅ、おぉう?? ぉ、翁ちゃん??」
顔を両手で覆ってしまう彼に、
「――ほら。一緒に行こうよ、翁ちゃんw」
百目鬼が頭を撫ぜた。
「う゛んン゛ん゛!」
授業:② ワルツ基礎 担当教員 室星剛太郎
――創設者でもある会長の出身地であり、同志でもある。
《異人》の為に設立したといっても過言ではない。
日本人の就職難に、異界での就職難。
氷河期の時代での出来事。
上手く歯車も噛み合って。――
「それによって。就職難も円満に解決し、以前の時代以上に。今は雇用者不足となっています」
その説明をして室星は。
あの2人へと視線をやった。
「!?」
(この曲、結構好きだなぁ。誰の曲?)
(ほら。このグループだ)
イヤホンを片耳づつにつけ合い。
喋る様子には室星も唖然とし。
「――~~っっっっ‼」
無言で黒板消しを放った。
ばっふん! と翁の顔に命中するのだった。
「っだ! また、おれぇええ?!」
「っか! っかっかっか!」
そして。
再び、咳き込むと。
「一番、前の席に来なさい! 百目鬼と馬場‼」
一際、大きな口調で呼んだ。
っざ、ァアアアア――……
空の天候も、朝の晴れ間が嘘のように。
大粒の雨を降らして屋根を叩く。
「で。どこまで言ったかな?」
「人材不足解消のところっすよー~~先生ぇー」
ニヤニヤとする百目鬼の口を、
「おい! 百目鬼君っ! っす、すいません。本当にぃいい~~っ」
翁が大慌てで塞ぐのだった。
「では。続きだ」
――日本支部・欧米支部。南米支部・欧州支部etc.
そして。
異界での支部も連なっている。
注文後、速やかに6人一組で、倉庫へと探索し確保に向かう。
その際に、これから授業でも習うことのなるが。
《変態化》をして職務に当たることとなる。
そして。探索、確保前に異人に会った際は《決闘》が可能だ。――
「怖がらせるつもりで言ってはいない。これはあくまでもおとぎ話しではなく、現実の話しだ」
ザワつく教室内。
辺りの空気も重くなっていくのが肌で分かる。
「ぅわ。超ブラックじゃん~~ネットって、あてになんねぇ~~」
「ほら見ろっ!」
「っか! っかっかっか! 俺、わっくわくしてきたぁ~~wwww」
「ドMかよ!」
最前席でのたまう百目鬼に、
「勝てるとでも思っているのかい? 手前は」
机をバン! と室星が両手で弾いて訊いた。
「伝説を生むには、勝ち続けるっきゃないじゃん? どうして、撒けることを前提に考えるの? 先生ぇ~~……臆病だねぇwwww」
ほくそくむ百目鬼に室星が首元を締め上げ。
「っが! ぉおぅううっ!?」
宙に持ち上げた。
「!? っちょ! っせ、先生っ‼」
室星の行為には翁も驚いた。
百目鬼を締め上げていく腕に手を添え、
「百目鬼は馬鹿なんですってっ!」
室星に訴えかけるように吠えた。
するともっていた百目鬼を翁へと放り捨てた。
「っわ! っと、とと!」
「休憩っ!」
興奮した室星が、教室をあとにした。
小休憩:① 百目鬼重 翁表
「だから。本当に頼むって……百目鬼君ンんん‼」
もちろんのこと。
中に残った新入社員たちは、2人を横目に固唾を飲んで伺い見て。
俯いたまま携帯を弄っている光景が広がっていた。
「はァ?? あンたにだって責任あんじゃん! 元はと言やぁあさぁ?!」
「……分かった! 分かったから! もういい」
口を大きく開けた百目鬼に、翁も言い返した。
(おれは大人! おれは大人っ!)