表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/163

4月から始まる不幸に

前作《グラビティ・ゼロ》からの新作小説です!

イメージソングはイトヲカシさんのOP【START】で、黒木渚さんのED【マトリョーシカ】て感じですw


 身体よりも大きなスーツに着られた出立ちの百目鬼(プラス)青年――19歳。


「っかっかっか!」


 今日のよりにもよって入社式のために数多くの年齢もバラバラな人でひしめき合う場所の、一番、邪魔な場所を陣取って、何を思ってか山の麓で高笑いをしている。


 出入り口のど真ん中で、ひと際大きく吠えた。

 

「新入社員共っ! よっおぉうぅうっく! 訊けぇええっ!」


 彼には意味があるのだろうが、他の誰もが危険分子と冷ややかに避けていくのは、決して見間違いなんかでもない。


 だが、百目鬼は気にしていない。いや、視えてなんかいない。いや、どうだっていいのだ。誰が自身を避けようが関係がないのである。そして、身勝手な彼が何を主張するかと思えば――……


「俺がっ! 歴史あるワルツ王国で伝説を作ってやるっっっっ!」


 若く、世間知らずだと知らせる夢を公言する。

 社会経験や現実を知る他にとってみれば、百目鬼の言葉は戯言でしかない。彼の様子は恰好の嘲笑の的でしかない。


「そしてっ! ハーレムを作るっっっっ‼ モテモテになってやるぅうう!」


 さらに一層と嘲笑と軽蔑の眼差しが浴びせられた。

 しかし百目鬼自身は悪い方向になど考えていない。むしろ考えていない。今に見てろ、という前向きな姿勢と感心するほかないのだ。


(熱い視線!)などと垂れ目が細められるほどだ。

 風に煽られて、右側に括られた大きな翼の髪留めも大きく揺れた。


「っか! っかっかっか!」


 パァン! パァンンンッッッッッ‼ と上機嫌な彼に浴びせられるのは、嘲笑や好奇な視線だけではない、

「ん?」

 車のクラクションが大きく鳴らされる。


 ワルツの外から来たオレンジ色の軽車が百目鬼に吠えた格好だ。これまでに何台か横を無言でいく車体は何台かあったのだが、クラクションも鳴らさす関わらずと過ぎていた。


「お宅、邪魔だっつぅのっ!」


 車体の(ウインドウ)が下ろされ、車内から道路の真ん中にいる百目鬼にオールバックの青年が顔を出して注意をする。

 

 まだ、このときまで。

 運転手の青年、翁(ハジメ)青年は思いもしなかっただろう。彼と今後も付き合いがあるなどと。


「あンたを俺の最初の友達にしてやろうっ!」


 百目鬼からの突如として友達宣言された翁は唖然と脳内も、状況に追いつかない状態でぽかーんと口も大きくなっていく。

 どうしてそうなるのか、と全くのちんぷんかんな状況に、脳内の整理もままならなくて口も大きく開かれたまま閉じられないでいる。そして、思いもせずに聞き返してしまったのが運の尽き。


「ンんん?? どうゆうこった??」


「んじゃま! 乗ってやんよ!」

 

 百目鬼の行動は素早かった。翁は何も返事をしていないというのに、鍵にかかっていなかった助手席を開けている座ったからだ。


「荷物っ、荷物は後ろにぽぽ~~い、ってね」


 もう、何をどうしていいのかさえ、翁は分からない。賊に襲われたような感覚だ。何かを言えば、断れば殺されるというか、今後も付きまとわれそうだとすら、嫌な予感に見舞われていた。


 ただ普通の恐怖に見舞われている。


「ぇ」


 引きつった表情で助手席の百目鬼を見た。

「いや。ぁの、何をしてんの、ですか? ……降りてくんない? でしょう~~かぁあっ???? どうして座ったんですかぁああ??」

 涙目で、カタカタと大きな身体を震わせてしまう。しかし、翁の様子に気にもしない彼が助手席のシートベルトもかちん! と閉めてドアを閉めると、前の建物を指差した。


「入社式会場に行ったっ、行った!」


(あ。コイツはヤバイやつだわ)

「あのさ」


「んー~~何ぃ?」


 何も言ったところで、百目鬼も訊きそうもない。

 運転席から翁は百目鬼の横顔を見て、


運賃(タクシー代)貰うかんな」


 どうせくれないだろうし、タクシー代なんか要らないが、嫌味の一つも言い捨てたくなった。


 しかし、それ以上の百目鬼との関わりなんかは御免だと、会話もそこそこに翁も駐車場へと車を走らせた。一刻も早くと百目鬼から離れたい、とっとと下ろしたいと会場へと急ぐ。


 ◆


 山深い奥にあるのは百目鬼と翁の内定が決まった会社。


 ネット販売会社【ワールドルーツ日本支部】


「すっげぇ~~人の群れっっっっ‼」

「そりゃあそうね」

「つぅか~~周りの建物なんか、日本建築なんかじゃない異世界建築っぽいじゃんか!」


「アニメ脳かよ。ヲタクなのお宅ってば」


 車から降り立つと、百目鬼は辺りを見渡した。

 はうはう、とする様子の彼に(助かった。これでもぅ――)と翁も安堵の息を吐く。


 彼も車を降りて会場へと向かおうと足を向けると百目鬼が翁に尋ねた。ぎくりと全身が硬直をする。


「なぁ、なぁ? あンたも入社式に行く感じ? 感じだよなっ?!」


 百目鬼が鼻息荒く訊いて来たことに、翁の顔も引きつってしまう。どう返答をしようかと考えたが、いい返答も思いつかない。だから、正直に答えてしまう。


「そうじゃなかったら入社式には、来ない、よね……?」


 怯えながら応えを返す翁の表情を読むことのない百目鬼が、空気を読むこともなく肩を並べて横に身体を置いた。

  

(っと、憑りつかれたぁああッ!)

「ひぃいいっ! ぉわわわぁああ!?」


「そっかぁ~~俺と同じ、新入社員さんデシタカー~♡」


 語彙力も失い、全身に汗が噴き出してしまう。

 はっきりと言ってしまえばいいのか。

 つきまとうな、だとか、どっかに行け、と言ったような突き放した言葉を身勝手で面倒くさそうな彼にと翁も悩んでしまう。


「俺、百目鬼重っての! あンたはなんっつぅ~~名前なの?」


 百目鬼は決して、恐らくは悪い奴ではない。

 彼の人懐っこさも相まって警戒は解かずに名前を教えた。


「翁表だ。ょ、よろしくな、百目鬼君」


 百目鬼とつるまなければ、もっと順調に出世街道を行けたかもしれないのだが、しかし、彼との出会いがあったからこそ翁は、これから起こり続ける悲劇に壊れずに済むのである。ただ逆然り。翁と出会ってしまったことによって百目鬼は友達として、生涯を無気力と終えることとなるが、それはまた別の物語である。


「さ! 行くぜっ。表ちゃん! 入社式にさ!」


「ぉ、表ちゃんって……ああ、行こうか」


 諸君、ようこそ。ワルツへ!

~ここはる妄想セレクト声優様~

百目鬼重Cv:森川智之さん イメージです。

翁表Cv:塩谷翼さん イメージです。


なんて感じの声を想像しつつ、是非に!最後までお付き合い下さいませ!

レヴューや感想が励みになります~~ぅ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ