2:試験の裏側(軍神テュールの受難)
「テュール校長、ご報告があります。」
「どうした。生きのいい受験生でもいたか?
今年は殿下や、未来の近衛候補が受けに来ているから楽しみだな。」
「はい、一般受験生の中に獣魔使いがいるのですが、
獣魔の種族が分からないものがおります。」
「獣魔使いとは珍しい。どのような魔獣だ?」
「真っ白な体躯の狼で、体高が1mほど、狼にしては大きすぎます。」
「ふむ。では筆記試験の間に私が見に行こう。」
獣魔使いも珍しく、興味が出たので直接見に行ってみることにする。
獣魔使いは効率が悪い。
強い獣を使役するのは難しく、弱い獣を使役しても戦力にならないのだ。
そのため、この国には獣魔使いの地位は低くほぼいないと言って良い。
腹心の一人であるレージング教官を連れて獣魔使いがいる教室へ向かう。
その獣魔を見た瞬間に、私の時間は止まった。
「フェンリル!?」
過去の恐怖が蘇る。15年前、私が率いた1万の軍勢を威圧のみで無力化した魔獣が目の前にいる。
何かの間違いだ、奴はそれ以降姿を消した。ニッポンから去ったとされている。
その魔獣が教室の後ろで静かに、そして優雅に寝転んでいる。
て、帝都が滅びる!軍に出動要請をせねば!
いや、下手に刺激をするほうがまずいか?
視線を向けていると奴が私と目を合わせ、ニヤッと笑ったように見えた。
その後、興味なさそうにまた優雅に体を横たえた。
どのみち、奴が暴れたら帝都は終わる。
ならば、半ばやけくそではあるが様子を見ることにして校長室へ戻った。
獣魔を見た後の私の変わりようを見かねた、レージングが
「私が獣魔の様子を見てまいりましょうか?」
と名乗りを上げた。
彼女は軍部時代からの部下だ。
共に戦場をかけた一騎当千の女性であるが、私が校長になる際に軍から引き抜いた人材である。
「よし!貴君に任せる。非常に危険な魔獣である可能性がある。
極力刺激せず様子を見てこい。無事、任務を終えて戻ってこい!」
「はっ!」
凛々しく敬礼してレージングは校長室を出て行った。
まだ、私も彼女も軍時代の癖が抜けないようだ。
試験の休憩時間が終わる前にレージングが戻ってきた。
いつもの凛々しい表情がやけにゆるんでいる。
「偵察の結果を聞こうか」
「はっ!モフモフでありました」
「!?」
意味が分からず状況説明を受けた。
教室の受験生と一緒にフェンリルをモフり倒してきたらしい。
レージングからモフモフのすばらしさを語り倒された。
だめだこいつ・・・
レージングの表情は間抜けなほどニヤニヤしていた。
奴の意図は不明だが
まあ、今のところは安全ということか。
問題は午後の戦闘試験だ。
当然奴が戦闘に参加する。
戦闘試験の試験官に事情を説明したところ、
だれも、ニーナ・ブラッドフォード&フェンリルの試験官をやりたがらない。
もちろん私も嫌だ・・・
仕方がないので、こちらから指名するが、
一人ではやりたくないと泣きつかれたので、5人全員で対応するように指示をした。
一人は審判となる。
審判決めは死闘になることは予想されたが、そこはまあ、知らんがな。
「皆、死ぬな!」
私はただそれだけを告げた。
午後の実技試験も無事終わった。
心配は杞憂だったようだ。
試験官4名は奴に瞬殺されたが、だれもケガなく気絶させられただけであった。
奴は帰り際に校長室から眺める私へじっと視線を向けた後、帰って行った。
「落とすなよ」
と間違いなく念を押されたようだ。
「どうしよう」
帝国軍にて軍神テュールと言われた私、人生最大のピンチの気がした・・・




