月明かりと少女
詩ジャンルにするには毛色が違う気がしたので文学で投稿させていただきます。
代わり映えのない日常に一瞬の閃光
蛍のような写り気で頼りない明かり
無防備に振る舞いながら
きっちりと引かれた線
彼女は気付いていたのだろうか
何もかもを失った僕は、
いや初めからどうこうするつもりなどなかった
僕はそこにいただけだ
──忘れない。
とても真剣な眼差しで、でも少し戯けて言われた
その真っ直ぐさが
若さゆえの忌憚の無い言葉が痛かった
おそらく、間違いなく
僕は彼女の人生に必要のないものだ
だからここにいてはいけない
ここでの生活は山も谷もない平穏そのもので
それを望んでいた僕の安寧の地だ
けれども、もはやそうではない
何故なら彼女はきっとここにくる
遠くない未来に。
そのときに僕はここにいてはならないのだ
あの澄んだ綺麗な瞳
鈴を転がすような声で言われた
「──アイノコクハク──」
彼女はきっと不思議な力を持っているに違いない
大の大人が馬鹿げたことをと言われるだろうが
僕は彼女に出会って、
その言葉を聞いて、
転がり堕ちるように。
だから、卑怯で腐った大人の僕は
狡い真似で手段を選ばずに
彼女から逃げるのだ。
アパートを出る最後の夜
あのときのような見事な月
彼女が食べた牛丼はなかなか美味かった
煙草は止めた
次のアパートも六畳一間と言ったら彼女は笑うだろうか
なんて、ありもしないことを考えて
そんな自分を殺した
しばらくして、何度目かの春が来た
あのアパートは川沿いにあって
そこは春になると見事な桜並木になる
ちょうど仕事で近くを通りがかった僕は、少しだけ油断していた
だって、まさか。
「あきお、さん」
いるなんて思うわけないじゃないか。
彼女は泣きそうな声で言った。
「これからずっと、私と夜明けのコーヒーを飲んでくださいっ」
……うん。その言葉の意味を調べてから出直してね。
それだけ言って振り返った僕は知らない
彼女が絶望した顔になったことを
「あ、そうだ、僕今○○町に住んでるから………、どうしてそんな顔して、る」
瞳にいっぱいの涙を浮かべた彼女が飛び込んでくる
最後まで言えなかった言葉を飲み込んで
縋り付く彼女を抱きしめた
嗚呼これで僕は、完璧に、
これが恋かどうかなんて知らない
ズルくて小賢しいことばかり覚えた汚い大人の僕は答えなんて出さない
ただ一つだけ敢えて上げるのなら
『運命』
だったのだと、言ってしまおうか。
END
ありそうでなさそうな、現実味を帯びているけれどフィクションでしかない。
そんな作品になっていればいいな、と。
難しいことは考えておりません。読み手の方もただの読み物としてすとんと受け入れてくだされば、幸いです。




