ムキムキでも恋患い。
オスカル様とゴルゴを足したような姫様が脳裏を離れない。
ある国にそれはそれは勇猛果敢な凛々しい姫様がおりました。
剣をふるえば、ばったばったと相手をなぎ倒し、
組手をすれば、軽々と投げ飛ばし蹴り飛ばし、
走れば風のように早い。
その肉体は鋼のように強く…なんと言いますかムキムキマッチョでした。
姫様は六人の弟妹がおりました。
二の姫から五の姫まで、おまけに末の弟も皆が美しいと評判の王妃様に似ましたが、その姫はそれはそれは父である国王の面差しに似ていましたので強面でした。
父である国王は周辺諸国どころか隣の大陸まで名を轟かすほどの強さを誇り、かつ戦場では冷酷無慈悲な悪魔の王と呼ばれ恐れられておりました。
そんな父に似た姫は大変男らしい顔立ちな上、ムキムキマッチョでした。
☆☆☆
「一の姫はお食事をめしあがれないそうです。
とても喉を通らず、しばらくは病人食に切り替えて量を半分にしてください。」
戦場のような朝の調理場はその一言でしんと静まり返り、誰もが動きを止めました。
一の姫付の侍女は、果物と飲み物のみを持って去ってしまいました。
「なんていうことだ…
明日は槍でも降るのではないだろうか…?!」
誰かが漏らした呟きを否定できる者は居ませんでした。
それだけ一の姫の不調は青天の霹靂だったのです。
そうして、光並みに早く城中に一の姫不調のニュースは広まったのでした。
☆☆☆
運命の人と出会った次の日、
姫はぼんやりしていることが多く、うっかり手加減を間違え訓練生や妹信者(夫や婚約者含む)に怪我をさせてしまう事態となりました。
しょんぼりしながら謝る姫ですが、相手にとっては負けたことに加え、今まで大分手加減されていたことを知り更に悔しい結果となり、無意識的に男達のプライドをズタズタにしてしまったのでした。
あまりの心の負傷者の多さに国王まででるさわぎとなってしまいました。
運命の人と出会ってから二日後、
朝の訓練を終えた姫様はずっと書庫にこもり本を読み続けました。
時々様子を見に来る司書や下働きは姫様の纏うオーラに恐れをなし仕事にならず、やっぱり国王が出て注意する事態となりました。
愛する弟のシュバルツが遊びに来ても、いつもの元気が出ません。
スーパー高い高いもうっかり落としそうになることが数回あり姫様はかなり肝を冷やしました。
(シュバルツ王子はそのスリルが気に入り、もう一回コールを30回しました。従者が泣いてストップかけなければもっとしていたかもしれません。)
運命の人と出会ってから三日後、すなわち今日…
とうとう姫様は部屋から出て来なくなってしまいました。
普段着でベットに横になって、窓の外を見ては溜め息ばかりです。
食欲もありません。
朝からステーキだろうが揚げ物だろうがもりもり完食する姫様が、果物少しと紅茶程度しか食べないのです。
それも侍女に促されてやっとです。
時々訪ねて来るものもおりますが、
姫様が弱っている隙に倒そうというアホどもばかりです。
数秒で沈めては廊下にポイしたので、姫様の部屋そばの廊下は死屍累々状態でちょっとしたホラーでした。
姫様の幼馴染みの侍女は、涼しい顔でそれらを踏みつけながら部屋の出入りをしています。
可愛い癒し系の顔をしといてえげつないです。
時々スカートの下を見て喜ぶアホもいましたが、股間に一撃入れ止めを刺したりしてました。
そんなこんなで夜になりました。
お気に入りの香りの湯に浸かり、お気に入りのネグリジェに着替えても、姫様の心は晴れません。
いつもだったらシュバルツたん可愛すぎる~と高速ごろごろをしてお気に入りのネグリジェをズタズタにしてしまうことのある姫様ですが、
今日はフリフリハートのクッションを抱き締めたまま無言です。
一見するとクッションを抱き潰そうとしていて恐ろしい顔をしているように見えますが、
気心の知れた侍女には酷く落ち込み悩んでいることが分かりました。
「姫様、どうなされたんです?
この頃なんだか変ですわ、三日前から。」
「…この前助けた男の話はしたな…?」
「はい、存じております。可愛らしい男の子でしたわね?
姫様がはしゃぎまくりでランプまでひっくり返したのでよく覚えております。」
お気に入りのネグリジェがズタズタになったのに驚いた姫様はうっかりランプまで壊してしまっていたのです。
「私と会った次の日から城に来てないんだ…」
「えっ!?」
侍女は驚きました。
姫様が相手のことをすぐさま調べていたことに。
軍事や戦以外で姫様個人がそこまで異性の誰かを気にすることなど初めての事でした。
「彼は、あのメイズの息子だ。」
「暁の殺戮者様ですか…」
メイズというのは魔術師の副長をしている男です。
貧しい農民の三男坊でしたが高い魔力を持ち、今の魔術師長に見いだされ十代にして副長にまで登り詰め、現国王(姫様のお父上様です)の后候補の1人だった方に一目惚れ。
王に直談判して、ある条件と引き換えにめとることを許してもらった方でした。
その条件とは、ある国の城を落とすこと。
広範囲の魔術を使わず、中距離と短距離の魔術のみを使用可能とするという条件でした。
小国とはいえ、総勢300人ほどの戦士を相手にたった1人で戦えというものでした。
諦めるか死ぬか、そんな条件を提示されてもなおメイズは諦めず、1人城に向かったのでした。
そうして…一夜にして城を落としたのでした。
夜が明ける頃、その身を血に染め戻ってきたといいます。
ついた渾名が『暁の殺戮者』でした。
他の面子と比べチャラチャラ軽い印象ですがその実力は折紙付きで、妻子激ラブ男として知られています。
「確かにヤツが激ラブになるほど可愛かった。
しかし翌日より休み…職場の連中は不審がるどころかやっと休みをとってくれた、と喜んでた…
あんな可愛いのにオーバーワーク!
あんな可愛いのに優秀!」
「姫様、どうどう…続きをお話になって下さいまし。」
「すまん、取り乱した。
もしや、怖くて登城拒否なのかと心配で…
一昨日夕方メイズに直接聞いてみたんだが、『あー…ちょっとな…』と酷く歯切れ悪く、なおかつ切ない顔をしていた。
あのメイズが!!」
「あのチャラチャラ軽いメイズ様が!?!」
侍女も驚きました。
この国を支える重要な柱の1人のメイズですが、一見チャラチャラ軽く、付き合ってみると本当にチャラチャラ軽いノリノリの人でした。
それだけ陽気な人でもありました。
「…もう登城しなかったらどうしよう…って、そう思ったらなんだかきゅってなって苦しくなったんだ…」
しょんぼり呟く姫様に、侍女はハッとなりました。
「…姫様、それは恋ですわ。」
「故意?」
「恋!誰かを好きになったりする恋ですわ!」
一瞬、姫様の顔は輝き、そしてまたしょんぼりしました。
「叶わぬ恋なんてしなければよかった…
嫌われるだけの恋なんて…」
思わず言葉に詰まって姫様はうつむきました。
父に似たことを初めて後悔しました。
神様がいるのならば恨みたい気持ちにもなりました。
もっと華奢だったら…
もっと小柄だったら…
もっとムキムキマッチョじゃなかったら…
そんな思いが溢れで、姫様の目から涙が零れました。
「…姫様、呑みましょう。」
「ロッテ…」
幼馴染みのシャルロッテは慰めの言葉も励ましの言葉もかけませんでした。
ひたすら姫様の思いの丈を聞き出し、飲み、二人で泣いたのでした。
☆☆☆
コンコンと控え目なノックの音が響いたのは朝の七時でした。
シャルロッテは酒豪の姫様に付き合ったので潰れて死んだように寝ています。
姫様も若干二日酔いです。
いつもより飲んでは居ませんがほとんど食事を取らなかったせいで、いつもより回りが速かったようです。
「誰だ?」
「…えっ!?
姫様お加減は大丈夫ですか?」
自らドアを開けた先にいたのは天使でした。
この前助けたメイズの愛息子のリヒト君です。
「…ああ」
夢だろうかと内心首をかしげます。
今日も美少女的な可愛さです。
ふわふわの髪は艶々で天使の和ができています。
「あのっ、この前は助けていただいてありがとうございました!
ハンカチお返ししようかと思ったのですが父が失礼に当たるから贈り物の方がいいと…
姫様、ブール村の苺がお好きと聞いたので取ってまいりました!
どうぞ召し上がってください。」
輝くばかりの笑みと苺を残し、固まる姫様を残して天使は帰っていきました。
嬉しさのあまりに叫びたくなった姫様ですが 二日酔いでむくんで、なおかつ肌の状況もよろしくない寝起きの顔を見られたことに今更気付き、
深く深く落ち込んだのでした。
ムキムキマッチョの姫様の恋の行方は果たしてどうなるのでしょうか。
はからずも寝起き姿を見られた姫様でした。




