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セブン・アクターズ  作者: ちとし
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プロローグ:とある一幕

 広大な草原で二人の男が対峙していた。

 一人は全身に鎧を纏い、長剣を地面につきたてる黒髪の男。名前を『サイハ』という。彼はこの世界において『勇者』と呼ばれる存在だ。

 もう一人は黒のロングパンツを穿いた上半身裸の男。名前は『ゼット』という。金色の長髪をかきあげ邪悪な笑みを浮かべる彼はこの世界において『魔王』と呼ばれる存在だ。


「ハァ……ハァ……」

「グッ……へっ、どうした。ずいぶんと……お疲れみたいじゃないか」

「片膝ついて……肩で息してる……お前が言うな」


 勇者と魔王が何故対峙しているのか。それは、魔王ゼットが勇者サイハの国で『王女』と呼ばれている女性をさらったことが原因だった。

 サイハは城から飛び立つ魔王を走って追いかけた。サイハは並外れた身体能力でゼットを追跡。振り切れないと悟ったゼットは国境付近の草原に降り立ち、サイハに一対一の決闘を申し込んだのだった。


「次の一撃で最後だ」

「終わるのはテメェの方だ!」


 そして今、その決闘に終止符が打たれようとしていた。

 勇者は剣を構え、魔王は拳を構える。両者は同時に地を蹴り、目にも留まらぬ速さで駆け、二つの影が交錯した。


「がはっ!」


 脇腹からにじみ出る血を手で押さえながら膝を突くゼット。勇者は見事、魔王に勝利したのだ。


「サイハ!」


 勇者の勝利を見届けた王女『ネミア』は、早足でサイハの下へと駆け寄った。

 ネミアは痣と泥だらけのサイハへ抱きついた。サイハはネミアの頭を抱き寄せる。ネミアは目を細め、サイハの背中に腕を回し体重を預けた。


「フッ、フハハハハ!……魔王である俺をまたしても敗るとは……流石は勇者だ」

「ゼット……」

「だが忘れるな。俺は一度手に入れると決めたものは必ず手に入れる!いつの日か貴様を倒し、王女を我が物としてみせる!」

「いいだろう。何度でもかかって来い!俺は絶対に負けんぞ!」


 サイハを一頻り睨んだ後、ゼットは空中に浮かび上がり自国へと戻っていった。

 勇者と魔王。二人の戦いはこれからも続いていくことだろう。勇者が存在している限り、魔王が存在している限り、世界が存在している限り、二人は争い続ける運命にあるのだから。







 勇者と魔王の戦いが終わってから十数時間後。生物が寝静まり月と星が大地を照らす頃、とある場所にて愚痴をこぼす男達がいた。


「あ~……疲れた」

「あぁ、マジ死ぬかと思ったぜ」


 その場所の周囲には建物も、生き物も、色もない。ただ真っ白な空間。その中にぽつんと置かれた大きな丸いテーブルと七つの椅子。そのうち二つの椅子にそれぞれ座り、両者共に背中を丸めて顎を机につけていた。


「悪いな、ちょっと加減間違えちゃってさ」

「ったく。俺じゃなかったらマジでやばかったぜ?」


 お互い対面する位置に座る二人の男。彼らは自分達の世界において宿敵と呼べる関係にあった。

 勇者と魔王。椅子に座り愚痴をこぼしているのは昼間に死闘を繰り広げたサイハとゼットだ。

 敵対しているはずの二人が、何故同じ場所でぶーたれているのか。それは彼らを取り巻く特殊な環境が関係していた。


「……で、どうだ?王女様のご機嫌は」

「超最高!だとさ」

「そうかい。そりゃ何よりだ」


 会話が止まってから数秒後、二人は同時にため息をついた。


「ガハハハ!どうやらうまくいったようじゃのう!」

「ガルダル」


 サイハは顔を上げ、笑い声のするほうへと顔を向ける。視線の先には一匹の獣がいた。

 頭部全体を覆うライオンのようなたてがみ。膨れ上がった屈強な筋肉。両側の口角にはむき出しの牙。

 動物の皮で作られた腰巻とマントを纏い、人のように二足歩行をする獣。彼の名は『ガルダル』と言う。

 ガルダルは豪快に笑いながら席に着いた。


「何の波乱も無しに終了なんてつまらないわ」

「ラムウィニカ……お前、後で覚えとけよ」


 ゼットの悪態を華麗にスルーしながら席につき、テーブルの下で白く長い足を組んだ女性。

 全体的に緑を基調とした服を身に付け、頭には植物の蔓と葉をモチーフとした冠をつけている。

 彼女の名は『ラムウィニカ』。透き通るような銀色の髪と長く尖った耳が特徴だ。


「ミナサン、ドーモ」

「マモンか」


 次に席へとついたのは、全身が青色の鱗で覆われた亜人だった。

 手の指四本、足の指三本それぞれの間には水かきがあり、顔も縦に細長い。

 彼女の名は『マモン』。海の中で生きる種族に属する者だ。


「お。今日はえらく集まりが早ぇじゃねえか」

「タモツのおっさんも来たか」


 百四十センチメートルにも満たない体で椅子を引く男。

 背丈だけ見れば子供のようだが、彼の顔には長年に渡って蓄えられた茶色の長い髭があり、声も成人男性の特有の低い声だ。

 彼の名は『タモツ』。世界でも有名な鍛冶職人であり、白のタンクトップに灰色のニッカを普段着とする男である。


「ふむ。今回は我が最後だったか」

「三世も来たな。これで全員そろった」


 ニメートルを超える大きな巨体が席に着く。

 頭から生えた二本の角。真っ赤に染まった分厚い皮膚。背中に畳まれた双翼。椅子からはみ出た太く長い尾。

 彼はかつてこの世界に存在した伝説の生物『ドラゴン』の力を受け継ぐ者。名は『クオンタム』。現在は『ドラゴ三世』を名乗っている。


「全員、揃ったようですね」


 全員が席に着いたところで、真っ白な空間に女性の声が響き渡った。

 席に着いている一同はテーブル上空を見上げた。視線の先には、純白のローブを纏った絶世の美女がいた。

 美しく艶やかな金色の長髪がローブと共にふわりと揺れる。宙に佇む絶世の美女は自愛に満ちた瞳が席に着く一同を見渡し、あらゆる生物を魅了するであろう美しい笑みを浮かべた。


「ああ。さっさと始めよう女神様」


 サイハに『女神様』と呼ばれた絶世の美女は、サイハの返答に頷いた。

 女神。その言葉は俗称でもからかいの言葉でもない。彼女は正真正銘、サイハ達の住む世界を生み出した創造主なのだ。

 そして、現在サイハ達がいる真っ白な空間は女神が作り上げた精神世界。日が沈み、眠りに着いたサイハ達の精神だけがこの世界に呼び出されている状態なのである。


「……負けネェ」

「この勝負……何としても勝たねばならぬ」

「ハァ……」

「カツ」

「この大事な時期に厄介事は御免だぜ」

「フン。我としては望むところではあるが……しかし、国の被害を考えるなら絶対に避けねばならぬ」


 サイハを除く全員が一斉に殺気立った。

 目が血走るゼット。両手を組み額に当てるガルダル。心底嫌そうな表情を浮かべるラムウィニカ。無表情のマモン。眉間にしわを寄せるタモツ。顎に手をあて独り言をつぶやくドラゴ三世。そして、既に諦めムードのサイハ。

 それぞれの思いが交錯する中、女神はどこからともなく一メートル四方の白い箱を取り出した。

 箱はゆっくりと下降しテーブルへと置かれる。サイハ以外の全員が箱へと手を伸ばし、そして、伸ばした手は箱の側面に溶け込むように入り込んだ。


「心してかかりなさい。魔王『ゼット』、獣将『ガルダル』、エルフの巫女『ラムウィニカ』、海帝『マモン』、ドワーフ族長『タモツ』、龍の末裔『クオンタム』。世界の命運は今、あなた方の手の内にあります」


 サイハを除く全員が箱に手を入れたことを確認した女神は小さく深呼吸をし、こう叫んだ。



「次のラスボスだーれだっ!!」



 女神の掛け声と同時に、箱に手を突っ込んだ一同は一斉に手を引いた。

 それぞれの手には白色のボールが握られている。


「っっっしゃあああああぁあ!!」

「……ま、当然よね」

「ヨユー」

「ふぃ~。何とかなったか」

「杞憂であったな」


 ゼットは雄たけびを上げながら席を立ちボールを天に掲げた。

 ラムウィニカはボールを掴んだ右手をブラブラと揺らしながら、机の下に隠れた左手をグッと握り締めた。

 マモンは相変わらずの無表情だ。

 タモツは大きなため息をつき、右腕で額を拭った。

 ドラゴ三世は右手人差し指の指先でボールをくるくると回す。


「ふっ……ふぉおおぉおぉ~……っ」


 そんな中、ガルダルだけは頭を垂れ情けない声を上げた。

 彼の持つ白色のボールには他の者達が持つボールとは異なる部分があった。ガルダルの持つボールには、黒いドクロマークが描かれていたのだ。

 つまりは、ハズレである。


「はーい!次のラスボスはガルダルさんに決定でーす!」


 女神はとてもいい笑顔でガルダルの背後に回り、両肩に手を置いた。


「アッハッハ!ま、せいぜい頑張れ!」

「あら、もう片方の牙も折られちゃうんじゃないかしら?」

「……ぅ……牙……」


 ガルダルはゆっくりと顔を上げた。

 ラムウィニカの言葉を聞いてトラウマを思い出したのか、ガルダルは右頬へと手を伸ばす。右の口角から見える折れた牙と右手が触れた瞬間、彼の顔は真っ青になった。

 そんなガルダルの心情など露知らず、まぶしい笑顔を見せる女神は懐からニ冊の本を取り出しサイハとガルダルにそれぞれ手渡した。


「では次回のシナリオを説明しますね!タイトルは『美女と野獣リターンズ』です!」

「リ、リターンズ?」


 サイハのつぶやきのような問いに対し、女神は大きく頷き答えた。


「はい!前回同様、ガルダルには王女ネミアを攫っていただきます!」

「……………………」


 一層顔色が悪くなったガルダルは、牙に触れていた手でそのまま自分の口を塞いだ。


「だ、大丈夫だガルダル。今回は俺が全力でフォローする。それに、余計なことをしなけりゃシナリオ通りに進むんだから」

「…………本当に大丈夫だろうか……」

「しっかりしろよ。シナリオの修正はココでしか効かないんだぞ?呆けていたらあっという間に無理難題を押し付けられちまう。今は目の前の事に集中しようぜ。な?」

「……ハァ。そうだな」


 何とか気を持ち直したガルダル。

 ホッと安心のため息をついたサイハは女神にシナリオの説明を頼んだ。

 女神が読み上げるシナリオに耳を傾ける一同。内容はフィクションの世界でのみ通用するご都合展開満載の王道ストーリーだった。

 サイハとガルダルは自分達が動きやすいようにシナリオの調整を女神に依頼する。

 我関せずな外野から入る野次やら横槍を、女神が意見として取り入れシナリオがハチャメチャな展開になるハプニングもあったが、数時間後、シナリオは無事完成した。


「それでは皆さん、そろそろお開きの時間です!次回の公演日時は追って連絡しますので、興味のある方は是非見にいらしてください!」

「嫌だね」

「嫌」

「リク、ムリ」

「俺はまだ死にたかねぇ」

「そもそも、王が国を離れられるわけがないだろう」


 一同から総スカンを食らう女神だったが、そんなことはお構い無しに一人で盛り上がる。


「では!これにて『世界救済演劇団』の会合を終了します!サイハ、ガルダルの両名は本番に向けて練習を怠らないように!以上!」


 女神の終了の合図と同時に、席についていた七人は姿を消した。

 舞台は女神が創造した惑星の一大陸『ドレマ』。七つの種族が入り乱れ、日頃から小競り合いが絶えない一速即発の危険地帯。そこには一つの暗黙のルールが存在した。


【王女ネミアの機嫌を損ねるな】


 世界救済演劇団。別名、王女ネミアによる被害者の会。


プロットなら留守だよ。休暇とってベガスに行ってる。

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