前編
ノリで書いてしまいました。
苦情は受け付けてます!
人は、死んだらどうなると思いますか?
◇◇◇
それは、本当に突然の出来事だった。
気が付いたときには、トラックはもう目の前まで迫っていて、“避けなければ”と言う考えすら浮かばなかった。
ただ、今まで感じたことのないような衝撃とスローモーションのように変わる景色、視界の端に映る人達の驚いた顔を見て、自分がトラックに跳ね飛ばされたのだと分かった。
こんなことなら、ボーナス……貯金しなきゃよかった。
それが、私―――――常磐友里の最期に思ったことだった。
◇◇◇
早い、早過ぎる。まだ27歳だぞ。やりたいこともいっぱいあったのに。まだ、海外旅行だってしたことなかったのに。
あぁ、こんなことならマジでコツコツ貯金とかするんじゃなかった。先のことなんか考えないで、パーッと使っちゃえば良かった。
「あのー?」
つか、トラックの運転手は何してたんだ。私はフツーに歩道を歩いてたでしょうがっ!
居眠りか、居眠り運転してたのか!?
くっそー!
呪ってやる!絶対に末代まで呪ってやるからなっ!!
毎晩枕元に立って、恨めしそうな顔でじーっと見つめてやるっ。
「あのー?もしもし、聞こえてますかー?」
だいたい、最近はマジで良いことなかったよなー。
昼から雨なのに、外に洗濯物干して仕事に行っちゃったり、家の鍵無くして新しく鍵を付け替えることになったり。
あっ、酔った勢いで彼氏殴って振られちゃったのも今月じゃん。
やっぱりあれかな、初詣に行ったときにお賽銭ケチって、タダで10個も願い事叶えて貰おうとしたのがいけなかった?
図々しいって、神様とやらが怒ったとか?
仕方ないじゃん、お願い事はいっぱいあるけど、お金は使いたくないんだし…。
「あのー?………ちょっとっ!話聞いてくださいってば!!」
「もうっ!!何なのよ、さっきから!!人が若くして死んじゃった悲しみに暮れてるっていうのにっ!!」
誰だっ!?人の感傷を邪魔するヤツは!!
……………。
ほんとに誰、この男?
私の目の前に立っていたのは、何となく胡散臭い笑みを浮かべたキツネ顔の喪服男だった。
◇◇◇
喪服男は私に名刺を差し出しながら、こう言った。
「常磐友里さんですよね。この度は、誠にご愁傷様でした。
ワタクシ、冥界案内人の御影と申します。今回の転生の担当をさせて頂きます」
「はあ?」
御影と名乗った喪服男は変わらず胡散臭い笑顔を浮かべている。
……彼にとっては、これが営業スマイルなのだろうか。だとしたら、相手に不快感しか与えないのでやめた方が良いと思う。
一応、受け取ってしまった名刺を見る。
『冥界転生管理局 来世コンサルタント及び転生生活案内係 御影』
……痛々しい名刺だ。治らない病気なのだろうか、中二的な。
「やだなぁ、そんなゴミを見るような目で見ないでくださいよ。これは冗談じゃありません。
常磐さんはご自分がもう亡くなられていることは、お気付きですよね?」
「まあ、自分が死んじゃったんだろうなぁとは思ってますけど」
そうだ、私は確かに死んだはずだ。はっきりとは覚えてないけど、あの跳ね飛ばされっぷりは、絶対助からない感じだった。
………あれ?じゃあ、なんで今ここにいんの私?
てか、ここどこ?
「いやぁ、良かった。ちゃんと亡くなられたことは受け入れているんですね。
話が早くて助かるなぁ」
「はあぁ!?」
人様が死んでんのに、何が良かっただぁ!?
そのキツネ顔に渾身のエルボーかましてやろうかぁ!?
「やだなぁ、ちょっとした言葉のあやですよ。そんなに怒らないで。
いやね、たまに自分が死んだことを認めない人がいるもんで、一応確認させてもらったんですよ」
………自分が死んだのに認める、認めないとかあるんだろうか。
つか、喪服男は“言葉のあや”とかの問題じゃないだろ、状況を考えてものを言え。
「話が逸れちゃいましたねぇ。ええっと、ここがどこなのかは分かりますか?」
逸らしたのはアンタでしょうが。
何、私の所為みたいに言ってんだ。
しかし、ここでつっかかても面倒なだけだろう。大人になるんだ、私。
喪服男の問いにもちゃんと答えてあげようじゃないか。
「地獄でしょ。アンタさっき“冥界”って言ってたし」
「おおっ、大正解です!」
喪服男のオーバーリアクションにイラッとする。バカにしてんのか。
「うんうん。やっぱり日本人の方は、冥界や地獄に対する明確なイメージを持っていらっしゃる方が多いので、話がスムーズに進みますねぇ」
「アンタが余計な相槌を打たなかったら、もっとスムーズにいくと思うけど」
「おや、これは手厳しい。では、サクサクっと説明しちゃいますね。
まずここは、先程も言った通り“地獄”と呼ばれる場所です。ただこの場合は、悪人が落ちる場所ではなく、死んだ魂を管理しているところという意味ですが」
まあ、そうでしょうね。
大して悪いことなんてしてないのに、本物の地獄みたいな場所に落とされるとか、納得いかないし。
「それでですねぇ。ワタクシの仕事はその魂を来世へと導くことでして」
「ええっ!?アンタ、死神とかじゃないの。…“来世に導く”って天使とかの仕事かと思ってた」
喪服着て、胡散臭い笑顔を張り付けた天使とかありえないでしょ。マジ似合ってない。
「………なぜ、ワタクシのことを死神だと思ったのかは、まあ置いておきましょう。不本意ですが。ちなみに、天使でもありませんよ。
ワタクシの仕事は、冥界における役所勤めのようなものです。所謂、公務員ってやつです」
「ふーん」
「自分でツッコんだわりに反応薄いですねぇ。まあ、良いでしょう。
ワタクシが今回、貴女の転生をコンサルトさせて頂くんですが…」
「えっ、ヤダ。担当変えてもらえる?」
思わず、反射で拒否してしまった。
しかし、こんな胡散臭いキツネ顔が担当とか死んでも御免だ。もう死んでるけど。
「担当は変えれません。出会いは一期一会です」
「最悪…」
「ほんっとに失礼な人ですねぇ」
しまった、心の声が漏れてた。
「…はぁ。とりあえず―――――終身完了手続きはお済ですか?」
◇◇◇
終身完了手続きとは、所謂“死亡確認書”のようなものだった。
………まさか、自分が死んだことを認める書類にサインする日が来るとは思わなかった。
「はい、では書類手続きも終わったことですし、メインの転生についてお話しましょう。
輪廻転生ってご存知ですよね?」
「まあ、一応」
「簡単にいうと、生まれ変わりってやつですね。
今回、貴女は死んでしまいましたが、貴女の魂には次があります。次の人生が」
まさに、輪廻転生。何度も生まれ変わるわけね。
「ただ生まれ変わるだけではありませんよ。貴女はこれから、次の人生を自ら選ぶことになります」
「えっ!?じゃあ、来世が選べるってこと?」
超絶美人になったり、天才発明家になったり、海賊王になったりできるわけ?
「まあ、ある程度ですけどね。人によって、選べる範囲も違いますし」
「どういうこと?」
「先程は“次の人生を選ぶ”と言いましたが、厳密に言うと違います。
人生そのものを選ぶのではなく、様々な才能や容姿の特徴を選ぶことができるのです」
うーん。漠然としてて分かりにくい。
「後で、どんな商品があるのかお見せしますよ」
「商品?」
「ええ、そうです。様々な才能やら容姿を次の人生のために買うのです。選び方次第では、望み通りの人生を歩むことも不可能ではありませんよ。
購入方法は、今世のポイントになります」
「ポイントって、所謂“徳”ってやつ?生きてる間にどんだけ良いことしたか、みたいな?」
たまにあるよね、そんな設定の小説。徳が高かったから、チート転生できるやつ。
くそっ、私悪いこともしてないけど、特別良いこともしてない…。
「いえいえ、そんな大げさなものではありませんよ。だいたい、良いことって基準が難しいじゃないですか。誰が決めるんですか、そんな基準。面倒臭い」
「………神様とかが決めればいいじゃん」
「人間って、神様にもクレーム付けるんですよねぇ」
…地獄も色々大変なようだ。
うん、どこにでもいるよねクレーマーって。
「じゃあ、結局ポイントって何なの?」
「ポイントは、その人が死んだときの所持金です」
「はあぁ!?」
「ああ、実際に所持していたお金じゃないですよ。死んだ瞬間に、その人の物であった現金のことです。ちなみに、土地とか株はポイントには計算されません」
「何、つまり才能も容姿も全部お金で買えってこと!?お金がないと人生選べないの!?」
何それ、シビア。
世知辛過ぎるでしょ。何なの、地獄も不況なの。
「いやだなぁ、日本の諺にもあるじゃないですか―――――地獄の沙汰も金次第って。
良かったですねぇ、ボーナス貯めておいて」
後編もあるよ!