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5 晶の家庭
今度は三人称に薫センセーの視点です
気がつくと胸の中で薫の教え子は泣いていた。
汗と埃でべたついた髪を撫で、ぽんぽんと背中を叩く。
(誰も頼りに出来なかったんだな)
薫は思った。
中学の美術教師になって9年目。
晶の学校に来たのは今年の春だった。
美術部の顧問になると同時に晶の担任になった。
晶の家庭環境は前担任から聞いていた。
幼くして両親を事故で失い、14歳離れた姉と親戚をたらい回しに遭う。
小学校3年生のとき姉が作家となり、生家に戻る。
以来姉と二人で暮らしている。
親戚はあてにならず、本当に二人きりなのだという。