5、つぐないきれない罪
家についてやっとなりつづけていた携帯に気がついた愛。
「誰?
拓也…」
何度も何度もかかってくる。
すでに10回はかかってきている。
「もしもし?」
出た携帯からきこえるうるさいくらいの雑音。
「たくや?」
「森町さんのお知り合いのかたですか?」
森町は拓也の名字だ。
「はい。
えっと
拓也は?」
何だか悪い予感がする。
「落ち着いてきいてください。
森町さんは事故にあい、今、病院に運ばれました。
出血量が多く、今も医者が力をつくしています。
家族の方に連絡がとれないので来ていただけますか?」
拓也が事故?
なわけないよ
だってさっき会ったとこだよ
拓也…
切れた電話を握りしめたまま、その場に崩れるように座りこんだ愛。
「嘘だ、嘘だ。
ありえない、ありえないよ」
「誰〜?」
物音にきずきリビングから舞がやってくる。
「愛何してんの?
帰ってきたなら中にはいってくればいいのに
愛?」
小刻みに震えている愛に気がつく。
「何かあったの?」
何も話さなかった愛がいきなり飛びかかる。
「拓也が、拓也が」
「拓也?
愛の彼氏、拓也くんって言うの?」
「拓也が、拓也が」
「ちょっと落ち着いてね。」
会話ができないで困る舞を気にせずいきなり立ち上がる愛。
「行かなきゃ、拓也が待ってる。」
「ちょっと愛。
もう!」
愛が心配になり舞も家を飛び出す。
愛が黙々と歩きたどり着いた場所は病院だった。
「病院?
愛、どういう事?
ちょっと愛」
舞の話がまったく耳にはいった様子もなく愛は病院の中にはいっていく。
やがて愛の足は手術室の前でとまる。
「ここに彼氏がいるの?
愛、きいてる?」
2人に気がつき近づいてくる看護師。
「森町拓也さんのお知り合いのかたですか?
こちらにかけてお待ち下さい。」
何も言わず軽く礼をして椅子にかける愛。
「森町拓也?
どういう事?
ねぇ愛、答えて!」
やっと理性が戻ったように手をにぎり祈りの姿勢をとっている愛。
「拓也は私の彼氏だよ。
私にはじめてできた彼氏。
誰が何を言おうと拓也は私の彼氏。」
短くもはっきりと言い切る愛に舞は怒りを露にする。
「どうしてよ!
私、言ったよね
拓也とはもう一度付き合いたいって
なのにどうして
何も言ってくれないの?」
「病院ではお静かに。」
看護師さんのひと言で舞は静かになる。
しばらく2人の間に静寂続く。
手術中のライトがきえ中からは拓也が出てくる。
「拓也、拓也!」
一斉に走りよる愛と舞。
「容態は安定しています。
もう大丈夫ですよ。」
何も言わず喜びを噛み締める舞と、丁寧にお礼を言う愛。
2人のちがいはこういうとこにあるのだろう…
病室に入った拓也の元に拓也の両親がやってくる。
「拓也!」
拓也の顔をみてやっと隣にいる舞と愛に気がついたみたいだ。
「あなたたちは?」
「はじめまして、拓也くんにはお世話になってます。」
医者の話を愛が両親に伝える。
2人はその話をきいて安心したようだった。
誰からも落ち着いているようにみえる愛。
でもその内心は複雑でたまらなかった。
拓也が事故にあったのは愛が通り過ぎた交差点だった。
つまり、私のせいだよね?
拓也は私を追いかけて事故にあった。
私が止まっていたら、いやもっとはやく真相を告げていたらこんな事にはならなかった。
ごめん…
ごめん…
私は許されない事をしました。
あなたに会う権利はない。
誰もいなくなった病室で拓也の手を握りしめる。
「幸せになってね…
さようなら。」
愛は静かに病室を後にした。