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5.

 そんな中、違法薬物として指定されていないとある薬物が王国内に浸透し始めたのは、必然だったのかもしれない。悪は撲滅しようとすると、より巧妙に金の回収方法を考えるからである。


 知恵のある個人主義者は大抵、中立か善であることが多いが、一部の者が悪に傾くと、対策はかなり困難になる。


 そうでなくても、知恵者たちの技術は優秀すぎて悪事に利用されやすいからだ。


 そして、悪に傾いた知恵者はその優秀さ故に簡単に力を得られる上、それと対峙するためにはより賢い知恵者をぶつけなければならない。対策が後手に回る理由も、ここが大きな問題となることが多い。


 悪事を行う者は欲望のままに行動すれば良いのに対し、対策する者はそうしたくもないのに、しかも多くは自身のためではなく他人のために、わざわざ知恵を絞らねばならない。


 どう考えてもやる気に違いが出るであろう。


 その上、手段を選ばない者と、人道的な方法を選択しようとする者がいれば、知力の高低に関わらずどのような結果になるかは火を見るより明らかであった。


「おい、もうハッパなんてやめろ!」


「誰よりもハッパ買い込んでたやつが何言ってやがる」


「おいおい、おまえまで覇王の手下になったのか?」


「金なんかで騙されるなよ。クソ貴族どもからいくら貰ってんだ?」


「いや、俺も金額によっちゃあ覇王の手下になってやるぜ?」


「そうじゃねえ!ハッパよりいいやつが出たんだよ。しかも、そいつは違法でもないから捕まらないってよ!」


「へー。そりゃあいいが……本当にいい薬なんだろうな?」


「ハッパよりいいのがあるかっての」


「でもハッパは臭えらしい……やってないやつらからすると」


「確かに、臭いでしょっ引かれるやつが増えてるからな……村にまで騎士団が来たら終わりだ」


「その新しいやつは臭いもないってのか?」


「いや、臭いはある。あるが、甘くていい臭いだ!」


「おらは甘いのは嫌いだな」


「甘ったるい臭いは吐き気がするよなあ」


「そんなに皆興味ないのか?ここに少しだけあるんだが……」


「ふーん……」


「あるなら話が早えや!早く言えよ!」


「なーんだ、おめえ気が利くじゃねえか!」


「まあ……ちょっと試すだけなら試してやってもいいかな」


「微妙だったらハッパを続ければいいしな」


「おめえらアホだなあ。その薬が良けりゃ、ハッパとそいつを混ぜたら最高だろ?」


「おまえ頭いいじゃねえか!」


「確かになあ。俺も試してみるかな」


「俺はハッパで充分だわ」


「おまえは頑固だからなあ……。ま、嫌なやつはいい。量も少ないしな。興味があるやつだけ試してみてくれ」


 その薬物は使用するとかなり気分が高揚し、嫌なことも忘れることができたから、使用者の翌日の反応は上々であった。


「おいっ」


「ん?どうした?」


「今日はあの新しい……なんていったか?アレはないのか?」


「ああ、おまえもか?試したやつは結構欲しがるんだよな。アレ良かっただろ?」


「まあな。女がいる時に使ったら最高だわ。いや、女に使わせてもいいかもしれねえ。……金額次第だが」


「だろー?だけど手持ちがもうあまりないんだよな……。明日か明後日に薬売りが来るって言ってたが……」


「明日までか……。それまでにおまえが少し持ってるやつをくれよ」


「俺だってもう今日の分しかねえんだよ。金を用意して明日を待つしかねえな」


「チェッ。ケチだな!」


「ケチもクソもあるか!おまえで5人目だぞ!そんなホイホイ奢ってやるような大金、俺にはないっての」


「まあそうだろうけどさ……。チッ。何にでも金がいるな」


「おまえはガキが3人もいるんだからさ。そんなに薬にハマりすぎんなよ?」


「ガキじゃねえんだから、ハッパ狂いみたいにはならねえよ」


 違法薬物の使用者は、騙される者以外は、急にあらゆる薬物に手を出すわけではない。


 合法の薬物の使用経験から薬物使用者たちと繋がりを深め、他の薬物を勧められてハマる者や、違法薬物だと知っていても、周囲の環境により大衆に広く拡散されているだからと軽い認識で手を出し、抜けられなくなる者が多い。


「アレは使い勝手は良かったが、切れると寒気がしねえか?」


「だよなあ……。切れたからか?俺は身体が重くてさ……」


「早く売りが来ねえかな……」


「今日は気分が乗らなくて仕事をする気にもなれなかったわ」


「分かるわ」


 依存性は、快楽のためばかりが原因ではない。むしろ、その効果が切れたことによる疲れや気分の沈みから解放されたくて薬を買い求めてしまうのである。




 シグルドがその薬物の報告を受けたのは、薬物が密かに出回り始めてからおよそ1年後のことであった。


「王太子様!また新たな依存性薬物が市井に流通しているとの報告が……」


「次から次に……きりがないな」


「既にかなり粛清しましたけどね……。ただ、この王国内だけでは、他国の密売人や製造組織を潰せないですからね……」


「国境に壁でも作るか?」


「海岸沿い以外は全てですか!?それは国家予算を考えても現実的では……」


「いや分かってる。すまん。そうだよなあ……」


「いえ、私こそ申し訳ありません」


「国境の全てに検問を置けば問題は解決しやすいのでしょうけれどね……」


 地続きで隣り合っている国が多いほど、犯罪組織の撲滅はかなり難しい。海に囲まれている国があるのであれば、その国はよほど恵まれた立地である。


 国内の違法薬物製造拠点がよほど巧妙に隠されていない限り、比較的楽に潰しやすいからだ。


「サンドールはどう思う?」


「俺には大層なことは……」


「そうか……。この新たな薬物を王宮内の薬物研究班に持って行ってくれるか?」


「それならば……喜んで」


 シグルドがその薬物の依存性検査を王宮内薬物研究班に任せ、その結果を見ることに決めたのは、いつもと変わらない光景であった。

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