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魔女は雨の森の中――恋はもうこりごり。それでも魔石に願いは込める  作者: じょーもん


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14 選ぶ者たち

「……魔石……よね?宝石質だけど、みんな淡い色合いで綺麗ね」


 カタリナがこれほど勿体ぶるからには、ありきたりなものではなさそうだと、エレナは思った。それでも、目の前の宝石が何なのか、見当がつかなかった。


「正解!これは魔石よ。でも、とっても希少で特別な魔石なの」


 カタリナはにこにこしながら、懐から小さな、白っぽいクズ石の魔石を二つ取り出した。そのうち一つをエレナに渡して、もう一つを自分の手のひらにギュッと握り込む。


「王都の若者の間で、去年から流行ってたから、貴女は知らないわよね?

 こんなふうに、握りしめてみて」


 エレナは言われた通りにやってみる。


 しばらくして、カタリナがそっと手のひらを開くと、さっきまで真っ白だった石が、明るい橙色に色づいていた。


「へぇ、エレナは私のこと、そんなふうに思ってくれているのね。」


 カタリナが嬉しそうにつぶやくのを、首を傾げながら見ていたエレナも、自分が握っていた石をそっと手を開いて見てみる。

 エレナの石は、明るい桃色に染まっていた。


「なにこれ、色が、変わったわ?」


「双晶の魔石よ。

 普通、魔石の結晶はひとつずつしか生成されないんだけど──まれに、一つの基から、対になる二つの結晶ができることがあるの。

 この“対の結晶”が、双晶石ってわけ。

 もっとも、綺麗な宝飾品には向かないクズ石ばかりなんだけど……。

 それでも昨年、ある細工師が気づいたの。双晶を二つに分けて、それぞれ別の人がお互いに持ち合うと、不思議なことに、相手が自分をどう思っているかが、色で現れるって。

 それで、友人同士とか恋人たちの間で、ちょっとした流行になってるのよ。」


「へぇ、面白いわね。私のは桃色、カタリナのは……明るい橙色。これ、色に意味があるの?」


 エレナがそう言うと、カタリナはふっと意味ありげに微笑んだ。


「基本的に、色がついていれば悪い関係じゃないわ。

 濃ければ濃いほど、相手に強い想いを抱いているってこと。

 寒色系なら誠意や信頼、暖色系なら友情とか──恋情、ってとこかしら?

 まあ、正確に検証した人はいないみたいだけどね」


「ちょっと待って……。じゃあ、このケースの中にあるペアの魔石って――」


「そうよ。稀少石中の希少石――宝石質の、双晶魔石!

 今は普通の魔石として流通してるけど、双晶だって明かせば、どれだけの値がつくかは未知数。

 まさに、市場に出回ってない超レア石ってわけ!」


「そんなすごいもの、こんなにどうやって集めたの?」


「実はね、去年、クズ石の双晶魔石がちょっとしたおもちゃとして出回り始めたころから、うちと付き合いのある研磨工房に、こっそり集めてもらってたの。」


 カタリナは得意げに胸をそらせる。


「でも、双晶の特異性は、“色が変わる”ってだけじゃないのよ。

 ……エレナ、知ってるわよね? 普通の魔石って、ひとつの原石から切り出せる“魔法を付与できる石”は、いちばん大きいのが一個だけで、他の小さいかけらには魔力が入らないってこと。」


 エレナは小さくうなずく。


「それが、双晶は違うの。

 二つに割ったどちらの石にも魔法が付与できるうえ――」

 カタリナは声をひそめて、目をきらきらさせた。

「なんと、片方に魔法を付与すれば、もう片方にも同じ魔法が自然に転写されるらしいの!」


「まあ!それは……すごいわね!」


 エレナはもう一度、宝石箱を見つめた。

 さっきまでは、ただ色の淡い何でもない魔石にしか見えなかったのに――

 今では、それがとてつもなく貴重なものに思えてくる。


「でね、私はこの石を、本当に特別な逸品……そうね、アクセサリーであり、同時に魔具として提案したいの。

 でも、クズ石でのデータはある程度そろってるんだけど、ここまで上質な魔石になると、

 魔法を付与したときにどうなるか、色の変化が同じかどうか、まだ未知数なの。

 かといって、石が貴重すぎて、下手な魔術師には任せたくないし……」


 そう言って、カタリナはふいに言葉を切り、

 上目遣いに、じっとエレナを見つめた。


 その眼差しは、どこまでも真剣で、食い入るようだった。


「私はあなたに、魔術の付与と検証を頼みたいの。

 貴女は、当代きっての……いえ、この百年で一番の付与魔法士だわ。

 とくに水魔法に限って言えば、歴代最高の祝福を受けてるんじゃないかしら。

 だから――この新しい宝石の価値を世に出すには、貴女の魔法こそが必要なの。」


 エレナは、カタリナの真剣なまなざしと、その言葉に込められた信頼の重さに、しばし言葉を失った。

 ただ黙って、目の前の宝石箱を見つめ続ける。


「魔法の付与は、この中にあるすべての魔石で試してみてほしいわ。

 たとえば、付与する祝福の種類を変えたらどうなるか――

 それから、ペアの片方ずつに違う魔法をかけたらどうなるか、

 あるいは、距離を離した状態で片方にだけ魔法をかけた場合、どこまで共鳴が続くか……とかね。」


 カタリナはそう言いながら、テーブルの縁を指先でトントンと叩き、思いつく限りの実験案を列挙していく。


「色の変化については――そうね、ひと組だけ、気に入ったペアをあなたとアシュレイさんに供与するわ。

 あなたたちふたりなら、色がつかないなんてことはないでしょう? だから、それで試してみて?」


 カタリナはふっと微笑んでから、さらりと付け加えた。


「私も、夫が帰還したら、ひと組試してみるつもりよ。」


「こんなに貴重なもの――もらっちゃって、いいの?」


「ええ、もちろん。実はもう、彫金の魔術師を呼んであるの。

 だから、今ここで一組選んでくれれば、すぐアクセサリーに仕立ててもらえるわ。」


「な、何から何まで……用意周到ね!」


「ええ、だから――森に帰ってる暇なんて、なくてよ?」


 エレナは、勝ち誇ったように微笑むカタリナの顔と、

 目の前の宝石箱とを交互に見比べて、

「参ったわ」とでも言いたげに、小さくため息をついた。


「……わかったわ。

 とりあえず、“色が変わる前”の双晶魔石には魔法が付与できるってことは、もう確認されてるんでしょう?

 だったら私がもらう一組は、“色が変化した後”に、魔法が付与できるのかどうか――そこを試すことにする。」


 それからエレナは、宝石箱の中身をひとつひとつ吟味した。

 いちばん小さなペアに手を伸ばしかけたとき、カタリナが横から口を挟む。


「一番大きいのにしろとは言わないけど、そこそこ存在感のあるものを選びなさいな。

 たぶん、あなたにとっても、アシュレイさんにとっても――これ、すごく大切な宝物になると思うのよ。

 それに、もし色が変化したあとでも付与がうまくいったら、複数の祝福を込めてもいいかもしれないし。」


「たまには自分のために魔法を使ってみなさいよ」と笑うカタリナに背を押され、

 エレナは、ふっと肩の力を抜いた。


 そして――忖度を捨てて、

 自分が一番、美しいと思うものを選んだ。


 選んだのは、小指の爪ほどの、涙型のペアシェイプ。

 宝石箱の中では決して大きい方ではなかったが、テリがひときわ美しく、

 何より、ふたつの石にほんの少しだけ大きさの差があることが、

 なぜか彼女の心に、しっくりと馴染んだ。


「選びながら、もうデザインは考えていたの。」


 そう言って、エレナは紙とペンを手に取り、さらさらと手際よくスケッチを描きはじめた。


「この部分は黒い革を使いたいわね。だから、この金具は……ここ、こう作ってもらえるかしら。

 私のほうは、ここをチェーンにして。地金は……そうね、プラチナがいいわ。

 たぶん、どんな色に変化しても映えるはず。」


「へぇ、素敵ね。そのテイストで、私と主人の分もお願いできるかしら?」


 カタリナが興味津々にのぞき込んでくると、

 エレナは新しい紙を取り出して、さらりと別のデザインを描き始める。


「公爵閣下はアシュレイさんより細身だから、この部分は……こう、この方がいいわね。

 カタリナは……きっと、絶対に石は暖色系――もしかしたら、深紅かもしれないわね。

 だったら、地金はゴールド。ここにメレダイヤをあしらって……」


 エレナはすっかり調子が出て、魔石をいくつか並べながら、話し続ける。


「石は、これかしら。公爵閣下には小ぶりの石でさりげなく。カタリナは大きな石で、華やかに。

 この配置で、ほら……並べたら、ね? ――ほら、すてきでしょう!」


「うん、最高! もう、すぐに作ってもらいましょう。」


 カタリナも上機嫌に立ち上がると、侍女に声をかけた。


「ねぇ、ヴァネッリ技師を呼んできてくださる? ええ、彫金でお呼びしてあるの。デザインが仕上がったって、伝えて。」


 そう言いながら、カタリナはエレナが描きあげたデザイン画を掲げ、

 選び抜かれた魔石の光を、誇らしげに見比べた。


 そして――


「本当に、エルフィーナ。あなたって、最高よ!」


 にっこりと微笑んだ。



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