第2話 入学式編その1 「始まりは不幸から」
歩きながら、少しこの理不尽な世界を振り返ってみよう。
現代では能力で空を飛ぶ技術が発達しているが、俺は能力が発現していないので空を飛ぶことができない。
能力は通常、7歳前後で発現し、12歳までには発現が終わる。
そういう俺は今年16歳で発現の期間はとっくに過ぎている。
この世界でも数人しかいない無能力者である。
割合だけ見ればかなりレアな人間ではあるが、能力がすべてのこの世界では落ちこぼれのレッテルを貼られてしまう。
だから俺と友達になってくれるやつはいない。前の学校でもそうだった。
「クソ、そんな確率当たるなら宝くじ当たってくれよ」
世界の理不尽を思い出してしまい、悔しさからか俺は駆け足で学校に向かっていた。
駆け足で登校していたことで、高校に近づいてきて時間の余裕があることに気づいたので寄り道することにした。
確か高校の横に河川敷があったはずだ。
そこに寄って剣術の鍛錬をしていこう。
剣術とは剣道と異なり、対能力に特化した戦闘向きの戦術体系で、スポーツとは少し違う。
祖父は剣術の大家で、開祖と言っても過言でない。
祖父は能力が発現していたものの、能力が嫌いだったため、能力に対抗するため40年前に剣術という戦術体系を創り出した。
5年前には初めて学生大会が開かれるほどには浸透してきている。
俺は能力が発現しなかったので12歳から護身用に剣術を祖父から習っていた。
さて、15分くらい素振りしてから学校へ向かうとしよう。
やばいやばい!
思わず鍛錬に熱中しすぎてしまった。
10分ほど素振りをして5分ほど瞑想とイメージトレーニングをしようと思ったら30分もやってしまった。
駆け足ではなく全力で走っている。
空を飛んで登校している能力者と違って、剣術の鍛錬をしているので体力には自信がある方だ。
空を飛んで抜かしていく能力者を一瞥して少し羨ましがりながら。
すると後ろから何か近づいてくる気配がした。
「よお、君も急いでいるのかい?」
横を向くとそこには俺より身長が高く、ガタイの良い男が汗をかきながら走っていた。
俺はかなりの速さで走っていたが、俺に追いつくなんて相当足が速い。
いや、風の能力者であれば追い風を使って加速することはできるか。ほかにも加速に能力を生かせる能力であれば可能だ。
というか、いきなりタメ口かよ。馴れ馴れしいな。
「そうですよ。あなたも結構急いでいるようですが、一年生ですか?」
「ああ、そうだ。というか一年生同士だし敬語はやめてくれよ」
ん?なんで俺が一年だとわかったんだ?
「それじゃあタメ口で話すことにしよう。なんで俺が一年だとわかった?」
「そりゃわかるだろ、今日の午前中は一年しか登校しないんだからな。二年三年は部活の勧誘で来るやつは午後からの登校だ。」
なるほど。そういうことか。
上級生しか知りえないような情報だ。
こいつには上級生の知り合いやら、兄弟姉妹がいるんだろうなと推測できた。
「俺の名前は田丸隼人。気軽に隼人って呼んでくれ。ここで出会ったのも何かの縁だ、良ければ今日一緒に行動しないか?」
確かにこいつは情報通だし一緒に行動してくれるのはありがたい。
是非ともその恩恵に預からせていただこう。
「俺は神鳥翔一だ。よろしく頼む。」
お互いここまで減速することなく走り続けている。
そんなこんなしているうちに俺たちは校門を走り抜けていた。