Goodbye Yellow Tunnel
おなじみ“月曜真っ黒シリーズ”です(^^;)
うだるような暑さをもたらす陽射しもようやく少し傾き、オレはお目当てのブドウ園の直売所でブドウを詰め合わせてもらい、社用車の助手席へ乗せた。
今日はこのまま直帰だ!
今回も“費用対効果”はバッチリだろう……
家族サービスを卒なくこなしてこそ、男の愉しみを満喫できる!
当たり前のことを粛々とこなす事こそ『できる男』の証だ。
独り身の頃から、女の子と遊ぶ事がオレの趣味だ。
それは娘が小4になった今でも変わりない。
もちろんその“趣味”の長い歴史の中で……“若気の至り”的な事も無かったわけではない。
興が乗ってそのまま乗っかって……数か月後に“ヤバい”話になった事もある。
でも相手だってこんな程度のヤツなんだから……デキたのが“オレのタネ”からかも甚だ疑問だ!
『女は言ったモン勝ち』
そういう魂胆が見え隠れする輩にはこちらも腹を括る!
「そこまで言うんなら検査でも何でもとことんやって、白黒つけようぜ! オレがお前の素行を知らないとでも思ってるのか?!」と凄んだら、女はグジグジと泣きながら引き下がった。
こんなヤツとは金輪際関わりを持ちたくなかったのでオレはコイツを完璧にシャットダウンした。
何年か後にこの女について『子供を流した』と言う噂を耳にしたが、その時のなのか違うのか、そんな興味さえもオレには無かった。
ただ教訓だけはオレの胸に刻まれた。
『遊ぶんならガードしろ!!』
その時は……『いっそカットしてやろうか』とも思ったが、しなくて良かった。
目に入れても痛くない程の“愛娘”を持てたのだから……
助手席のブドウの詰め合わせに目をやりながら、オレは娘の喜ぶ顔を思い浮かべる。
さあ! 世界一の美女の待つ家へ帰ろう! その母親にも枯れない様に“水”をやらねばならないし……
オレはウィンカーを出して高速へと繋がる側道へ車を進めた。
高速の本線に入って少し走ると長いトンネルの入り口だ。
週末には渋滞するこのトンネルも今日は前を走る車も無く、ただただオレンジの“洞窟”の中を車はひた走る。
長いとは言っても5キロは無い筈だから、速度制限を守っても4分ちょっとで抜けられる……
なのに、なぜだろう
イヤに長く感じる……
ラジオが聞こえなくなった……
電波障害か??
音楽でも掛けて置けば良かった
エアコンの効きが悪い
ゴウゴウという反響音がうっとおしい
息苦しい
出口手前で減速すればオービスは大丈夫だろう
アクセルをベタ踏みする。
エンジンが唸り、確実にスピードは上がっている筈なのに天井の左右にあるオレンジの照明が流れて行く速度は変わらない。
息苦しさが更に増す
オレンジの明かりの中で溺れそうだ!!
あと何分?!!
時間を見ておくんだった!!
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
音が!叫びが!
心臓に突き刺さる
まだか?!まだか?!まだか?!まだか?!まだか?!
なんだこれは??!!
“グリーンマイル”は緑のリノリウムの床だったか?
このオレンジの洞窟はなんだ??
この鼓動は??
泣き声は??
オレのか??
冷たく凍る背中にゾクゾクしながらも
伝う冷や汗を感じて……
更に更にアクセルをベタ踏みする
床に何かがゴンゴンゴンゴンぶつかる音は
不気味なカウントダウンか?
人殺し!人殺し!!人殺し!!!
死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!
死ね!死ね!死ね!死ね!
聞こえるのは女の金切り声!!
産道??
出口の無い産道??
そんな事!あるもんか?!!
こんな状況!振り切ってやる!!!
もっと!もっと!もっと!
オレにスピードを!!!
あっ!
白い光!!
出口だ!!
早く!速く!早く!速く!早く!!
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トンネルから出て来た白いライトバンはジグザグ走行をつ続け、ついには防音壁に激突、大破炎上した。
車内に残された遺体はたった一人。
“ロースト”され、物を言わなくなった口には何故かブドウがいっぱいに詰め込まれていて……あってはならない“芳香”に、交通鑑識班も思わず自らの口を押さえた。
おしまい
あんまり怖くなかったでしょうか??
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