スマホの中~浮気ではなく、レスになった私たちの事情~
結婚して三年。
ほぼレスになってからも同じ年数だ。
それでも夫婦仲は、そんなには悪くなかったと思う。
週末には一緒に出かけ、記念日は二人でお祝いをした。
ただ子がいなく、そういう関係がないだけ。
部屋も別。
ベッドも別。
豊かな生活で、このまま恋人のような……。
それでいて、どこか薄く透明な関係がずっと続くと信じていた。
「ね、寒いから毛布出したんだけど~」
そう言いながら私は夫の部屋へと入る。
私の部屋とは違い、黒で統一されたシックな部屋。
やや無機質にも思えるその部屋は、とにかく物が少ない。
ラックにあるのもオーディオだけ。
「あれ、寝ちゃったの? もう。布団もかけないで。風邪ひくよ」
ベッドの上でスマホを片手に寝落ちしている彼に、私は毛布をかけた。
夫の部屋には、こうした用事がない限り基本はほどんど入ることはない。
お互い、不用意な干渉波しない。それが結婚する時の彼の条件だったから。
その点においては、私も別に不満はなかった。
だって一人の時間も好きだったし。
でも今思えば、夫婦というよりはそれを通り越して家族なのよね。
安定にいるも綺麗な部屋なのよね。物が多い私とは大違い。
もっと男の人の部屋って、ぐちゃっとしてるイメージなんだけどな。
部屋はそれぞれが管理し、掃除も各自となっている。
あまり家事には協力的ではなくても、自分の部屋は綺麗にしているようだった。
「んー」
部屋を一周見渡し、そのまま出ようとするとゴトリと何かが落ちる音が聞こえた。
彼の手から落ちたスマホ。
画面は明るく、開いたままのようだった。
「まったく……充電もしないで、なにしてるんだか」
些細な少しの好奇心と、あくまで充電をしないとという親切心。
私はふと、スマホを手に取り夫が最後に見ていた画面を見てしまった。
「なに、これ……」
浮気の写真だったら、まだ許せたのかもしれない。
どうせ私たちはレスだ。
だからそこ、そういうことを外に求めたって仕方がない。
心のどこかでそう思っていたから。
でもそこに写っていたモノはそんな想像とは全く違っていた。
全身タイツのような服に身を包み、女物のかつらを被った夫の写真。
その彼の後ろには、小綺麗だが176㎝ある夫よりもはるかに大きくガタイの良い女性らしき人。
二人はしっかりと腕を絡め、恍惚そうな顔を浮かべていた。
「レスって……」
言いたい言葉を全てのみ込んで、私はそっとスマホを充電器に差し込んだ。