9.龍傲天(長いです。一気に最後まで読んでね)(ここまでが第一章)
R15 注意。いつもより残酷なシーンあります。
∠(`・ω・´)
ヒゲは輸送隊長バーナードとその部下と共に、ドラゴンの死体捜索へ向かうことになった。
とりあえず、俺は町へと輸送されるらしい。
ヒゲとは街で再会の約束をした。
ヒゲはドラゴンの追跡バンザイとか、わけのわからない事を言いながら、バーナードの部隊についていった。
バーナードから高額の報酬を約束されたらしい。
微笑ましい。
ヒゲは良い。ヒゲはカッコイイ。バーナードも良い。斥候も。良い。
だけれども。だけれども。だけれども。
お前は、お前は。お前等だけは絶対に、ゼッタイニユルセナイ。
きっかけは唐突に訪れた。
輸送隊の隊長。バーナード達が、無くなった首無しドラゴン捜索のために離脱した。
その後に少数になった輸送隊に、街から来た。後続の輸送部隊が合流したのだ。
その後続部隊に問題があった。
大問題が。
「何を見ている。オレは何を見ている」
目の前に、何がいる。
その後続部隊にいた。
馬に乗った数人の人間。アレハダレダ?
目が離せない。
やけに上等の服を着た数人の男達。
彼らを見た途端。俺の中の何かが、痛みをともなう激痛と共に、ブチ切れる音を感じた。
壊れる。心が壊れる。
(解ける溶ける変幻スキルが。紙でできたコヨリでもあるかのように、ちぎれて溶けて消えて逝く。)
(激情を感じる。なすすべの無い無力感。取り戻すことの出来ない力。)
(本来の力なら負けるはずも無い小さきモノ如きに、弱体化のせいで歯がたたない焦り。)
(貧弱な虫のような存在に、この世で最も大切なものを、奪われる屈辱と怒り。)
そんな感覚が流れ込んでくる。
この感覚には覚えがある。
ああ、そうか。
少し前に初めて首無しドラゴンを見た時の感覚。もしかしてコレは?この想いは。
そう。もしかしてもしかしなくても。
「マッマ?」
俺の中のマッマの体が、怒りに震えている。
そうかわかった。
輸送隊に合流した、あの数人の男達だ。
彼奴らは………マッマを倒した討伐隊のメンバーだ。
それを見た途端に、
マッマの体から激情が弾け飛び。
変幻スキル(人間)の殻を破り。
俺の意識を押しのけて、マッマの怒りが体の中から爆裂したのだ。
そして。
超弩級戦艦広範囲絶対人間滅殺腐竜が、突如出現した。
ドラゴンの体の主導権を奪われた。
俺では無いオレが、俺の体を使っている。
竜眼発動。自らのレベル鑑定。
超弩級戦艦広範囲絶対人間滅殺腐竜
レベル5 呆れるほどに貧弱だ。だが問題は無い。
スキル 竜眼 福音 変幻 魂の劣化 大都市壊滅毒
スキルもくだらぬ。
卑しいアンデッドスキルが、2つもついているではないか。
あまりにも愚かしいスキルではあるが、彼奴等を砕くには十分すぎる。
汚れたアンデッドドラゴンの毒。
それにて死ぬのが汚れた奴等にふさわしい。
目の前には、もといた輸送隊の連中が、周囲で驚き慌てふためいている。
たかだか十人。ステータス確認。
レベル15、18、29、16、21、26、18、16、19、21
スキル確認。水、火、風、地、回復、魔法。強力、強速、強防。目潰し、擬態、復讐、倉庫、移動、空腹、防風、エトセトラ。
雑魚だ。
スキルも平凡モンダイにもならん。
壊れかけた、この体でも軽くあしらえる。
問題はあいつ等だ。
前面にいる。約30人くらいの人間達。
自分を倒した討伐隊を含む人間達。
見覚えのある、かつて自分を倒した戦士達にも竜眼を発動する。
レベル30〜60 全員人にしてはレベルが高い。
が、彼奴等討伐隊の中では小物。
前回はもっと高レベルの者達もいたはずだが、ここにはいない。
スキル確認。………………スキルか、く、に、ん。
あった。あった。あった。あった。スキル、ドラゴンイーター。
竜を食べたモノに与えられる。
限り無き潜在能力を得ることができる加護。
我を倒したものの証。
まだいい。これはいい。
怒るにはあたらぬ。
絶望するにもあたわぬ。
弱肉強食は力の真理。我ら竜族の望むところ。
だが、だが、ダガ、ダガ、ダガ。
も、う、ひ、と、つ。ある。
スキル竜の命。
竜の卵を破壊する事によって得られるスキル。
失われた竜の卵のかわりに、この世に竜族として存在できる。
このスキルの持ち主は竜化が可能となる。
あああアアア。あってしまった。
予想しうる最悪の事態だ。
このスキルは駄目だ。
絶対に駄目だ。
許してはいけない。
許せるはずもない。
このスキルを持った人間がいるという事は、愛しい我が卵が砕かれてしまったという証。
見つけた。
見つけた。
見つけてしまった。
すべてをかけて産み出した、受け継がれてきた竜の力の継承者。
竜の希望。次代の希望。
我が卵。我が希望が壊された証。
竜の長命を持ってしてもなお遠い。
遥かな過去から受け継がれてきた、竜命のバトンが途絶えた証。バトンを途絶えさせた証。
この世から尊き、新しい竜族が一つ消えた証。
愛しき我が子を守りきれなかった、無能の竜族がいた証拠のスキル。
力を信奉し、力を信じる竜族の、我が非力の証となるスキル。
竜族の、世界すべてを屈服させる龍傲天。
絶大な力をもって、産まれてきたにもかかわらず。
最愛なる我が子に、この世の光すら見せてやる事が出来なかった証のスキル。
気高く強き竜族においては、あってはならない罪の証。
慌てふためく人間達。
突如として現れた、猛り狂う巨大なドラゴンゾンビ。
荒れた荒野で、地獄の様な戦闘がはじまった。
「あわてるな。ドラゴンへの対策は前回で学習済みだ」
「お、おう」
「左右に散らばり囲め。ドラゴンの正面には立つな。一撃で決めようとせず少しづつ削れ。特に足から狙え。それで勝てる。前回勝てた」
討伐隊の的確な指示が飛ぶ。
ドラゴン討伐の経験者は、圧倒的にドラゴンへの対応が早い。
「おおう」
「勝てれば俺もドラゴンスレイヤー。英雄の仲間いりだ」
「でも、ドラゴンゾンビの素材ってなんか駄目そうじゃね」
「全くだ。しかし、こっちには本物のドラゴンスレイヤーが何人かいるんだ。素材に期待できなくても、味方が強力な分、難易度は低い。楽勝だぜ」
約50人の人間達は、怒り狂うドラゴンゾンビを囲み。なぶり殺しにしようとする。
が、愚かしい。ほんとうに愚かしい。
前回そんな作戦が通用したのは、出産で弱体化が進みすぎいたからだ。
竜族の切り札となるスキルすら、使用不能状態まで弱っていたがため。
竜族の持つ切り札スキルは、他種族のそれとは明らかに格が違う。
少々のレベル差を跳ね返すどころではない。
レベルそのものの概念を、超克するものすら存在するほどだ。
それこそが、竜族が最強種族の一角に据えられる理由の一つである。
前回は、使う事が出来なかった。
が、今回は違う。
現在たったレベル5とはいえ。
アンデッド化してるとはいえ。
魂が劣化し、残りの寿命が少ないとはいえ。
この竜の体が持つ切り札は、使用可能な状態だ。
罪人の人間如きが、いくら数やスキルやレベルを重ねようと、怒れる竜族の切り札を止めれるものか。
「スキル発動する。大都市殲滅毒」
超弩級戦艦広範囲絶対人間滅殺腐竜
禍々しき名前を持つ竜の真価が、卵を砕かれた竜の怒りが、ここで、はじめて火をふいたのだ。
ドラゴンの体から、禍々しき農高な緑色の毒霧が撒き散らされる。
目の届く範囲。いや、それ以上の広範囲にまで広まっているかもしれない。
ドラゴンを取り囲んでいた人間達はなすすべもなく、毒霧に包まれ、瞬間的にバタバタと倒れていく。
立っていることすら出来ない。
禍々しき名前のそのままに、たった一人の人間だけ残して、その場にいた約50人程の人間の命を奪い去る。
「くだらぬ。こんな弱々しきものに敗北し、愛しい愛しい我が卵を壊されてしまったとは。口惜しい」
たった一人だけ残った人間の生存者は、見るまでもない。竜の命のスキル持ちだ。
愛しく尊い我が竜の卵を砕き、竜化を可能とした、忌まわしき生命。
竜の力を手に入れた為に、なんとか大都市殲滅毒にたえている。が、深く毒に侵され半死半生。
弱々しくもがいている。
竜化スキルを手に入れても、活かすことすら出来ずに、そんなものか。
その罪人をドラゴンは掴み、そのまま口に入れ、蛇のように丸呑みにした。
「カエサルの物は、カエサルの下に」
「ドラゴンの物はドラゴンの下に」
「それで汝の罪が消えるわけではなく」
「我が悲しみがいえるわけでもなく」
「我が子が戻って来るわけでもないが」
呟く。
「このようなか弱き者共に不覚を取り」
「大切な卵を砕かれた、我がふがいなさを永遠に呪う」
復讐を遂げてさえ、全く満たされぬ。
悲しみの鳴き声をあげ、超弩級戦艦広範囲絶対人間滅殺腐竜が動き出す。
「感じる。遠くに街がある」
「憎っくき残りのカタキ共がそこにいる」
「今すぐそこへたどり着き」
「一人残らず滅してくれようほどに」
コーンコーンコーンコーン
鐘がなる。福音スキル発動。
(さあ、目を覚ますんだ、君。君のマッマが大変だ)
「ん〜アキリアか、おはよう」
(あ、あいさつを僕からとったな。挨拶をするのは僕だけの特権なのに)
あいかわらずアキリアはわからない。
何かわけのわからない事で怒っている。
「相変わらずアキリアはよくわからんな」
(そんな事より君のマッマが大変だ)
「ああ、だいたい見てたよ」
(何だよ。覗いてたのかい。覗きは犯罪だよ)
誰が誰に言ってるのやら?
銀行強盗がコンビニ強盗にむかって、悪い事をするなって言うようなもんだろ、それ。
「ところで俺の体はどうなったんだ?」
(そうだった。君の体だったマッマが、怒りのあまり、ドラゴンゾンビとして生き返り。君の体を奪っちゃった)
お、おう。意味わからん。
「なんで?そんなんできるの?」
(う〜ん、はじめに憑依転生スキルが不完全だった?)
「え?」
(不完全にゾンビ復活してたから、空きがあったんじゃない?)
「そんなてきと〜な」
(僕にもよくわからないけど。ま、バグだね)
「夏休みが、永遠に終わらない、バク抱えた、恐怖のつまったゲームみたいなもんかな」
なんだそりゃ?自分でもわからん。
(例えがわからないよ)
「気にするな。それよりもマッマあの状態だとまずいのか?」
(魂の劣化スキルが絶賛発動中だ)
「それはまずい」
(魂がガンガン削られてる。もうすぐ君ごと消滅するね)
「ああああ」
(その前に君の親)
「まだ何かしてるの?」
(今自爆スキル生やそうとしてるから、自爆する気かも)
げぇ、なんてこった。それは最悪の死に方だ。マッマと自爆はマジ勘弁。
「そりゃ不味い。止める方法は」
(僕に任せて、君とマッマは体もスキルを共有してる)
「ああ、それで」
(福音スキルでマッマと会話させてあげるから、説得して)
「俺任せじゃね〜か」
(大丈夫。大丈夫。失敗してもさ)
「どうなるんだ?」
(僕のもとにおかえりするだけだからね。そこは僕に任せて)
アキリアはやっぱりアキリアだった。
コーンコーンと鐘がなる。福音スキルの発動だ
「マッマ。僕の声が聞こえるかい?」
「誰だ。我は我が卵を砕いた奴等を潰すのに忙しい」
「だろうね、じゃなくて」
「邪魔するのなら潰すのみ」
「俺を潰す?自分で自分の卵を潰すと?」
「我が卵はすでに砕かれた」
「あ、俺その卵です。はじめましてマッマ」
「な、ナニをいっている?」
突然隠し子が現れたみたいに動揺してるね、マッマドラゴンゾンビ。
「たしかに俺、一度人間に砕かれたけどさ」
「ぐうう無念だ」
「アキリアっていう、神だか悪魔だか、邪神だか覗き魔?」
「………」
「に拾われて、復活しちゃいました。テヘ」
「な、ナンダト。ホントウか?」
「マッマが今使ってる体」
「この身」
「その死体に転生したから」
「なんだと」
「そのまま暴れられると、俺も一緒に、もうすぐ死ぬけどね」
さらっと言う。
「なんてことだ。ナンテことだ。オオ」
「どうしたの?」
「たしかに我が内部に存在を感じる。卵を産む前を思い出す」
「そんな感覚わかるの?」
「ああワカル。おお神よ。偉大なる慈悲深き神。名をアキリアと言ったか、感謝します」
「誰のことだ?ソレ?アレは邪神かなんかだぞ?」
思わず突っ込んだ俺の言葉は、感極まっているマッマに無視された。
パッパかもしれんけど。
「慈悲深き神アキリア。我が生前最後に願った、我が子だけは助けてくれという、我が願いを叶えてくれたのか?」
絶望から、希望へとすくい上げられ。
感動に打ち震え、涙を流すドラゴンゾンビ。
邪悪な姿に似つかわしくないその姿は、ある種の矛盾に満ちた美しさを持っていた。
「とにかく変幻スキルを発動してくれ」
「うむ」
「それで魂の劣化スキル効果を封印してくれますか?でないと死ぬ」
いや、マジでその死に方は勘弁。
「そ、そうだ。ま、マズイ。タシカニマズイ」
「でしょ」
「あたり一面、超広範囲の人間共を道連れにするため」
「え?」
「最高火力の自爆スキルを使う寸前だった」
何しようとしてるの?マッマ過激すぎ。
「やめてくれ。死んでしまう」
ん?そういや、たしか自爆系スキルは捨てたはずなのに、何でマッマつかえるの?
「変幻スキル発動」
ドラゴンゾンビマッマは、変幻スキルにて変身。
ちっちゃなチビドラゴンへとその身を変えた。
「これでもう大丈夫。かな?」
「おお、危うく自らの手で、卵を壊す過ちをおかすところであった」
「危うく壊されそうだったのかぁ、そうなりゃアキリアおかえり言えて大喜びだな」
その様子がくっきりと目に浮かぶ。
(ああ、ホントだ、たしかに。僕はなんてことをしてしまったんだ)
「おい、アキリア」
(しまった。せっかくのおかえりチャンスを自らの手で潰してしまった)
「オオ、声が聞こえる」
「そいつがアキリアだよ」
「貴方が我が卵を救ってくれた、慈悲深き女神アキリア様ですか?」
(!!!)
「感謝します」
(!!!)
「どうか卵すら守れない、愚龍の感謝をお受け取りください」
マッマがおかしな事を言い始める。
「慈悲深き女神???うわ、それダレ?」
(僕の事?)
「きっと俺の知らない人だろうな。アキリア女神だったの?」
「我が卵よ」
「ん?」
「アキリアという名の神のことは我も聞いたことはない」
「あ、そうなの」
「だが慈悲深き神は、大抵が皆女神と決まっている」
「そうなの」
「特に、わざわざ死にゆく愚龍の、願いを叶えてくれる神なぞ慈悲深き女神以外にあり得まいよ」
そうなの?マジで?
アキリア定期的に俺を壊したいとか、
壊したあと、治したいとか言ってるけど。
ホントに大丈夫かな?その仮説?
邪神じゃないかな?
俺はアキリアは、男だと思ってた。
アキリア自体は沈黙している。
正体がバレて焦ってでもいるのだろうか?
「アキリアって実は女神だったのか?」
(僕が女神?女神アキリア?)
「慈愛と正義の女神アキリアに永久の感謝を」
(おおう。僕が慈愛と正義、しかも女神?)
「そうなの?」
(いやぁ、そんな事を初めて言われたから照れるなぁ)
じゃあ、違うって事じゃねえか。
ホントにそうなら、もう何度もそう呼ばれてるだろ。
って思わず言いそうになったけども。
マッマの感謝に水をさしそうだったから、やめとく。
「愚龍の怨みも怒りも心残りすらも、女神アキリアのおかげで昇華された」
「そなの?」
「満足して去るとしよう」
「マッマもう行っちゃうの?」
「ああ。思い残すことの無くなったアンデッドは、消えるのみ」
「成仏かぁ」
「この愚龍も長き時を生きて、やりたい事をやり尽くした」
「へぇ」
「最後の心残りも無くなった」
「………」
「この世界の片隅から去るとしよう」
「マッマは愚龍では無いよ。俺はこうして生きてるからね」
「………」
「次世代へバトンをつなぐ使命は、きちんとはたしたさ」
だって俺生きてるし。
「オオ。そう言ってくれるか」
「それにマッマがどれだけ強く、俺を愛しているかは」
「………」
「マッマの中にいた、さっき伝わって来たから」
「………」
「安心して逝ってくれ。愚竜どころかマッマは、負けてもかっこよかったさ」
首の無い死体状態でもかっこよかった。
思わず、自分の身体に選んでしまうほどに。
あの必死な死に姿は、愛に満ち満ちていた。
「もう悔いは無い。………我が卵よ」
「慈悲深き女神アキリアに感謝して、忠実に仕えるのだぞ」
「慈悲深き女神が、こうしてお前に加護を与えてくれているから、我はなんの心配もせずに、旅立てる」
「………世は満足じゃ」
そう言って。ホントに満足そうに笑って、マッマは消えていった。だが………
「まて、まてまてまて。最後の最期になんつった?」
世は満足じゃって、おいおい。しかもアキリアに忠実に仕える?
そんなことしたら、俺は、何回死んでる事か。
おかえりって言いたいから死んでくれ、とか言う奴だぞ。
むしろ心配だらけだろ。
マッマ人を見る目は無かったんだな。
(ふふふ。ふふふ僕が慈悲深き女神。女神かぁ。)
「あ、アキリア、」
(むふふ、それもいいなぁ。慈悲深き女神アキリアかぁ、もぅ最高)
あ、なんかこっちも満足してた。
このままアキリアも、世は満足じゃって、昇華されてくれねぇかなぁ。
そうすりゃ、もうちょい、マシになりそうなのに。