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8.崩壊前夜



 輸送隊斥候と合流したヒゲと腰ミノ。

 一緒にドラゴンの巣の洞窟からエスケープ。


 ヒゲはここから離れて、

 輸送隊斥候についていきたがった。

 たぶん、いざって時に、

 洞窟の中よりも、外のほうが逃げやすいからだな。


 洞窟の中にいても、輸送隊が到着した今、

 これ以上、金目の物を物色するのも無理だしね。

 トコトコ斥候のあとからついてって出口をめざす。

 斥候は急いでるため、結構前を走っていた。

 俺らはトコトコ歩いていくぞ。


「なぁヒゲ」

「何だよ腰ミノ」

「斥候が言ってた、ハイエナってなんだ?」

「他人が狩った獲物を、横取りしていく奴らの事だ」

「ああ、なるほど、お前………」


 と同業者か、と言いかけたところで、

 ヒゲから止められた。

 ヒゲが怖い目でこっちを睨む。

 次にかなり前を走る斥候を睨む。


「良いか腰ミノ。輸送隊連中にとって、ハイエナは天敵だ」

「だろうなヒゲ」

「あの斥候も、ハイエナは一人残らず皆殺しにしたいだろうな」

「商売敵か」

「ましてや超級の獲物。竜を横取りされた直後だ」

「なるほどなぁ。そりゃ大変だ」


 このヒゲも正体バレたら狩られるわけだ。

 そりゃ怖い目で、俺の言葉を遮るわけだわ。

 でも走る斥候との距離はどんどん離れて、

 あれ?

 あんまり距離離れてないな。


 あ、もしかしなくても、あの斥候。

 離れたふりして、俺らの会話盗み聞きしてる?

 俺等うたがわれてる?


 ようし、アイツは今日から斥候アキリアと名付けよう。

 ふぅ。

 油断もすきも無いな、人間って。

 ま、俺もドラゴンゾンビの正体隠しているし。

 お互い様ってことで、おあいこだろう。


 洞窟を出た。

 目の前の荒野には、さっきと違い、

 大勢の人間がたむろしていた。


 三十人くらいいるのかな?

 鎧をつけたものなど殆どおらず、比較的軽装備だ。

 幌のついた馬車と、大きな荷台つきの馬車も一台づつあった。

 あれでドラゴン運ぶ気だったのかな?

 

 斥候が、なんかガタイの良い日焼けしたおっさんと話している。

 間違いなく、消えたドラゴンと、

 俺らの事を話してるよな。


「ヒゲよ。お前の命は俺が握っている事を忘れるな」

「なに?」

「俺がチクればお前は………」


 フッフッフ。と俺は邪悪に笑う。


「アイツは輸送隊長バーナードだなぁ」

「知り合いか?」

「………流石にドラゴン輸送ともなると、良い人材使いやがるぜ」

「おい、無視するなヒゲよ」

「アイツクラスになると、俺の素性を割るのは簡単だ」

「そなの?」

「すでに知られてるかもしれん」

「げ?」

「だから俺をチクっても意味ないぞ」

「まじか」

「むしろ共犯にされないように注意しな」


 あかんわ、

 俺の命運は、逆にコイツに握られてるやんけ。

 ヒゲに共犯だと言われたら、どうしようもない。

 ま、俺も無罪じゃないし。ドラゴンだもの。

 しかもドラゴンゾンビの。

 いざとなれば暴れるか?

 ………正体を現したとして勝てるだろうか?


「バーナードって、そんなに凄いやつなのか?」

「ああ、鉄輪のバーナード」

「二つ名持ちか」

「輸送屋としちゃトップオブトップだな」

「ほほう」

「単騎の実力でも討伐隊とも遜色ないぞ」

「げ」


 そりゃ凄い。


「絶対にちょっかいかけるなよ」

「ヘイ。バーナード。ちょっとお前のズボンくれよ」

「!!!」

「とか言っちゃだめ?」

「ふざけんなよテメエ。危機管理能力ゼロか?」

「だって俺、フルチンだぜ」

「そうだけど。お前」

「腰ミノに使っていた、お前の上着は今、卵のから包む風呂敷だしな」

「おい、誰かそちらの人に、何か着るもの出してやりな」


 やや離れた位置にいる。バーナードがそう言った。

 あ、俺等の会話聞かれてた。

 これでヒゲの正体も聞かれたな。

 さらばヒゲ。だけどもヒゲは落ち着いていた。


「あれ?ヒゲ逃げないの?正体バレたぞ」

「今まで少々後ろ暗い事はしてきたが、捕まるほどでもね〜し。今回は別に悪い事何もしてないからな。俺」

「そうだっけ?お前悪いヒゲじゃないの?」


 てっきりガチの犯罪者かと思ってた。

 竜の卵の殻盗んでたし。


「俺はお前を拾って、討伐隊生き残りの、お前が卵の殻集めるの手伝っただけだからな」

「え?」

「そういう事にするなら問題ね〜だろ。ま、おまえを送り届けたサルベージ報酬くらいは、もらう気だったけど」

「………そうだっけ? んでサルベージってなんだ?」


 サルベージ?

 聞き覚えない言葉が出てきた。


「行方不明者を探して、回収してお礼貰う事だ」

「そんなんあるんだ」

「今回はお前が討伐隊の生き残りなら、討伐隊のドラゴン退治の報酬から、サルベージ料取れる」


 なんだ、このヒゲ。

 はじめはドラゴンの素材をちょろまかすとか、

 言ってた気がするが。


 このヒゲ途中から、

 俺をドラゴンの素材のついでに狙ってたのか。

 ある意味で、俺もドラゴンだから見る目はあるな。


「お前、そんな悪い事を企んでたのか?」

「別に悪くないだろ。むしろ親切だ」

「この俺を売って、儲けるつもりだったとは」


 人身売買?

 ドラゴン売買だけどな、実際は。


「売るんじゃなくて、討伐隊の生き残りを救出して、サルベージ費用をもらうのさ」

「なんか違うのか?」

「保護だ保護。今回は討伐対象が超大物のドラゴンだから、討伐隊のサルベージ費用も超高くなると思ってな」

「そういう事は先に言えよ」

「そうでも無けりゃ、お前に上着をやるかよ」

「そうか。せちがれ〜」

「それ高いんだぞ。サルベージ費用が、沢山もらえるのを見越した先行投資だ、それは」


 ふむ。言われてみれば、ヒゲから貰った上着は、

 意外としっかりした作りの服だったな。

 腰ミノにするには上等すぎる。


 ヒゲは、親切なヒゲでは無かったが。

 すまんな俺も同罪だ。

 だってね。俺討伐隊のメンバーじゃないから、

 サルベージしても、なにももらえんよ。

 悪けりゃ俺と一緒に、詐欺の片棒として捕まるな。

 哀れヒゲ。


「お〜い、そこの二人。悪いが少し事情を聞かせてもらうぞ、」

「ほーい」

「特に行方不明になってる、ドラゴンの死体のな」


 むこうの話は終わったのか、

 バーナードと斥候が近づいてくる。

 おいおい、バーナード190くらい身長があるんじゃないのか?

 やたらでかくて威圧感あるな。

 俺平凡な身長だしね。


「俺が見つけたのは、素っ裸のコイツと、ドラゴンの卵の殻だけだ」

「お前は死体ハギ専門のガットだな」

「俺に、なんて二つ名つけるんだ」

「噂で広まってるぜ」

「あっちゃー。俺はあくまで、生存者はサルベージして、死体を見つけたら埋葬してやってるだけだ」


 ヒゲには思ったよりも、

 というかハイエナよりもステキな二つ名がついていた。

 バーナードの部下が、服を運んできてくれた。

 服を、うけとりながらヒゲをからかう。


「ヒゲ、お前そんな事やってるのか」

「馬鹿違うよ。サルベージが本業。埋葬は、まぁおまけだな。死体の所持品は貰うけどな」

「死体ハギそのままじゃね〜か」

「そんな事よりも、ドラゴンの死体の行方を知らないか?」


 話が脱線仕掛けるのを嫌って、バーナードが本題に入る。


「いや、俺が来た時には無かったよ。もしもドラゴンの死体があれば、卵の殻じゃなくて、ドラゴンの死体から、素材をちょろまかしてる」

「おい、お前、犯罪自白してるじゃね〜か、ソレ」

「まぁ未遂だしなぁ。どうもバレてるっぽいし」


 なに?

 ほんとうか? 全然気が付かなかった。

 ヒゲの正体バレバレだったか。

 まぁ怪しいヒゲだしな。


「まぁそれは良い。ドラゴンの死体のほうが一大事だ。ガット追跡を手伝え。それでドラゴン素材窃盗未遂は、目をつぶってやる」

「だろうと思ったけど。具体的に何をすればいいんだ?手は足りてるだろ」

「この辺りでドラゴンの死体を、強奪しそうな奴と、やれそうな奴の情報とねぐらを教えろ」


 ホウホウ、地元の犯罪者の情報がほしいのね。


「ドラゴンクラスの大物を扱うとなると、ボラニアの森盗賊団か、阿修羅党の連中か、後は隣の国の第三王子」

「そのへんは、ヤバすぎて俺では手が出せん」

「まぁそうだろうな。」


「ドラゴンの死体が行方不明となれば、物が物だけに、本格的武闘派連中が、そいつ等に当たることになるだろうな」

「だよなぁ」

「こっちはもう少し小物をあたる、地元の連中ではどうだ」

「地元のドラン兄弟一党が、ドラゴンに執着してたな。あとは大商人チゴヤとかか」

「また厄介な」


「デカブツを運び出したのに、全く足取りが残ってないから、凄腕の輸送隊か、超級魔道士使っただろうからなぁ」

「超級魔道士から、足取りを当たるのは無理だ。同業の輸送体なら楽勝だ。よしドラン兄弟とチゴヤを調べるぞ。手伝え」

「はいはい。コイツはどうする?」


 と、ヒゲは俺の方を指さした。


「そうだな。その前に君はドラゴンの死体の行方を知らないか?」


 俺はバーナードの部下が運んできてくれた服に、着替える事に専念していた。

 ふむ、なんか話が長かったから眠くなってきたし、コイツ良い奴そうだから。


「実は俺がドラゴンなんだよ」


 脊椎反射的に自首してみた。

 って何でじゃ?

 なんで勝手に自首した俺?

 自分でも体が、なんか制御できない。

 不味い。

 失態だ。

 正体がバレる。

 いや、いまはともかく、なんとかこの危機を切り抜けねば。


「な、そいつドラゴンの呪いのブレスで、頭がぽかぽかしてるだろ」

「おい、人を異常者扱いするな。ホントだって、俺の体はパッパの体でドラゴンなんだよ」


 だからなんでバラす俺?

 なんか体が、………変だ。

 ………体が言う事を効かない。


「たしかに、だいぶ混乱しているみたいだな」

「ドラゴンの呪いやべ〜よ」

「ドラゴンの呪いのブレス。ききしにまさる威力だな。ドラゴンが死してもなお、その効力は続くのか」


 誰にも信じてもらえなかった。

 ホントのことなのに。

 天動説を唱え、信じてもらえなかった男。

 ガリレオ・ガリレイの気持ちがわかるよ。

 それでも俺はドラゴンだ。

 きっと回っている。

 ところでガリレオ・ガリレイってだれだっけ?






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