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7.ヒゲと腰ミノ悪巧み

 


 帰って来ないヒゲを追って

 洞窟竜の巣へとレッツゴーだ。

 ヒゲは死体になって、転がってたらどうしよう?

 きっと真犯人はアキリアだ。


「お〜い。ヒゲ。どこいった〜」

「おおう。俺はガットだ。ここにいるぞ」


 洞窟の中でヒゲことガットは、

 地面に這いつくばって、

 懸命に黒い何かをかき集めていた。


「なにやってんだ?ヒゲ」

「おおう。ここには、ドラゴンの死体は無かった」

「そういったろ」

「けど、代わりにいいもんあったぞ」

「ん?何だそれ」


 ヒゲは何か黒い薄っぺらいものを、

 手のひらにのせて見せてくる。

 ん〜ん。何だろ?石?


「卵の欠片だよ。凄いだろ」

「おおう」

「たくさんあるぞ。なんと竜の卵の欠片だ」

「な、何だと」


 前世の自分の欠片と、またも再会するとは。

 う〜む。しかしな。

 目玉焼きほどのインパクトはないな、

 60点。


「そこらへんにいっぱい落ちてるぞ。宝の山だ」

「貴重なのかい?それ?」

「ああ、激レアだ」

「そうなのか」


 う〜む。ドラゴンって余す所なく宝だね。

 前世の俺は凄かったんだなぁ。


「何せドラゴンってのは、寿命が長い」

「だろうな」

「めったに卵を産まないから。卵の殻とか超貴重」

「お、おう。まぁ頑張れ」

「お前も拾えよ。まだまだあるぞ」


 う〜ん。前世の自分の欠片拾い。

 シュールすぎて引くわ。

 なんか使わなくなった補助輪くらい興味ないわ〜。


「俺は腰ミノ一丁だぞ。何処に持てば良いんだよ?」

「腰ミノで包めよ」

「断る」


 腰ミノ脱いで、フルチンで前世の欠片集める?

 想像して笑ってしまった。

 それ頭おかしい。

 それはもう、何かの儀式だ。

 邪神とか呼び出せるかもしれない。

 アキリアとか呼び出せそう。


「コレさ、小さな欠片一つで家が買えるぜ」

「な、なんだと?」

「好きなもの手に入れろよ」

「え? まじで?」

「飯、服、武器、金、家、女、馬車、そうだ国を買おうぜ国を」

「こんなもんが、そんなに価値あるの??」


 思わずしゃみこがんで、とっさに卵の欠片集めてしまう。

 は、コレが人間の習性本能か。

 金の魅力に逆らえん。

 人間とは、ドラゴンに競べて、なんて哀しい生き物だ。


「まぁ国は無理かな。でも、それ以外は大抵いける」

「まじでか、凄いな」

「大儲けだ」

「でもそんなレアなら、もしも売ったら、足ついて捕まるんでね?」

「あ!」


 あ、ってなんだよ。あ!って。

 このヒゲ悪いヒゲかもとは思っていたけど、

 頭も悪いヒゲだったか。

 そんな希少品。

 最近刈られた竜。無くなったその卵の殻。

 すぐに自分が犯人だと言ってるもんだ。

 本物の盗品名画売るようなもんだ。

 素人にはさばくの無理。

 捕まってしまう。


「ヒゲよ。安全に盗品を売りさばけるツテは、持ってるのか?」

「ない」

「ドラゴンが討伐されたってのは、知れ渡ってるんだろ」

「ああ。町中の噂だ」

「そこで、こんな希少品売ったら、盗んだって出処パレバレだろ」


 なにか対策持ってんのかね?


「まずいぞ、腰ミノ。コレは罠だ。高度な罠だ」

「おい?」

「手を出すと捕まる。しかしこの卵の殻を手放すのは………」

「おい、お前。今俺の事をなんて言った?」


 腰ミノってなんだ? そのあだ名。

 まぁそうだけど。

 そうだけどなぁ。

 なんか、いろんな装備の中でも、

 下手すりゃ、最も駄目な呼び名だろ、それ。


「腰ミノは腰ミノだ」

「なに」

「俺がヒゲもじゃなら、お前は腰ミノか、フルチンだ」

「フル………。その呼び名はやめろ」

「武士の情けだ。腰ミノにしといてやる」


 何という理論武装。反論できん。

 こしみのと鬚のコンビか、立派な山賊だなこれ。


「………フルチンよりはマシか。ヒゲの情けをいただいた」

「いいのか?」

「とりあえず、このなんとか卵の欠片を売って、服を買おうぜ服」

「お、おう」

「腰ミノから文明人に進化するチャンスだ、俺」


 使わなくなって脱ぎ捨てた卵の殻。

 それを売って着る服を買う。

 夢が広がるね。


「お前、俺が話ふっててなんだが、変な奴だな」

「そうかな?」

「ドラゴンの呪いのブレスは、人をそこまで壊すのか?」


 何だよそれっ?

 って思ったが、

 そうか俺は今そういう設定だったか。

 余計なことは言わんとこ。


「目的が出来た。これでもう怖いもんはない。俺はやるぜ」

「おお」

「目指せ、脱、腰ミノ生活」

「もっと志を高く持とうぜ」

「でもな………腰ミノで卵の欠片を包むから、すぐにもフルチンに逆戻りだぜ。俺」


 腰から元ヒゲの服を外して、それに卵の欠片をのせる。

 このアイテムは、ヒゲの上着から腰ミノへ。

 更には風呂敷へと、三段階に進化可能な便利アイテムだ。


 フルチンや、腰ミノから脱出する。

 そのために前世の欠片を売りさばく。

 う〜む。やっぱりシュールだ。


「売りさばく方法だがな」

「何か浮かんだか?」

「思い切って、他の国で売るってのはどうだろう?」

「お、いいな。それ」


「そうだろ、そうだろ。他の国に行っちまえば、しらね〜よ」

「おお」

「コレは別のドラゴンの卵の欠片で〜すって」

「それで通るのか。何だ、簡単じゃないか」

「………いや、無理かな。まずバレる」


 それでは意味がない。

 

「まぁ、この国で売るのに比べれば、確実に安全度が増す」

「そうか」

「よし。思いついた、まず卵の欠片を隠し持つ」

「それから?」

「お前が討伐隊の一員だと認められれば、それで良し」

「うむ」


 無理だけどな。


「呪い受けた慰謝料とかなんとか、報奨金とか」

「なるほど」

「駄目なら、隠した卵の欠片持って、他国へGO」

「いいなそれ」

「ここまでは決定でいいか?」

「………ああ」


「いやぁ駄目だろ」


 離れた所から、俺達以外の男が声をかけてくる。


「誰だ?」


 いかん。全然気が付かなかった。

 欲望に目が眩むと、注意力散漫になるのな。


「ドラゴンの死体を運ぶために来た。輸送隊の斥候の者なんだが」

「ナニィ?」

「やってきてみりゃ、ドラゴンの死体は無いわ」

「無いね〜」

「他国に逃げる準備をしてる奴がいるわ。お前等の持ってるのはドラゴンの素材か?」


 あ、ヤバイ。コレ捕まるんでない。

 いや、待て。まだなんとかなる。

 上手く言い抜ければ。

 ………ドラゴンの卵の欠片を手に持つ俺等二人。

 欠片を包むために、フルチンに戻った俺と、斧持った悪いヒゲもじゃ。

 さて、どう言い逃れる?


 俺に無理でも、きっと俺には出来る。

 矛盾してるって?いいや、なぜなら俺には切り札があるからだ。

 困ったときの福音頼み。


「頼むぜアキリア、福音発動」


 直後にコーンコーンと鐘の音がなる。


(やあやあ、さっきぶりだね。僕になにかできる事はあるかい?)


 アキリアは声からしてウキウキと、楽しそうだった。


「オッス。俺腰ミノ。じゃ無くて今フルチン」

(イロイロ駄目でしょその挨拶)

「ここを切り抜ける為の、上手い説明教えてくれ」

(君がテンパって、だいぶおかしくなったのはわかったよ)

「至急助けてくれ」

(でも簡単じゃん。まかせて)

「頼りになるな」

(僕の元に、ただいますれば、すべて解決さ。僕もそろそろお帰りって言いたいしね)


 死ねってことか?

 頼む相手を間違えたな。

 アキリアはやっぱりアキリアだった。

 いろいろと物騒だ。


「却下。俺的にNO。もっとこう、マイルドなやつ頼む」


(う〜ん。じゃあ、自首すれば?刑期はマイルドになるんじゃ無いの?)


「根本的に方向がおかしい。お前の叡智は、そんなもんじゃないだろ」

(まあね)

「これ福音だぞ。なんか福とか縁起良いし、もっと良い策を」

(う〜ん。そう言われても。僕は、そろそろお帰りが言いたいんだよ)


「もう駄目だ。アキリアは駄目な奴だった。こうなったらヒゲだ。ヒゲの叡智に期待しよう」

(僕はヒゲ以下かい?)

「ヒゲ、今の俺達の状況を輸送体の人に、納得してもらえるように説明してくれ」


 なるべく怪しまれない様にお願いします。


「お、おいヒゲっておっさん」

「ああ、ビビるよな。あいつの行動」


 ヒゲともう一人の男は、俺に奇異の目を向けていた。

 てか、びびって1歩引いている。


「あいつ急に、全裸でいきなり大声で独り言を、あいつ、いったいどうした?」

「あ、ああ。あいつは………………そうだ。たぶんドラゴン討伐の生き残りの一人なんだ』

「何?本当か?」


 やけに驚く輸送隊斥候。


「断言はできないんだが、話を聞くと。どうもドラゴンの呪いのブレスにやられたらしくて」

「うあ〜あいつか。ブレス食らった奴って。何人かやられたって町でもその話聞いたぞ」


「頭パッパラ状態の全裸で、ああして一人で、ブツブツ言ってた」

「重症ではないか。それ?」

「だから、とりあえず保護した」

「そうか」

「ここなら輸送隊か、討伐隊の誰かが来るだろうから、ここで待ってたんだ」

「なんとそう言う理由だったか」


 ヒゲの叡智と、福音スキルでのアキリアとの会話は、

 俺を頭がパッパラ野郎にしてくれやがった。

 なんてこったい。

 しかし、なんとか切り抜けれそうだから、文句も言えん。


「あ、そのフルチン刺激するなよ」

「え?」

「頭パッパラでも、討伐隊生き残りの英雄かもしれねぇ」

「………」

「下手に暴れられると、俺等じゃ負けるかもだから。さっき刺激して、ちょっと怖かった」

「わかった。たしかに注意する」

「丁重に扱ってくれ」


 これ脅迫じゃね?

 俺に、手を出すなって事だよね?


「あ、ああわかったよ」

「よし」

「でも、なんで英雄が、まだここに残ってるんだ?」

「たぶん死体と間違われて、おいていかれたんだろ」

「ありえるな」


「それか頭パッパラだからな」

「………」

「捨てていけば、分前増える」

「そ、それはあまりにも」

「これ幸いと、ここに捨てられたんじゃね?」

「な、なんとそれは酷い」

「周り見ろよ。放置された死体あるだろ」


 周囲には、竜に殺されたであろう死体がいっぱいだ。


「あるな」

「大物の賞金かかった討伐隊なんて、複数パーティの寄り合い所帯だ」

「ああ」

「仲間内で何があっても、全然おかしくね〜よ」

「そうかもしれんが」

「大金の前に、人は無力だ」

「なんて世知辛い」


 う〜む。ヒゲめ。完全に言いくるめやがった。

 俺はあのヒゲをなめていたかも試練。

 輸送隊の斥候の俺を見る目が、

 不審者を見る目から、同情する目に変わっていた。

 あのヒゲは悪いヒゲから、とても悪いヒゲに昇格だ。


「まぁそんなわけで、俺は思ったんだ」

「?」

「ドラゴンブレスにやられて、頭パッパラなコイツにさ」

「俺に?」

「せめて少しでも分前が入るようにな」

「おお」

「ここで待ちながら、せめて、こいつにドラゴンの卵の欠片くらい、持たせてやろうと思ったのさ」


 ドラゴンの卵の欠片を、手に持ってみせるヒゲ。


「それ、ドラゴンの卵の欠片か?」

「そうだ」

「お前等、さっき他国に逃げるって言ってなかったか?」

「コイツが仲間から分け前もらえなかったらな」


「いや、そうだ!それよりもドラゴン本体は何処に行った?」

「他国に逃げるのは、まぁ、こいつが名乗り出ても、討伐隊にしらばっくれられた時の、保険の計画だよ」

「そっちはわかった。それよりドラゴンの死体だ」

「ドラゴンの死体については、何も知らね」

「ほんとか?」

「俺等がここに来たときは影も形も無かったよ」


(まぁ、ここにドラゴンいるけどね)


 アキリアの声が頭に響いた。まだ福音切れてなかったか。まぁ良いけど。


「な、何だと、糞。しまった、ハゲタカに先を越されたか」

「やっぱりそう思うか」

「おまえら、ここで待ってろ。俺は仲間に事情伝えて、ハゲタカ追跡隊を出さなきゃならん」

「俺達も洞窟の外までついてくぜ」

「ああ、別にかまわんが」


 そういう事になった。






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