69チアゴ商会への道
「さぁ走れ上腕二頭筋」
「うおおおおおおお」
俺はショタバンテス姿で、
上腕二頭筋の背中に乗っている。
上腕二頭筋は、筋トレの一環として、
王都から走ってセイウの街まで行くことを提案した。
馬よりも早く走って見せる。と言い切った。
足に自信があるらしい。
俺には、その芸当は無理だと言うと、背中に乗れという。
Gになって乗ろうとしたら拒否られた。
むしろ負荷がかかる竜形態をリクエストされた。
だが、どう考えても目立つ。
竜や成人男性を背負う筋肉とか、悪目立ちしすぎる。
なので、ひと目のないところまで、ショタバンテスモードで背負われる事にした。
甘かった。これはこれで注目の的だ。
イケてるマッチョが、妖精のような子供を背負って爆走中だ。
目立ってしゃあない。
せいぜい、背中の子供こと、俺がはしゃいで見せて、事件性を消すしかない。
一歩間違えれば、通報待ったなしだしな。
妖精のような子供がはしゃぎ。
それをおんぶするにこやかな爆走イケメンマッチョ。
ある意味最強の騎兵が誕生した。
軽装筋肉騎兵だ。(イケメン笑顔付き)
「軽い。負荷が軽すぎますぞ。もっとヘビィに」
「人家の無い裏街道に入る所までは軽負荷、短距離走だ」
「御意」
「そこから先は、お望みどおり、竜になって高負荷長距離走にしてやる」
「おおおおお。やったるのじゃ」
猛り狂う筋肉。装備は無いに等しい半裸だが、
重々しい筋肉に鎧われている。
なんだ?この無双感は?
もう筋肉に跨って戦場を駆け回っても、行けそうなほどテンションが上がってしまった。
疾き事風のごとし、騒がしい事夏のセミの如し
侵略する事火の如し、爆発する事火山の如しだ。
爆走する筋肉は、音の壁を超えた気がした。
むう。風がぐぅ気持ちいい。
俺は自分が筋肉教団に侵されつつあるのでは?
との疑念が頭に浮かんだが、
そんな事すらどうでも良くなる程、
筋肉スピードに酔いしれた。
「ふは、ふはははははははは」
「そおうれええええええ」
駆ける翔ける全てを賭ける。
共感覚とでも言うのだろうか?
この瞬間。俺は上腕二頭筋と気分が一つになった。
この瞬間だけは、俺は風になった。
そして脳筋になったのである。
正直全てを筋肉に賭ける脳筋の思考は………
気分が良かった。
「そろそろ人目も無くなったな」
「竜でも何でもどんとこいじゃ」
「よし。変幻」
「ウォッシャー」
脳筋の背中で、リトルドラゴンに変幻した。
直立歩行した際の全長は、一メートル五十程しか無いが、
体重は成人男性を遥かに上回る重量だ。
正直測ったこともないが。
「ふおおおおおお」
「ウギャ?」
「大丈夫。我が筋肉に死角なし」
ガチリと、何か筋肉からおかしな音がした。
そして上腕二頭筋はさらに加速した。
コイツはもう人間じゃないな。
ガチムチ筋肉に跨る竜。
筋肉騎竜兵の誕生だ。
未だかつて、ここまで強力な変態騎兵は、存在しなかったに違いない。
「ウギャアアアアア」
「うおおおおおおお」
雄叫びをあげ。爆誕した変態騎兵は、ひとけのない街道を爆走した。
「む、前方に小鬼の魔物じゃ」
「グルギャアー」
「御意」
コチラを見て、驚いたのか、呆けた小鬼。
気持はわかるよ。変態騎兵だもの。
こんなの見たの初めてだろうし、
だか、そんな事はお構いなしに、
小型の魔物を武器も使わずに、体当たりで跳ねる筋肉騎兵。
吹っ飛ぶ小鬼。たぶん致命傷だ。
ぐぅ強い。速い。気分が良い。
最高じゃないか。
人力車の変わりに、マッチョにおんぶしてもらって疾走する。筋肉車とかできたら繁盛するよ。きっと。
国とかから怒られそうな気もするけども。
「ウギャ。ウギャ。ウウウギャ。グギャアアアア」
「御意」
たまに現れる魔物を、片っ端から跳ね飛ばしながら、
我々は暴走した。




