55セーラからの手紙
半壊した王子の広い部屋で、
部屋の掃除修復をする人や護衛に混じって
俺はモグモグ魔物肉を食べていた。
王子は物騒な剣をコレクションルームに返してから、
部屋の模様替えを計画している。
襲撃されたのに意外とあっさりしている。
慣れてるのか?
「セーラ様からお手紙が………」
「燃やせ」
「はい」
第三王子は最後まで言わせなかった。
手紙を持ってくる人は、
おそらく王子の有能な秘書だろうに。
「ちょっと待て。内容に目を通してるのだろう?」
「はい」
「燃やしていい内容なのか?」
「ドラゴン様へのラブレターと言うか」
「ミギャ?」
「何だって?僕宛の交渉ではないのか」
「王子宛ですが、内容はドラゴン様へのラブレターか、恨み言か、暗号なのか?呪いの言葉なのか、判断がつきません」
「なんだそれは?」
「内容的には逢いたいから始まって」
「始まって?」
「ウギャ?」
「どうして戻って来ないのか?」
「ほうほう」
「ミギャミギャ」
「逃げてこれるだろを経由して」
「経由して?」
「ミギャ?」
「後は、もう何か恨み節が一杯。最後とか怖い。読むと精神やられます。後半は血文字で書かれてなぁ」
「………さすが悪魔セーラだ」
「ミギャァァァァ」
コレはたぶんアレだな。
早く自力で戻ってこいって、メッセージだな。
セーラは俺のゴッキー変幻知ってるからね。
………あ、メイドがガタガタ震えていた。
ドラゴンゾンビの事を知ってるからね。
ドラゴンゾンビになって戻ってこいって、
メッセージだと勘違いしてるね。
でも違う。そっちはセーラも知らないんだ。
残念ゴッキーでした。
それにしてもセーラめ。
なぜ帰って来ないのか?だと。
そんなのここの魔物が美味いからに決まっている。
俺は魔物をたくさん食べて、生き返りたいのだ。
「それから、王子。国王からの命令です」
「父上がなんと?」
「セーラ様との戦闘行為を辞めて、竜を返却せよと」
「な、何?」
「盗みの為に近衛兵を貸したわけではない。と」
「うむ。あそこの次女をさらう為に借りたんだった」
「ウギャ?」
次女はさらっても良くて、ドラゴン駄目?
いったいどんな基準だ?
「セーラめ。父上に泣きついたか」
「国王からの正式な命令です。拒否すれば近衛が」
「借り受けている近衛を手放すか、竜を手放すか?だと」
「おそらくは」
「そんなの、竜の方が大事に決まっているだろう」
「「王子」」
「酷いですぞ王子」
「近衛は今ここの主力ですぞ」
その場にいる近衛兵達が突っ込んだ。
この王子、大概頭のネジとんでるね。
「お、おかわりです」
「ミギャ」
料理人が震えながら料理を運んでくる。
それをメイドが震えながら俺の前に並べる。
震えてるから料理がこぼれる。
む〜。どうにかならんかな?
そうだ!
「ウギャ。ウギャ。グエ」
口から、前に折った自分の爪と牙を吐き出す。
魔女が沼竜の所に持っていって、
沼竜、受取拒否からの俺に返却された奴だ。
何気なく腹にしまっていたが、
一向に消化される気配が無かったので丁度いい。
「ド、ドラドラちゃん何してるの?」
「ウギャウギャ」
吐き出した唾液と胃液にまみれた竜牙を、料理人に。
唾液と胃液にまみれた竜爪をメイドに手渡した。
チップだ。受け取り給え。
竜の唾液と胃液に汚れた手で、
竜の爪と牙を手にした二人は、
何故か、さらにガタガタ震えだした。
「あ、あ〜。ソレ竜の牙でしょ。ドラドラちゃんの?」
「ミギャ」
まあなって指を立てる。
「いいな〜。いいな〜。僕にもちょうだい」
「ウギャウギャ」
もう無いと手を広げて振ってみせる。
料理人が王子に牙を差し出す。
が俺がそれを受け取って、
料理人のポケットに突っ込む。
そしてポンと料理人を軽く叩く。
メイドにもウインクする。
「は、はい。絶対に誰にも喋りません」
「わ、私もです。約束します」
口止め料ではないのだけれど。
「な、何をだ?二人共何を言っている?」
「ミギャ(気にするな)」
「何をドラドラちゃんと話している」
「ミギャ(気にするな)」
「喋らないとはなんだ?あと爪と牙うらやまし〜」
「そ、それは」
「なんでお前達だけがそんな物貰えるんだ。うらめしい。はけ、何があった?」
「ミギャ!(気にするな)」
「しゃ喋りません」
頭の狂った王子の嫉妬混じりの追求に、
どこまで耐えられるやら。
悪魔は契約に五月蝿く、竜は約束にこだわる。
竜と約束すると大変だぞ。
目が血走り、狂った王子の嫉妬と同じくらい大変だ。




