54誰が誰を恐れるか?
「ミギャ、ミギャ、ミギャミギャミギャ」
上機嫌で、エンペラークジラの肉を食べる。
上機嫌な俺と反対に、
料理人とメイドは、ガタガタ未だに震えてる。
第三王子の部屋は、半壊してるが気にしない。
料理人とメイドのメンタルも、半壊してるが気にしない。
俺は頑張った。
寿命を削るほど頑張った。
だから消費した寿命を回復するため食べる。
この魔物肉は良い。
確実に俺の魂が回復しているのがわかる。
「ミギャ、ミギャ、ミギャミギャ」
上機嫌だ。
目の前でガタガタ震える、
料理人とメイドの姿すら微笑ましい。
二人の様子を見て、怯えることは無いよと、
身振り手振りで伝えてみたが、全く効果が無かった。
むぅ。なぜだ?敵意は無いのに。
「な、こ、これは」
ようやく第三王子の兵がやってきて、
部屋の惨状に気がついた。
すぐに王子のもとへと知らせに走る。
王子が戻ってきてからが大変だった。
料理人とメイドは、俺がドラゴンゾンビに変身した事は内緒にして、その他の事情を話した。
話せば俺に食われると思ったのだろう。
二人は今もガタガタ震えている。
そして俺も二人に混じってガタガタ震えていた。
「バカ兄貴が、よりによってドラドラちゃんに、首切り騎士をけしかけるとは、ぶち転がして竜の餌にしてくれる」
王子がヤバイ。マジでヤバイ。
魔竜王剣とか言う、ヤバイドラゴンキラーを手に持ち、ブチ切れまくっていたのだ。
あれで切られたら、ドラゴンゾンビ状態でも瞬殺されかねん。
正直調子乗ってすまんかった。
あんなんかすっただけでも、死ぬかもしれん。
なので、
料理人とメイドに混ざって、俺はガタガタ震えていた。
俺が王子に怯えるのを見て、
料理人とメイドの王子を見る目が変わっていた。
王子はガタガタ震える俺に
「もう、首切り騎士は来ないから怖くないよ〜」
とか、言っていたが、全く効果がなかった。
首切り騎士は怖くない。
俺は第三王子が持つ剣と、狂った様子が怖かったからな。
むぅなぜだ?
第三王子に敵意が無いのはわかっているのに。
「ミ、ミギャ〜」
「もう少し待ってね。バカ兄貴をドラドラちゃんに食べさせて、その後の糞を、僕のコレクションに加えてあげるから」
「ミギャァァァァァァ」
竜の本能的に、強力なドラゴンキラーは受け付けない。
が、それをタガの外れつつある王子が持っているのは、さらなる恐怖だった。
「爺やは、まだ戻らないのか?」
「はい、逃げた魔人を追いかけています」
セルバンテス撃退されたのか?
こいつ等も大概バケモンだな。
「そうか、伝令を。そっちは良いから戻って来いと」
「はは。第二王子を狙う気で?」
「ああ、そうだ。首切り騎士が抜けた今はチャンスだ」
「豚皇女と噛み合わせる策が上手くいってますが?」
「くそ、そうだった。兄を仕留めると豚が倒せなくなる」
第三王子が絶望的な表情で呟いた。
俺が恐れるこの王子にも、さらに恐れる相手がいるというのは、皮肉である。




