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52/306

52顕現


「この世界。全ての竜を排斥せよ」


 首切り騎士はそう呟いて、コチラを狙う。

 もはや絶体絶命だった。

 吹っ飛ばされたおかげで、少し距離は稼げたが、

 逃げ道の扉は敵のうしろ。

 敵との間に障害物も何も無い。

 ジリジリと首切り騎士が近づいてくる。

 詰みだ。

 殺される。

 死ぬ。


 変幻する?無理だ。

 あの敵の速度なら、何に化けても逃げ切れない。

 逃げれ無い。


 戦う。

 無理だ。速度が桁違いだ。

 肉を切らせて骨を断つ?

 無理だ。

 リトルドラゴンの鱗でも次は両断される。

 肉を切られて骨まで断たれるだろう。

 初撃を食らったのが不味かった。

 あれで向こうの速さ攻撃力がわかった。

 だが、コチラの守備力も見抜かれた。

 もはや手加減も油断もなく、2撃目は修正を加え、 

 コチラを確実に真っ二つに切り裂くだろう。


 だから、もう選択肢は二つしかない。

 一度も使用したことの無いデイジーカッター。

 アキリアに使えば巻き込まれて死ぬと言われた自爆技。

 皆まとめて死ぬか?

 あるいわ

 あるいわ

 あるいわ


 前に


 「僕を追い詰めた奴等が悪い」


 第三王子がイカれた目でそう言っていた。

 あの時は笑って見ていられたが、

 自分が追い詰められてわかった。

 烈火に焼かれたときに、その者の本性がわかる。

 屑は烈火を前に燃え尽き、

 黄金は焼けても残って光輝く。

 きっとあの王子は黄金だ。

 追い詰められて、焼き切れるその前に

 ジタバタと鈍い輝きを放ち始めていたのだろう。


 対して俺は。

 第三王子の言葉を借りるならば、


「きっと竜を追い詰めた、首切り騎士が悪いんだ」


 烈火に焼かれ、その本性を晒すなら、

 俺の晒せる姿なぞ、屑でも黄金でもなく、

 ただただ、腐れて穢れた巨大な竜の成れの果て、

 それしかないのだから。


 死にたかない。死にたくない。死にたい筈も無い。

 だって俺は、まだこの地に生まれ落ちて、

 厳密にはまだまともに生きた事すら無いのだから。

 一度目はたまごのママ殺された。

 二度目は初めから死んでいた。

 まだ生き返ってすらいない。

 せっかく竜になれたのに、

 まだ生きてない。

 生きているとは言えない。


 変幻スキルなどの、まやかしでは無く、

 生きたドラゴンの足で大地を踏みしめてみたい。

 人間では感じたことの無い、竜としての竜生。

 それを感じてみたい。

 圧倒的な力を感じてみたいのだ。

 比する者すらいない竜の力を実感したい。

 炎を吐いてみたい。

 その大きな口と牙で、大きなご馳走に齧り付いてみたい。

 何よりも、何よりも。

 大空を飛んでみたい。

 朽ちたボロボロの腐った竜の翼ではなく。

 みずからの背中から、はえた大きな自分の翼で、

 自分の力で、自由に大空をかけてみたい。

 たった、一度で良いんだ。

 翼にいっぱいの太陽を浴びて。

 日の光の下を、誰はばかることなく飛んでみたい。

 たったそれだけで、

 それだけで、自分は多分救われる。

 たったそれだけで、どれだけいい気分になれる事か?

 すべての事がどうでも良くなるだろう。

 全てを許せるだろう。自分自身ですら。


 おそらく自分は、前前世で何かをやらかした。

 でなくば。

 全ての者を吹き飛ばしたい。

 善悪全ての区別無く、自分も含めて消し飛ばしたい。

 そんな事を思う訳はない。

 そんな事を何処かで思っているから、

 たぶん自爆スキルばかりがついてくる。

 竜になりたかったのだって、その延長だ。

 とにかく暴れたかった。

 俺は多分悪だ。

 あたり一面を消し飛ばしたい。

 何よりも自分をも。

 

 だけれども、だけれどもだ。

 竜の身体は思っていたよりも快適だった。

 変幻スキルなどといった、まがい物でさえ爽快だ。

 もしも本体が生き返る事ができたのならば、

 どれだけ、いい気分になれるだろう?

 竜になってみてはっきりわかった。

 竜は正義だ。


 もしも、もしかしたら、もしかしなくても。

 アキリアに記憶を消されてすら、腹の中に確かに残る。

 黒黒とした、前前世から残る、

 どうしようもないやりきれない怒りすら、

 どうでも良い事と、笑って捨て去る事が、

 昇華する事ができるかもしれない。


 そんな希望にすがる。

 すがれる。

 だから、まだ死ねない。死にたくない。

 死ぬもんか。

 希望があるんだ。

 死んですら消えきれなかったモノを、

 消しされるかもしれない。

 未練だ。

 僕にはまだこの世に未練がある。

 それがどれだけのものか。

 死んですらも死にきれぬ、

 死してなお死にきれぬ、ゾンビの力を見せてやる。


「死ぬのは、俺を殺しに来た、お前であるべきだ」


 火力発電太は、変幻スキルを解き放ち、

 その正体を顕現した。









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