43.セルバンテスコレクション2
目の前に真っ黒いアキリアがいた。
以前見た時とは少し姿が違っている。
干からび、ひび割れていた。
アキリアは、黒い人形で、なぜか腕が6本に増えている。
背中が縦に真っ二つに、頭から尻まで割れていた。
そんな姿ではあったが間違いなくアキリアだ。
干からびたアキリアがガッチガチに冷凍されている。
「コレを、長い事料理したかった」
シェフが目を輝かせながら、力説する。
「ミギャァァ。ミギャ」
俺はシェフのズボンにすがって、
料理しちゃ駄目だ、それは。
と抗議する。
駄目だ。コレを料理するとか駄目だ。
コレは料理する側の存在で、される側では決してない。
「なんだ?ドラゴン君?待ちきれないのかい?」
「ミギャミギャ」
「そうかそうか。任せなさい美味しく料理してあげるから」
駄目だ止まんない。
しょうがないな。言葉を話せるようになるしかないか、
コレは何が何でも聞かなきゃならん。
「変幻」
スキルで人間になる。
「おいシェフ。ソイツは料理してはいけない奴だ」
「おおお、ドラゴンが人間に!」
「うむ。それよりも。それはどこで見つけたんだ?」
「いや、驚きだ。おっと、この魔物の事か?」
「そうだ」
「コレはずいぶん前に見つけたものらしい」
「見つけた?」
「俺がここに勤めた時にはすでにあった」
「セルバンテスが狩ったのかい?」
「いや。違う。死体を見つけて持ち帰ったようだ」
「すると、数年前とかそんなレベルか?」
「いや、10年前20年前とかそんな昔の事だ」
「なに?本当か?」
「ああ。料理させてくれと頼んだが、許可がおりなかった」
「コレの正体を知っているか?」
「いや、魔族とか魔神だろうなって、旦那様達は言ってた」
う〜む。これがアキリアだとすると、時間があわんな。
どういう事だろ?
別の神?
いや、しかしよく似ている。
腕が六本ある所いがいは、そっくりだ。
後ろから切られたのか、ほぼ二つに割れそうなくらい、
ざっくり、脳天から竹割に、割れてるのも気になった。
「福音発動」
………何も起こらない。
「反応なしか」
「どういう事だね?」
「コレは料理しては、駄目なやつだ」
「ば、馬鹿な。私がどれだけこの日をまっていたと」
「待ってもだめだ」
「この魔物は私が料理するんだ」
「コレは魔物じゃない。神だ」
「え?」
「神だよコレは。生きているのか、死んでるのかわからんが」
「か、神?」
「ああ、こんなもん料理したらバチ当たるぞ」
「おお、なんて日だ」
「驚いたか?」
「神を料理出来る日がくるとは、神よ感謝します」
「それはイロイロ駄目だろ」
神はきっと料理の許可出さんだろ。
どれだけ罰当たりなんだ?
「な、なぜ?」
「怖いんだよ神は。そもそも死んでるのか?これ」
「え?流石に生きてないんじゃ」
「俺は数日前にこいつか、こいつのそっくりさんと話してる」
「え?」
「下手すると、殺されてゴッキーに転生させられるぞ」
「え?え?ホントに?」
「俺はドラゴンになれたが、ゴッキーにもなった」
「な、何だって?」
「経験者は語るだ。下手にコレ扱えないよ」
「そんなにまずいのか?」
「国が滅びるレベルだ。どうしよう?」
「そ、そんなの料理人の俺に聞かれても」
「………とりあえず。セーラに報告だ」
こんなもん。どうすればいいんだ?