306、発情期206
状況がまた変わった。
アキリアの言う事を信じるなら、セーラが神核を失った。
………らしい。
変化の激しさに戸惑う。
だが、と言う事は、俺にとって最悪の危機は去った。
のだろうか?
………いや、どうだろう?
そもそも本当にセーラは無力化したのだろうか?
アキリアに確認しなければ。
アキリアにとって、セーラの生死は、もはやどうでもいい事かも知れない。
しかし俺にとってはソレは死活問題だ。
死んでいるのなら、どうせ海神の元で復活するとしても、セーラが弱体化するのは確実だ。
しばらくは安全になる。
「セーラは………どうなった?」
『この世界と上の世界のさかいに、あの娘の体はあった。その体は消滅したよ。神核も回収出来た。でも………』
そう言ってアキリアは自分のアゴに手をあてて考え込む。
「でも………なんだ?」
『あの娘の魂の行方がわからないんだ。死んでいれば、わかるはずなのに。魂の行方が、それが僕にわからないと言う事は………』
「セーラは生きてると?」
俺の問いにアキリアは無言。
う〜む。
セーラが生きてて、安心して良いのか?
セーラが生きてる事を、心配しなきゃならないのか、わからんね。
死んで欲しい訳ではないが………
セーラの脅威は消えてない。
のか?
『1番可能性が高いのは、さっきもちょっと言ったけども。あの娘の本体が影で、上の世界に、ダミーを残してた説』
「あのペラペラの影が本体だったと?」
言われてみれば影だと言うのに、妙に存在感があったが………
確かにセーラの性格なら、直接的に自分でグドウ伯爵と決着をつけたがるだろう。
あり得る。
『自分の影を依り代に使って、下の世界に下りてくるなんて、無茶苦茶もいいところだ』
「いや、それは知らんけど」
それがどの程度の無茶なのかは、神でない俺にはわからない。
ただ、アキリアの態度や口ぶりから、かなりヤバイ事なのはわかった。
『しかも僕に喧嘩を売った。喧嘩を売っておきながら、僕を無視した』
「オイオイ」
なんかアキリア、怒ってるなコイツ。
『僕に喧嘩をしかけて、同時にグドウ伯爵にも喧嘩をうるなんて………』
「あぁ、なるほど」
アキリアは、かまってちゃん体質だから、無視されて怒ったのか。
『あの娘は、さらに上の世界で、僕の神核を使って同時並列で何かをやってた』
「何かってなんだ?」
『片手間で僕の相手をしようなんて、ナメプするにも程がある』
あ、俺の質問を無視された。
「だから、何かってなんだ?」
『さぁ? 戦闘とは無関係の事に力を割いてたよ。大方ドラゴンアイランドとやら言う、イカれた世界でも、創ってたんじゃ無い』
マジか!?
セーラの奴、本気でそんな計画を実行する気だったのか………てかしてたのか?
世界創造?
………ヤバかった。
本気で俺は危ない所だったのかも知れない
「アキリア。オマエは救世主だ」
『なんだい?イキナリ』
今の状況を一時的に、全て棚上げしてでもアキリアに感謝した。
本当に危ない所だった。
セーラが何をしてたか、正確にはわからないが………俺にとっては、ろくでもない事をしてたに違いない。
いったん全て忘れ、俺は心からアキリアに感謝する。
それ程ヤバかったし、セーラを怖れてた。
俺のそんな態度に………
アキリアはキョトンとした。
「アキリアは世界を恐怖から救った救世主。そう言っても、言いすぎじゃ無いんじゃ無かろうか?」
『………? 世界は救ってないよ』
ん? そうかな?
俺にとっては、それくらいのテンションなんだけどな。
世界の価値と、俺のプレミアつきの竜生の価値。
それなら俺の命のほうが大事だろ?
つまりは俺を救ったと言う事は、世界を救うよりも価値がある。
「俺を恐怖から救った事には違いない。お前には救竜主の称号をあげよう」
『かっこ悪。そんな称号はいらないよ。でも………もっと褒めて良いよ』
アキリアは、おだてられて調子にのった。
コイツ神に戻って性格はチョロいな。
………なんだか気が抜けた。
今や神に戻った影響で存在感がぶっちぎり、ヤバさ爆発のアキリアだが………
性格がコレなら恐怖する必要は………
いや、わからん。
コイツはわからん。
甘く見ると何をしでかすか本気でわからん
セーラの脅威はたぶん去った。
しかし、まだまだ油断は出来ないのだった
唐突にセーラとの戦闘を邪魔されたグドウ伯爵がコチラを見てる。
その視線には狂気があった。
変わらずグドウ伯爵の視線は狂ってる。
………アキリアとヤル気なのか?
………グドウ伯爵の考える事も、俺にはサッパリわからない。
セーラが退場したのかもわからないが………
まだ油断は出来なかった。




