3.ドラゴンゾンビ
「おい聞こえるかい? 返事をするんだ」
アキリアの慌てた声が聞こえる。
返事などできるはずがない。
だってさ、俺は今、首の無いドラゴンだもの。
パッパ(マッマ?)に憑依転生した。
しかし首が無いまま、転生するとは思わなんだ。
理由は自分でもだいたいわかる。
単純に再生する力が足りない。
途中までは身体の傷がガンガン治っていたのに、
ある段階でぱったり再生が止まってしまった。
たぶん元の目玉焼きなら問題なく転生できたはず。
少々欠けてても生き返る力があったのだろう。
だが、パッパ(マッマ)の身体は、少々強力すぎて。
俺には荷が重すぎた。
力が足りない。補充しなければ。
ああ、そうだ。
名案がある。
その辺に前世の俺。
目玉焼きがあるはず。あれ食べよう。
前世の俺って栄養あるはずだ。卵だし。
目がないから、周囲が見えない。
手探りで、それらしいものを探す。
あった。
無我夢中で目玉焼きを掴んでから、
首から強引に体内へ押し込んだ。
口は無いが、胃袋はあるんだ。
直接強引に胃袋へGOだ。
あ、なんかいけそう。首がニョキニョキする。
首が生える感覚がある。
くすぐったい。
外部の様子がうっすらと見えるようになってきた。
成功か?
「ふう。危うく首無しドラゴンになる所だった」
「予定外の行動をとるから心配したよ。大丈夫?」
「アキリアか? まぁなんとか」
「よかった」
どうやら目玉焼き(前世の自分)の力によって、
欠けていた頭を再生できたようだ。
辺りが見えるし、喋れる。
卵って、やっぱり栄養あるんだね。
「光が眩しいぜ」
てか、ここデカイ洞窟だったのか。
やたら広い。
竜は体もでかいし、住処となるとそんなもんかなぁ?
光源は何だ?
光る苔か?
「それよりも急いでこの場を離れるんだ」
首が生えた事に喜ぶ時間をアキリアは与えでくれない。
何か焦っている。
「なんでさ?」
「君は見事ゴーストから、ドラゴンゾンビ系列へと転生した」
「へ? ドラゴンゾンビ?」
普通のドラゴンじゃ無いのか?
「つまり、まだアンデッドスキル。魂の劣化スキル絶賛発動継続中だ。魂が削れてる」
「げぇ。なんでだよ。転生したのに」
「アンデッドからアンデッドに転生するからさ」
「好きでやったんじゃ無い」
いや、好きでパッパに転生やったのだけれど
結果を知ってりゃ、こんな無茶………。
パッパの首の無い勇姿が脳裏にうかぶ。
………したかもわからん。
「身の丈に合わない、大物の死体に憑依転生なんてするからさ。生き返りきれずに、ドラゴンゾンビになってしまった」
「だってカッコ良かったんだもの」
「こんなにデカくて、強力なドラゴンの死体を生き返らせる力なんて、君にあるわけないよ」
「そんな説明聞いてないよ。教えといてくれよ」
「時間が無かったからだよ」
「おいおい」
「君の前世のちっこい死体に、転生する分には、何も問題無かったのに」
今更な説明だなぁ、本当に。
そうと知ってりゃ目玉焼きに憑依転生スキル使ってたよ。
………たぶん。
うんたぶん。
いや、無理だな。
パッパめちゃくちゃカッコ良かったし。
あんなん惚れるわ。
どうせ生まれ変わるなら、格好良くなりたかった。
目玉焼きとは、比べるべくも無い。
「俺ドラゴンゾンビになってしまった」
「とにかく走って巣から脱出だ」
出口へ向かって走る。
走る。
むう、何だ、この圧倒的なパワ〜は。
みなぎる力が止まらない。
死の宣告を受けたものの、ドラゴンゾンビの体は圧倒的なパワ〜は高揚感半端ない。
「君は、このままじゃ、また死んで、僕と再会する事になるだろう」
「それは不味い」
「どうせ、すぐに戻ってくるだろうと、またも記憶を消さなかったけれども」
「おい」
「こんなふうに間抜けなピンチになるとは、思わなかったよ」
なんかアキリアが、怖い事言ってる。
まあいい。
そんな事よりも、一本道の出口へと走る。
とにかく走って、広いドラゴンの巣から脱出をはかる。
ぬう、なんか足元がぬかるむ。
「なんかビチャビチャ、大量の汗が出るが、これやばくね?」
「ただのドラゴンゾンビの体液だ。気にするな」
「汚い。気にするわ」
「ゾンビの身体は、魂の力さえあれば、いくらでも再生が効く」
「まじで、それ反則じゃないか」
「だが、魂の劣化スキルで、魂が削れきってしまうと終わりだ。急げ」
「いえっさー。速い速い。この体、足はや」
そんな事を言いながら、走った。
しかし、何というパワフルな体だ。
恐ろしく早い。
何というスピードと爽快感。
体いっぱいに風を感じて、幸せだった。
恐ろしい程の充実感と満足感が体を貫く。
これがゾンビとはいえ、ドラゴンになるという事か?
何だ。ドラゴン最高じゃないか。
あっという間に洞窟を抜ける。
洞窟を抜けて、太陽の強い明かりを全身にうけた。
太陽の光は、この体に毒なのか少しチリチリするが、
高揚した俺には、気にするほどでも無い。
太陽が眩しい。
「ここまでくれば多少は安全だろう」
「よし。セーフ」
「魂が削れるスピードが、段違いに緩やかになったよ」
「そうか。よし」
………洞窟を抜けると、
そこはおどろおどろしい荒野の荒れ地だった。
どこからか野党や怪物でも湧いてきそうな雰囲気だ。
「ステータスをチェックするのだ、パッパ」
「アキリア。誰がパッパだよ」
「マッマ?」
「いや、それは体だけだから。自分に竜眼発動っと」
種族 超弩級戦艦広範囲絶対人間滅殺腐竜(大破)
(ドラゴンゾンビ)
レベル 5
身体 超強い(瀕死)
魔力 戦略兵器削減条約違反
スキル 竜眼 大都市壊滅毒 魂の劣化 全てを道連れ 福音
なんか見えちゃいけないものが、みえた気がする。
なに?
この変な鑑定結果。
このステータスおかしくないか?
「プッ………………アハハハ」
「笑うなよ」
「君のステータスもスキルも大幅アップだね〜」
「見るべきとこは、そこじゃないよね」
「君は凄いね〜。よかったね〜」
「おい。何だよこれ? なんかいろいろ酷くね?」
「レベルが4つも上がってるね。前世の君を食べたからだね。良かったね」
やめてくれよ。
前世の価値とか、安易に数値化するんじゃない。
そういうのは、もっともっと、ふわふわしとくべきもんだろ。
「前世の俺。レベル4つ分の価値かい?」
「よかったね」
「なんかドラゴンの卵って、すごい価値あるとか、聞こえてた気がするけど」
「人間からすればそうだろうね」
「俺だとなんか違うのか?」
「竜族のレベルを爆上げするには、たりなかったんじゃないの?」
「竜はレベルup必要経験値多いって事かぁ」
「君、超弩級なんちゃらさんだし。プププ」
「おい。笑うな。なんだこの種族?」
「僕に聞かれても知らないよ。ププ。お腹痛い」
「お前!」
「でも、スキルもパワーアップしてるし、良かったじゃん」
アキリアが笑いをこらえている。
「おい笑うな」
「笑うよ。こんなの」
「スキルも、だいぶヤバイ」
「たしかにね」
「怪我したみたいなスキルになってるけど、それより大破って何だよ」
「元々生き返る力が足りないのと、魂の劣化スキルで、魂劣化して死にかけてるのさ」
なんだって?
それはホントに不味い事だ。
「対策は? どうすれば助かるんだ?」
「とりあえず、なにか食べるんだ」
「何だ、それで良いんだ」
「竜に匹敵するくらいの力を食べれば、ゾンビ状態から復活できはずだ」
簡単じゃなかった。
ドラゴンに匹敵ってなんだろな?
共食い?
「いったい何を食べれば良いんだ?」
「質が駄目なら量を食べなよ」
「それでいいのか?」
「ああ、できるだけレベルの高いものを大量に食べれば、ドラゴンゾンビからドラゴンに復活出来るよ」
思ったよりも簡単な手段だけれど
ソレだと俺、
大食いキャラになってしまうんじゃ無いか?
大食いの巨大なドラゴンゾンビ。
新たな災厄の誕生日だ。
この俺が大食いキャラに転生だと。
何か思って転生と、違う気がするが気にしない。