294、発情期194、貴方はここで死ぬのです
俺は幻を見ているのだろうか?
あのアキリアが酷くまともに見える。
セーラが狂った事を言ってるせいだろうか?
それともアキリアは………
神の力を失ったせいで、マトモになった?
後者なら、アキリアがまともになった分
セーラが神になったせいで狂った?
その可能性も強くなる。
………まぁセーラって、元々があんなもんだったかも知れないけども。
『世界は私とドラゴンさんの物ですよ。文句が有るなら………』
「ねぇ、そうせっかちにならずに、もう少しだけ、僕と戦うのを待ってくれないかな?」
『なぜデス………どうしてデス?』
「もう殺す気満々だね」
未だに姿を見せず、頭の中にだけ語りかけるセーラの声には殺気がみちみちている。
『あたりまえですよ。自分の胸に手をおいて、自分のやった悪事を考えてみてください』
「ヤダ」
『ヤダじゃありませんよ』
なぜアキリアは、いちいち相手を煽るような事を………
いや、煽るというよりも、わがままなだけかな?
元々神だし、我慢や本心を隠したり取り繕う必要が無かったからかな?
「あのさ〜。正直に言うと今君と戦うと、僕が確実に勝つんだよね〜」
『嘘ですね』
「君はまだ神の力をよくわかってない。その事は少し話してみてわかったよ。神は万能じゃ無い」
『私を騙して逃げる気ですね?』
「違うよ。君が望むなら、そのうち戦ってあげるよ」
『???』
おお、凄い。
頭の中にセーラの困惑した感情が伝わって来る。
言葉では無く感情だけテレパシー的なアレでビリビリと………
なんか新鮮な感覚だ。
「君が望まなくても、僕の再神化計画が失敗したら、君に預けてる僕の神核を取り戻す為に戦うよ」
『再神化? 貴方は私から神の力を取り戻さなくても、再び神の座へ戻る事が出来るのですか?』
「多分ね。失敗したら………今ならたぶん約10%くらいの確率で僕は消滅するけども」
『お願いです。今、試して消滅してくれませんか?』
セーラの言葉を受けてアキリアはズッコケた。
「君さぁ〜〜〜。そういう所駄目だぞ。あ〜〜〜駄目な所だけ、駄目なドラゴンに似て来ちゃったな〜」
『褒めてくれてありがとうございました』
「褒めて無いよ。けなしたんだよ」
『今更褒めても見逃しませんけどね』
「僕の話を全く聞いちゃいないな。あのポンコツドラゴンえらい娘を育てたもんだ」
とんでもない誤解がある。
なんかセーラの性格が俺のせいにされてるけども………
俺は悪くない。
アイツは出会った時からあんなもんだったぞ………たぶん
あとポンコツ呼びも許さん。
俺をなんだと思ってるんだ。
最強種、ドラゴンさんだぞ。
とか思っていると。
『アキリアさん。今すぐ、その再神化とやらを試して死んでください』
「まだやらないよ。それに低いとはいえ数%の確率で完全に消滅するリスクがあるからね」
低いとはいえ完全に消滅するリスクはアキリアでも避けたいんだなぁ。
アイツが避けるって余程だぞ。
『大丈夫です。アナタなら確実にその数%を引き当てる事ができますよ! ね!』
「おいおい。なんて事を言うんだ」
『往生際が悪いですよアキリアさん。知らなかったのですか?』
「何を? でもたぶん知らないよ」
『貴方はここで死ぬのです』
断言するセーラが怖い。
なんつ〜か、うん。
怖いわ。
「………」
『逃げ出しても無駄です。知らないかも知れませんが………私に狙われて逃げ切った獲物はいませんよ』
………ゾクっとした。
ヤメテ。
なんか俺もその獲物の中に入ってそう。
「………」
『罪状を読み上げます。被告アキリアさん。貴方はドラゴンさんにそれはそれは酷いことをしました。認めますか?』
「………認めない」
『貴方は私に歯向かいました。認めますか?』
「君が僕に歯向かったんだ」
『貴方は存在自体が罪です。認めますか?』
「存在してるだけで罪になるの? よ〜し。頭がおかしいね君」
う〜ん………
セーラがノリノリで悪のりしてる。
にしてもアキリアの奴、全然動じてない。
本気で勝てる気なんだろうな。
俺がもしもセーラに勝って欲しければ、セーラへアキリアの狙いを告げ口する。
セーラが持つアキリアの神核が、なにか弱点を抱えてるとセーラに忠告するが………
セーラに勝たれると困るので口を閉じる。
【キジも鳴かねば撃たれまい】
と言うよりも、【沈黙は金】だなぁ。
黙ってたほうが得をするなら、喋るよりも黙るのだ。
8つも口があると何かと口だししたいけどもね。
『覚悟してください。もう、いい加減諦めませんか?』
「はぁ〜〜〜。わかったよ。良いよ来いよ。相手をしてあげるよ。身の程ってものを知ると良い」
ついに根負けしたのか、アキリアは戦闘回避を諦めた。
その様子に俺も身構える。
と、どうじに思いつく。
待てよ………
俺が身構えたと言う事は………
この戦場に隠れているレオナルド侯爵。
彼もどこか近くで覚悟を決めたはずだ。
アイツは、俺がセーラに勝たれるとまずい以上に、アキリアに勝たれるとまずいはず。
不意打ちの機会をうかがっていても不思議では無い。
………どこだ?
どこにいるレオナルド侯爵?




