289発情期159
俺は今、判断を迫られている。
助けるべき人質?
現実的には、助ける必要の全く無い人質。 人質に取られたアキリア。
本来それを見捨てても、人質アキリアにはなんの害も無い状況で、しかし見捨てるなど下手な言動は、アキリアの怒りをかうなど最悪の未来に繋がりかねない。
なんだ? この罰ゲーム?
俺の取り得る最善の方法を考えると………
つまり………
沈黙は金?
キジも鳴かねば撃たれまい。
なのだ。
俺は何も積極的な反応をしないほうが良いのでは?
そのほうが勝手に都合よく解釈してくれて、結果良いのではなろうか???
俺は目立たずアキリアの意識の外にいければ………あるいわそれが最善手なのでは?
そう思い、特に行動をおこさず沈黙することにした。
む………
どうやら、触らぬ神に祟り無しと、そう考えたのは俺だけではなった。
その事は俺よりもレオナルド侯爵のが徹底していた。
ほんの少し意識を人質アキリアとママンに移したすきに………
いつの間にかレオナルド侯爵は無言で姿を隠し、また何処かへと消えた。
あ、あいつ〜。
俺と似たような事を考えてアキリアの暴発の可能性を恐れ巻き添えを避けたか?
あるいは、これ幸いと戦闘中の俺から逃れるためか?
とにかくアイツ判断が早い。
辺りを見渡すが、何処にも見当たらない。
くそ。
卑怯者め。
俺一人にアキリアを押し付けやがった。
まあ良い。
幸いに俺にはレオナルド侯爵を発見する為の手法がある。
グドウ伯爵の視線を見れば、レオナルド侯爵はいくら隠れようが、おそらく再補足が可能だ。
レオナルド侯爵が、この状況下、ここから立ち去る事もあるまいし。
アキリアとグドウ伯爵は、この場からレオナルド侯爵の本格的な逃走などさせないだろうし。
奴は網にかかった魚に等しい。
所詮レオナルド侯爵の行動は、問題を先送りしてるだけにすぎないのだ。
そのはずだ。
………まぁその問題同士、アキリアとグドウ伯爵が、いつ同士討ちを始めるかも、わかったもんじゃないので、先送りは正しい選択とも言えるかもだけれども。
数百のグドウ伯爵軍が篭城する城。
それを囲むママンの数千の大軍。
その大軍に紛れて隠れるレオナルド侯爵。
城を囲む大軍の外側で、揉める俺とママン。
人質をとって降伏を迫るママン。
そのママンの人質は………多分さ。
その気になれば、この場の人間を皆殺しにできそうなアキリア………
そんな狂った状況下に
神の声が聞こえた。
………いや、何を言ってるのか?
と思うかも知れないのだけれども、神は確かにこう言われたのだ。
『あぁようやく見つけた』
と………
頭に響く声。
以前のアキリアや半魚人がやってたテレパシー的な会話方法で、聞き覚えのある声が頭に直接言葉を打ち込んで来る。
神は続けていわく。
『ずいぶん探しましたよアキリアさん。いきなりいなくなるのですもの』
「え! あ、あれ? お、おかしいな。君には追跡できない様に、僕は確かに足跡を消して、気配も消してる筈なのに、なぜここがバレた?」
『ハァ〜。私から逃げ切れると、本気で思ってましたか? あいにく私は賢いのです』
「あ、やめてよね、そんな言い方だと僕が馬鹿みたいじゃないか。それにしても一体どうやって?」
『簡単な事です。アキリアさんもドラゴンさんも見つからなかったから。とりあえず憎いモノから先に片付けてしまおうとおもったら………あらあらあら。私の探してたお二人も一緒にいるじゃないですか、一石二鳥、いいえ三鳥? 一石一敵一神一ドラゴン? なんにせよついてますね。私は』
と、なりたての神様は、上機嫌でそんな事を言った。
………それはそれは不吉な声だった。




