284、発情期154、情熱
俺は発情期。
そして、成長期でもあるんだ。
男子3日あわざれば刮目して見よとも言うしね。
実際に赤子の頃から比べると姿はどんどん変わってる。
それでも、むしのいい思いかもだけども、ママンには気がついて欲しかった。
しかし、くそう。
一般的に考えると何が悲しくて、双子の兄弟を殺した相手をかばい、母に殴られねばならぬ。
愛だの恋だのは理不尽だ。
本当に理不尽だ。
まぁ、前世で殺し合った末、心中するかのように、相打ちで散ったヒャッハーの事など、さほどどうでも良いが………
………思うに、この状況は全部発情期が悪い。
発情期のせいだ。
そのせいで俺はこんな状況に………
なんて厄介な季節だ。
発情期。
愛の為なら………以下略。
………何処かでキシキシ笑いながら、
俺に発情期スキルを渡した奴、元凶。
何処かでママンに殴られる俺を見て、嗤っているであろうアキリア。
その邪悪に微笑む姿が容易に想像できて腹が立つ。
あいつめ、どうしてくれよう。
いや、考えるな。
アキリアの事は後回しだ。
とりあえず1つ1つ目の前の事から片付けよう。
無駄とはわかりつつ、目の前のママンに語りかける。
「ママン。俺、好きな人が出来たんだ。その相手は、ママンにとっては憎むべき相手なんだろうけども。俺、好きな人の前で、良いところを、強いところを見せたいんだ」
だから………
ママンには、この身体を貰った恩はあっても恨みはないけども、申し訳無いけれども………
俺の恋の為に………貴方を倒させてもらいます。
だって竜って親を乗り越えてから、一人前になるものだからね。
たぶん………
許してくれるよね。
ママン。
俺の言葉と、内心の思いに、ママンは無反応だった。
全身を白い鎧でかためたママン。
ただ無言でコチラを見上げるだけ。
まぁ、俺が実の息子とは気がついていないんだ。
突然、竜にそんな事を言われても、わけがわかるまい。
でも、それで良いんだ。
別に説得したかった訳でもない。
竜に説得は無用なのは先程思い出したばかりだ、ただ力あるのみ。
欲しいものを手に入れる為に、力でねじ伏せる情熱こそ大事にする。
そう、情熱。
ただただ情熱を伝えたかった。
情熱を自覚したかった。
言葉に出したのは、ママンにではなく、自分を納得させたかっただけかも知れないのだから………
『ギシリ』っと、
突然ハッキリと何処かから歯ぎしりが聞こえた。
………ママン?
怒ってる?
まぁ良い。
怒られようと何であろうと、恋の障害は自分で取り除く。
弱肉強食、力で意思を通すわがままな情熱こそ、竜にとっては美しい。
覚悟と情熱を胸に………
ゆっくりと竜体をおこし、四足歩行をやめて二本足で大地に立つ。
両手首から先をぶらぶらさせほぐす。
素手。
素手で殴られ空中に飛ばされたお返しに、竜の拳でママンを制圧してみせる。
人間の様にファイティングポーズをとってみた。
竜の俺と人間のママンとの体格差は歴然だ。
それこそ体格差は、立場を変えて大人と赤子が殴り合いをするようなものだ。
負けはあるまい。
そう思っていた。
ママン強いとは聞いていた。
ただこの強さは、想定の範囲外だった。
ママン、なんで殴り合いで圧倒的な体格差、身長差5倍以上のある竜に殴り勝てるんだ?
何というか、もっと技巧派と言うか、テクニックと言うか、そういう強さをママンには期待していたのだけれども。
ママン脳筋だった。
圧倒的な脳筋だった。




