281、発情期151
キシキシと笑いながら、ギラリとアキリアの目が光った。
「き、貴様。はかったな。はかったな〜。まさか、あらかじめこうなると知ってて」
動揺するレオナルド侯爵。
そして嬉しそうに嗤うアキリア。
俺はいつの間にやら蚊帳の外。
アキリアはさらに嬉しそうに………
「そうだよ。そりゃそうさ。そこの発情期に入った竜が、横取りされそうな獲物を前にして、正気でいられるわけがない」
「俺。偉い言われようだなオイ」
「グドウ伯爵に近づけば、いつかどこかで暴発して、君等の関係は破綻する。そう思っていたよ」
「くそう! アキリア。竜がこうなると知ってて」
「君等の計画も、馴れ合いも、全て僕には織り込み済みさ、そうそう神の目を欺けるもんか」
「私は………はじめから、踊らされていたのか?」
「アレは僕が手塩にかけて育てた? 壊した? ドラゴンだ! どうすれば発狂するかなんて、お見通しさ。僕のが、遥かに竜との付き合いは長いしね」
「こ、ここで私達を噛み合わせる気だったのか?」
「そだよ。君等は僕の手のひらの上さ」
「………」
「その竜は才能の塊ゾ。ここで恋路の為に君を相手にトチ狂えば、あるいわ竜変幻スキルで、その竜は神化するかもしれない。その過程を観察できるかもしれないし」
「な、そんな邪悪な計画を………聞いたかヒュドラ? オマエと私はアキリアに利用されているんだ。落ち着け」
「関係ない!」
はっきりと言い切る俺、ドラゴン。
ヒュドラじゃない。
それにアキリアが何を企んでいようと特に問題じゃない。
問題なのは、グドウ伯爵を取られないことだ。
………ろ?
「無理無理。その竜は、一度その気になると、止められないよ」
「おのれ。厄介な!」
「さぁ僕の為に頑張って、僕のドラゴンの神化に手を貸した後に砕け散っておくれ。レオナルド侯爵。疑神の欠片君! アハ、アハハハハ」
両手を広げて、狂ったようにカラカラ爆笑する黒い人形アキリア。
まさか、アキリアが、そんな計画をたてていたとは。
俺を神化させ、その様子を観察する事を、まだ諦めていなかったのか?
てっきりグドウ伯爵に興味はうつって、俺は用済みかと思ってたよ。
しかし、アキリアにはムカつくが………
俺はアキリアに嵌められたのか?
………
いいや、違うな。
アキリアは俺を嵌めたというよりも、俺を理解していただけだ。
俺が我慢して、最後までレオナルド侯爵を利用し尽くすまで、生かす?
そこまで我慢する?
そんな我慢できるわけが無い。
と
アキリアは俺を知っていた。
理解していた。
計画途中で、必ず俺が嫉妬に狂うと、意思や理性では制御できない感情に流されると。
アキリアは理解していた。
が
レオナルド侯爵は理解できていなかった。
彼は俺が理性的な竜だと思っていた。
アキリアは、そうは思っていなかった。
アキリアは俺が嫉妬心に流されると思っていた。
アキリアが正解だ。
正確には幼体の俺が、成長の為に受け入れたスキル。
発情期スキル。
それが今、俺の中で猛威をふるいつつある。
発情期。
なんて厄介な季節。
しかし、心は浮き立っている。
なんと甘美な季節であることか?
恋の為になら、何を誰を裏切る事になっても………
何もをためらう事があろうか?
そんな気にさせてくれる素敵で無敵に輝くスキル。




