278、発情期148、混沌混沌
やべえよ。
何がやばいって、アキリアが何を言ってるか、全然わからないのがやべえ。
言葉が通じない。
同じ言語を使ってるはずなのに………
なのに相手が何を言ってるかわからないのは、恐怖しかない。
しかも………
「アキリア、オマエ。俺を才能の塊とか言ってるが、前に平気で俺を使い捨てようとしたよな」
「………ま、それはグドウ伯爵が悪い。彼女は………いや、そうたね」
少し言葉に詰まるアキリア。
「何だよ?」
「端的に言うと、君よりも魅力的な駒を見つけたからね。アレが手に入るならコレを捨てても、お釣りが来るかな〜ってさ」
アレはグドウ伯爵で、コレは俺の事か?
コイツ………コイツ〜
「オマエさぁ〜」
「君だって、あれだ。将棋で飛車を手に入れれるために、いつまでたっても成金にならない歩を、つかい捨てたりするだろ?」
「歩? 俺が歩?」
「手塩にかけても、一向に神化しない君は厄介な歩だよ」
「………私が思うに。多頭竜が歩とか、そんな物騒な将棋には、間違っても参加したくはない」
レオナルド侯爵が横から口を挟むが、
全くだ。
アキリアが棋士で俺が駒。
そんな将棋はまっぴらゴメン。
断固拒否したい。
でも、アキリアがそういうふうに、俺等をとらえてる事はわかった。
知る事は力だ。
たとえどんな小さな事でも、知れば少しは力になる。
わかってさえいれば、対処のしようもあるもんだ。
………最悪でも覚悟はできる。
真に厄介な事は、思いもよらぬ所からの不意打ちなのだから………
「とか話してたら、コッチにわらわらと兵隊が向かって来てるな〜」
「ああ。私の目にも、よく見える距離までやってきてる」
「で、どうすんだ? レオナルド侯爵」
「そうだな………ざっと2から3千人くらいかな? 俺が敵を一人だけ受け持つから、残りは二人で頼む」
「………なに? それほとんど丸投げじゃないか? やれってか! 俺とアキリアの二人で敵軍壊滅させろってか?」
無茶苦茶だ。
「言っておくが、お前達のほうが楽な役割だ………」
「何が楽だ。どういう理屈……、!!!」
そこまで文句を言おうとしたところで、ゾッとした。
突然体がビクッと反応する。
見られている?
いや、間違いなく強力な視線が俺を貫いている。
視線の主を探すと………
ひときわ白く輝く巨大な全身鎧に身を包んだ存在が、コチラを見ている。
重量感ある全身鎧。
凄まじい存在感。
でも………なんか覚えがある感覚。
「アレは………もしかしなくても豚ママンかな?」
「あぁ。たぶんそうだな………私はアレを抑える。それとも役割を変わってほしいか?」
「………嫌だ」
断る。
断固拒否する。
何というか、ママン。
前に自宅で少し対面したけれども。
その時の柔らかい雰囲気が無い。
殺気だっていると言うか、ありゃ完全にキレテルワ。
うん、怒ってるてか、発狂してる。
発狂する女性と戦うのは絶対に避けたい。
何というか。
勝ち負けにかかわらず
かまうと心に深い傷を負いそうな、とてつもなく嫌なオーラを放っていた。
「だろ〜さ。母子で対決するのも、嫌だろうし。結局私がやるしか無いからな」
「お前案外良い奴だな」
母子対決回避。
そんな事に気を回すなんて。
しかし甘い。
そんなの戦場じゃ命取りなるぞ。
「案外? コレでも王国では英雄として名前が通ってるんだ。私にとっては、こんなの当たり前の気遣いさ」
「そ、そうか………知らんけども。お前さんがそれで良いならママンは頼んだ」
「ああ」
するとアキリアが我々に、
「話は、まとまったかい。ドラゴンが兵隊を、レオ侯がブタ皇女を、それで残った彼女は誰が担当するんだい? ちなみに僕はゴメンだよ」
そうアキリアは言って、城の方を指さした。
………
「ヒャッ!」
そちらを見て思わず変な声が出た。




