271、発情期141、グドウ伯爵領
正確にはグドウ伯爵の城が見える地点までたどり着き、俺達は立ち止まった。
そして………グドウ伯爵のお城を見ている。
「うわぁ〜壮観だねぇ」
アキリアが歓声をあげる。
確かに壮観だった。
グドウ伯爵の城は、大勢の武装した人間達に取り囲まれていた。
「な、なんだぁ? あの兵隊の数は」
「う〜んと、数千人はいるんじゃない?」
俺には人間の数など、一目でわかるはずもないが、アキリアがそう言うなら、そうなのだろう。
「うっへぇ〜。流石にこんなに大勢兵隊がいるとは思わなかった」
「たかが人間の雄叫びでも、数が揃うと精悍だね」
城を取り囲む兵隊達。
戦場に興奮した人間達があげる歓声は、1人1人は大した事は無いのかもしれないが、数が集まると、俺一人の雄叫びを遥かに超える声量と迫力があった。
かなり距離が離れているのに、まるで振動がビリビリ響いて来るようで、コッチまで興奮してしまいそうだ。
アキリアは感心したかのように、しきりと、ふんふんと上機嫌で軍隊を観察している。
「よく見ると、城に籠もった黒い鎧の兵隊達が、白い鎧の兵隊に取り囲まれてるな。黒い兵隊がグドウ軍で白い兵隊がママンの軍かな?」
「なに? 白い鎧だと、本当か?」
レオナルド侯爵が白い鎧の話に食いつく。
「ん? そうだよ。それがなにか?」
「不味いな。私も軍隊を連れてくるべきだった」
そう言ってレオナルド侯爵は、顔をしかめた。
「白い鎧だと何か不味い?」
「うちの国の軍隊の鎧は、基本的には黑ベースだ」
「そうなの?」
「ああ。白い鎧は隣の敵対国、豚の生家、皇国軍の特徴だ」
「え? て言うことは………」
「豚皇女の奴だ。奴が生家の皇国から、ここぞとばかりに手勢を呼び寄せやがった」
「ま、ママンが?」
「そうだ。しまった。ああ〜〜〜。私ともあろうものが、豚を甘く見ていた」
そう言って頭を抱えるレオナルド侯爵。
なんだ?
理解が追いつかない。
「どゆこと?」
「豚の奴。子供を殺られた復讐戦の為に、グドウ伯爵を始末すると見せかけて、ここぞとばかりに、この国を取りにきたな」
「え???」
「この辺りも皇国との国境近くだ。ここグドウ伯爵領は………皇国との最前線のレオナルド侯爵領と王国本国との中間領」
「へぇ〜」
「豚の奴………グドウ伯爵領を落として圧力をかけて、皇国の力を後ろ盾に、堂々と自分の夫の第三王子を、この国の時期国王にすえる気だろう」
「………ま、ママン」
うちのママン………
そ、そんなに野心家だったのか?
てか、うちの王国、時期王位の継承戦争とかやってたの?
………う〜む、やってた様なそうでないような。
正直人間に興味が無かったから、気にしてなかったな。
ま、何処の国でも王様がいる国は、次期国王の座を争ってるか?
王国と皇国があんまり仲良くないとは聞いて覚えていたけれども………
ん〜〜でも、どうなるんだコレは?
ママンが勝っても、第三王子パパンが、この王国の王様になるだけで………
侵略って言えるのかな?
その辺の事を………レオナルド侯爵に聞こうとしたが………
「しまったな。本当に白い鎧の兵隊がグドウ伯爵の城を取り囲んでるのかい?」
逆に質問されてしまった。
白い鎧を気にして、確認を取るレオナルド侯爵。
本当も何も………
「見りゃわかるだろ」
「こんな遠距離から、そんなのわかるものか。お前等化物と人間の私の視力を一緒にするものじゃない」
「レオナルド侯爵の目が悪いだけじゃない?」
とアキリア。
「そうだよなぁ。普通に見えるよなぁ」
「僕にも見えてるし。多数決で君の負けだねレオナルド侯爵」
「いや、その理屈はおかしい。そもそも人間の眼で見える距離じゃない」
「そうか?」
「そうなの?」
「人間の眼で見えるのなら、あっちの軍隊がコッチに気がついて、今頃パニックになってるだろうし………」
むう、解せぬ。
なぜだ?




