268、発情期138、過去の記憶
アキリアと醜い言い合いをする俺。
そんな我々を見るレオナルド侯爵。
侯爵の銀色仮面の隙間から、死んだ魚の様な目が………印象深く記憶に残った。
………
それで良い。
神や竜を前にしたとき、人間は無力さを噛み締めて、すべからくそうあるべきで、そうで無くてはなら無い。
間違っても反抗的な態度をとって、我々を喜ばせてはいけないのだ。
いわんや神に戦いを挑んだり、竜に首輪をはめエプロンを着せるなど、もってのほか。
どれだけ力を持とうとも、心が臆病な者は反抗される事を酷く嫌う。
だが、心が強い者は時に反抗をむしろ喜び許す。
心が弱い者は反抗される事に怯える。
心が強い者は………反抗されない事に退屈してる。
反抗されても、自分でどうにか出来る自信があるから。
思い通りになる事に飽きてるから。
神や竜などは後者の代表だろう。
そんな心の強い相手に、下手に反抗して気に入られようものなら、グドウ伯爵や………………俺ってやっぱり過去に………
アキリアに反抗して気に入られ、こうなったのだろうか???
不吉な考えが頭に浮かぶ。
うん。
しかしコレは8つの頭でいくら考えてもわからんな。
でも、そう言えば。
俺の過去。
その答えは目の前にいる奴が知ってるじゃないか。
………と言う訳で聞いてみた。
「そう言えばアキリア。俺の覚えてない記憶を消される前の過去の俺って、いったい全体どんな奴だったんだ?」
「ん〜〜〜過去? 君の過去?」
「そうそう」
「そんな昔の事は忘れたよ。生物は過去では無く未来に生きるもんだ」
おい。
アキリア、コイツは………
………ごまかしやがった。
ごまかしやがったぞ。
「そうでは無くて………」
「知らない」
「何?」
「厳密には、君の過去は正確には覚えてない」
「どおゆう事だ?」
俺から過去の記憶を奪っておいて知らない。
覚えてない。
だと?
「君から奪った君の記憶は、僕の神格に混ぜて、君の匂いをつける香水がわりに使ったからさ、大喜びでセーラって娘が、君の魂の一部だと騙されて食いついたよ」
「!!!」
「君のタマシイの一部だと偽って、僕の神格渡すとバレるかもだからさ。オマケで君の記憶も混ぜてくれてやった」
え???
じゃあ俺の過去の記憶は今セーラが持ってるの?
セーラが?
まじで?
なんか………ヤダ!
「………人の記憶を何してくれてんの?」
「まぁ良いじゃん。結果オーライ。見事に引っかかったよ、あの娘」
「お前と言う奴は………」
「どうせ、あんな失敗の記録はいらないしね」
「失敗?」
「神化計画の肝となるのは心の強さ。それは間違い無いと踏んだのだけれども。方向性を間違えたんだよ」
「………」
「僕は、昔の君に帰属意識というか、望郷の念。故郷に帰りたいって気持ちの強さを利用して君を神化させようとしたんだ」
「望郷???」
「そそ。君は元々望郷の念が恐ろしく強かった。でも、いつまでたっても神化しないから、こりゃ失敗だってわかってさ」
「………」
「他の神化した下等生物の傾向と対策を見るに。望郷と言うか、戻りたいって方向性に心を強化しても、神化は無理じゃ無いかという結論を僕は出した」
「ほう」
「だから故郷に帰りたいとかぬかす、軟弱な君の記憶をすっぱ抜いた」
「それ大丈夫か?」
「いいや。そしたら、心の支えを失って、それまでの体験からイロイロ耐えきれなくなった君は………この世が憎いとか、全部ぶっ壊したいとか言い出した」
「え???」
なんだか覚えがある様な………
「なんだかんだで、狂った竜が誕生しましたとさ。めでたしめでたし」
「………ソレって俺の事か?」
「君の事だねぇ」
「ふざけんな」
コイツ………まじでありえない。
人を………竜をなんだと思ってやがる。




