253、発情期123、黒い人形
黒い渦巻きからニョキっと黒い左腕が生えている。
「ヒュドラ、アレを攻撃しないのか?」
「オマエ、あんなヤバそうなのに先制攻撃とか、正気か?」
「ヤバそうだからこそ、先制攻撃を狙うのだが」
レオナルド侯爵の言う事には一理ある。
が………
「くっそ、勇気あるなオマエ」
「他に手があると?」
「ヤバそうなら、逃げるべきだ」
「逃げてどうなる? どうせ病気で余命の少ない命だ。命に関わる危険は出来るだけ避けるが、同時に楽しむ。短い人生やれる所までは、やろうじゃないか」
「お〜い、頭大丈夫ですか? コッチにはアホほど余命があるんだよ。危険な思想に巻き込まないでくれ」
「………一緒に逝こう………相棒」
侯爵の言動がおかしい。
………コイツもしかして異常事態にテンパって無いだろうな?
「誰が相棒だと、ふざけるな!」
「オマエと、しばらく一緒にいたせいで、どうやら私の性格が多少? いや、かなり歪んでしまったようだ」
「俺のせいにするな」
「オマエが、まいた種だ諦めろ。と言うか、私の性格を歪めた責任、どうとってくれる?」
「し、る、か! オマエの性格は元々歪んでたんだろ。俺のせいにするな」
確かにコイツ説得するために、洗脳じみた訳のわからない事を言ってた自覚はあるけど………
「情けない。ヒュドラともあろうものが責任逃れなんてするんじゃない」
「!!!」
「そんなだから逃げるなんて事、考えるんだ。そもそも敵かどうかわからないのに、ます逃げる事を考える? なんでさ?」
「お、おまえ〜」
くっそ〜臆病者扱いされた。
竜である俺が………
でも、空中に明らかにヤバ目の腕生えてるとか、突然の異常事態みたら、逃げる事を考えるだろ普通。
明らかに強者のオーラが腕からビンビン出てるし。
「私達の短い人生。最後まで諦めずに楽しもう」
「いや、だから俺の竜生は長いんだって、勝手に俺をまき込むな!」
「ハッハッハ」
俺の胴体に乗って、ほがらかに笑う侯爵。
コッチはそれどころじゃ無いのに。
くそうコイツ、テンパってるかと思いきや、余裕あるでやんの。
コイツと言いグドウ伯爵と言い、病で余命短い奴は、覚悟がおかしい。
こんな奴に覚悟決めろとか言ってた自分が恥ずかしいわ。
「う!」
目の前の黒い渦みたいな物から、はえてきた腕がジタバタと動いた。
その度に黒い渦が大きくなる。
そして大きくなった渦から片方の腕だけでなく肩が………
更には黒く磨き抜かれた金属の顔が現れ、黒い渦からこちらに抜け出てこようとしていた。
ヌルヌルテカテカした光沢の黒い人形。
「なんだ? コイツ腕だけの存在じゃなくて、渦からコチラに移動中だったか」
「敵意は無さそうだけども? いや、良くわからないな。ゴーレムか?」
ゴーレム?
能面の用な顔。
意志の感じない人形じみたと言うよりも人形、か?
黒いマリオネットが、片手と顔だけを、扉に挟まった猫の用な様子でジタバタさせている。
ふと、黒い人形の顔がこちらをとらえ………
………
突然俺のほうを向いた途端に………その目に火が灯った。
瞬間………
意志の感じられなかった黒い人形に、何かが宿る。
ギラリと
明確に存在感を示す赤い赤い目。
それがコチラに何を訴えかけるように見てくる。
「うわ!」
こっわ〜
………不気味で怖い。
人形?
人形の口が………不気味なほど三日月の形に裂けて………
1言喋った。
「やられちゃったよ」
と、黒い人形からアキリアの声が響きやがった。
「………」
「………」
「え? え? お、お前アキリアか?」
「そうだよ。僕以外の誰だと?」
いっきに気が抜けた。
「脅かすな。なんだよ? その姿は」
「セーラって娘にさ、手酷く噛みつかれちゃってね。緊急避難用の、この神器の中に逃げて来ちゃった。てへ」
「嘘だろ〜〜〜〜〜〜なんで負けてんだ〜〜〜」
8本首の俺の絶叫が、田舎の街道に響き渡った




