252、発情期122、珍道中
走る、四足で走る。
俺の背中で悲鳴が聞こえるが気にしない。
………鞍も何も無い全長10メートル位の巨大生物。
そんなモノにクッションつきの座席無しで乗るなど自殺行為だ。
乗り物が巨大になればなるほど、乗ってるモノへの反動、負担は大きくなる。
クッションになるサスペンション的な何かが無ければ尚更に………
だがしかし、レオナルド侯爵には、慣れて貰わなければならない。
この先の戦闘で、侯爵には俺と共闘してもらわねばならないのだから………
少しでも連携を強めておかねば勝敗に直結しかねない。
ま、別に共闘するからといって、俺に乗る必要は無いのだけれど………それでも連携と言うか………侯爵の三半規管と騎乗能力に期待したい。
だって竜と竜に乗る竜騎士ってさ、なんかかっこいいし。
………なんでコイツが竜騎士やねん?
コイツは元々恋敵、殺ってやろうと思ってたのに………
ま、竜騎士の騎手と言うよりも、何時でもパージ、発射出来るミサイルと思えばいいか?
超必殺技を閃いた、レオナルド砲。
竜の腕力でレオナルド侯爵を敵に投げつける荒業の爆誕である。
爆誕と言うか爆弾かも知れない。
背中でぎゃあぎゃあ騒ぐ人間を無視して走り続けていたが………
「トマレ!」
今までとは桁違いの切羽詰まった声が背中から聞こえる。
なんだ?
などとはおもわない。
空間が歪む。
セーラとグドウ伯爵が争っていた時に感じた時と同質の違和感めいたものを感じる。
背筋に冷や汗が………鉄臭い。
金属の臭い。
周囲は人気の無い田舎街道。
のどかで自然しかない。
それが突然、まるで雷鳴豪雨鳴り響く台風の中であるかのように、危機感を覚える環境へと激変してしまった。
なんだこれ?
とっさにとる警戒態勢。
背中に乗ってる侯爵に言われるまでもなく、俺は………突然歪んだ周囲の空間その原因を探すべく周囲を見渡す。
8つの首はこんな時には便利だ。
全方向に8つの首で監視する。
首が多いと360度どころか、上下も含めた全周囲をスキ無く見渡す事が出来る。
何事が来ても、突然の不意打ちは避けてみせる。
という硬い意思表示の警戒態勢。
そして8方に伸ばした首の中心部、胴体に立つレオナルド侯爵。
「何かが狂ってやがる。何処から何が来るかわかるか人間」
「わからないが、なにかおかしいのはわかるぞヒュドラ」
「感知能力は俺と大差無いのか? 取り敢えず、もし、なにか攻撃を受けたら首でガードしてやる、残りの首でカウンターするから、追い打ちは頼む」
「………それで良いのか?」
「この体の防御力と再生力は特級品だ。並の攻撃じゃビクともしないし、千切れたとて、すぐ生え変わる」
「………チートな体してるな〜。病気の体持ちの私としては羨ましいよ」
「………上だ、何かがくる」
「!!!」
俺達の前方上空に、猫ぐらいの大きさの黒い玉のような渦が渦巻いている。
突然というよりも、徐々に黒い渦巻きが現れ少しずつ大きくなっていく。
その渦巻きから、異様な違和感が徐々に溢れ出していた。
この世全ての禍々しさを詰め込んだかの様な渦巻き。
それが徐々に大きくなっていく。
ニョキ。
………
「手?」
渦巻きから黒い手が、妙につるつるした光沢のある黒い腕が突き出せれる。
「ヒュドラ、先制攻撃するか?」
「………」
侯爵の言葉を無視して、観察警戒態勢を崩さない。
正直それどころでは無い。
他人の相手をする余裕がない。
正体がわからない禍々しい腕。
正体がわからない、と言う事は、アレは格上である可能性が高い。
未知とは、ことごとく格上だと思ってしまうものだ。
逃げる、までも選択肢にいれつつ警戒する。
てか、内心ビビりちらす。
イキナリ先制攻撃を選択しようとした侯爵に勇気で負けたと思いつつ、その事に腹が立つ。




