25.鳳傲天(上)
「詳しく説明してくれるか?」
「はい」
「心当たりはあるが、状況がさっぱり理解できん」
「そうでしょうね」
「ああ。わけわからない」
アキリア何をやった?
「貴方も福音スキルを持っていますね」
「ああ。そうか、この会話はもしかして福音スキルで?」
「はい。私も福音を持ってます」
「君もか」
「私の事はセーラとお呼びください」
「わかった」
なるほど。
福音スキルで、俺と会話してるのか。
福音スキル者同士は、種族間の言葉の壁を超えれるのか。
凄いな、コレは良い気分だ。
でも、まぁ、アキリアとも喋れてたしな。
にしてもセーラ?
どっかで聞いた名だな。
駄目だ。思い出せない。
「私は、呪いを受けています」
「みたいだな」
ゾンビみたいな外見になってベッドに寝てるんだ。
呪いか病気だろうとは思った。
「すでに弱って、話すことすらままならなりません」
「そんな感じだな」
「そこで、私は福音スキルを使って、呼びかけていたのです」
「なぜ?」
「福音スキルの持ち主を探すため」
「だが、なぜそんな事を」
「命尽きる前に、神からくだされた最後の使命」
「神の使命?」
「そう。それを果たすために」
なんか碌でもない使命じゃ無いだろな?
アキリアだぞ。
アレの使命って、基本地雷っぽい。
「一応聞きたい。使命ってなにさ」
「私が生きているうちに、私を食べてください」
「へ?」
思っていたよりも碌でもない使命だった。
「私は神によって、貴方の為に作られた女です」
「どゆこと? ねぇ、どんな使命? それ」
「本来神から与えられた使命は、福音スキルを持つ者と」
「俺の事か?」
「貴方と添いとげる事」
「え?」
「貴方との間に、次代へ優れた子供を残すことでした」
「ええ」
ドラゴンゾンビと、ゾンビみたいな女の間に生まれた子?
アキリア、何計画したんだろうね?
スーパーゾンビ製造計画???
アイツは本気か?
「そう、嫌がらないでください」
「だってお前、そんな計画」
「呪いにかかるまでは、こう見えて結構綺麗だったんですよ。私は」
「そういう意味で言ったわけじゃ無いけど、そなの? 美人なの?」
女の美人とか綺麗はアテにならん。
ホントに全然当てにならん。
綺麗な子紹介するね。
と言って、奴等はモンスターを召喚するのだ。
自分よりも劣った外見のモンスターを連れて、勝負に挑むのだ。
ゴウコーンと言う会合を、
男幹事はイケメンを、女幹事は可愛い子を
連れてくる。
そんな約束して開催すると、
イケメン達がモンスター達に襲われる事になる。
女幹事は自分よりブサ子しか召喚しない
「信じてませんね」
「まあね」
「ふふ。いいです」
「それより使命の話を」
「はい。見ての通り、私に、それは不可能になりました」
「ああ」
かわいそうに。
今にも死にそうだ。
「神にはもしも、子をなす事が不可能ならば」
「ならば?」
「伴侶に生きたまま食べられるように言われています」
はぁ?
今なんと?
アキリア。
ほんとアキリアだ。
なんつ〜使命を。
ここまで衰弱してると、全然美味そうじゃ無いぞ。
「なんで? ねえなんで? 意味わかんない」
「それで私の持つ力は、貴方に譲渡されるから」
「まじか」
「貴方は完全な力を、取り戻す事ができるでしょう」
「俺が弱ってる事を知っているのか?」
なんで?
あ、やっぱりアキリアか。
アイツやりやがったか?
「私は貴方の為に神に作られた存在」
「ホントに?」
「逆にいえば貴方もまた、私の為に作られているのです」
「へ?」
「私達は深いところで繋がっています」
「ホントのホントに?」
「あなたが弱れば私も。私が弱れば貴方もまた弱ります」
「………」
「私がここまで弱ってると言う事は、貴方もまた」
「俺も?」
「生命の危機にあるのでは無いですか?」
「………まあね」
大当たりだ。
瀕死状態。
正体は大破したドラゴンゾンビだからね。俺
「福音のお告げによると。私を食べれば」
「食べれば?」
「貴方は回復するそうです」
「………」
「ですが私が死んでしまっては」
「………」
「死体を食べても、あまり効果はないとの事です」
「………」
「ですから。どうか。生きた………私を召し上がれ」
なんと言えば良いのだろう。
途中から頭が真っ白だ。
物理的に私を食べてと言われても………
それに、俺とこの女の状態がリンクしているとすれば。
この子の呪いって。
ドラゴンゾンビになった、
俺のせいじゃあるまいか?
ヤバイ。
マジで俺のせいっぽい。
「………」
「黙り込まないでください」
「いや、でもな」
「女に恥をかかせるものでは、ありませんよ」
「元はといえば、あなたが衰えたのも」
「………」
「私が呪いを受けたがため」
多分違う。逆や。俺のせいや。
ごめんよ〜。
「………」
「私が伴侶である貴方に迷惑をかけ分」
「………」
「貴方に償いをするのは、当然です」
いたたた。
痛い。心が痛い。
ゴメン。
それ多分、全部俺のせい。
俺が目玉焼きじゃ無く、
マッマドラゴンに憑依転生したせいかもだ。
俺が大破したドラゴンゾンビになったから、
この女もきっと。呪いを受けた?
だとしたら、100%俺のせいじゃね?
これ?
嫌な汗がダラダラ流れる。
ゴッキーなのに。
そのくらい追い込まれていた。
ヤバイよ。
罪悪感で心が痛い。
「提案なんだけどさ。君が…逆に」
「セーラとお呼びください」
「セーラが、俺を食べるのはどうだろう」
「………どうだろうと言われましても」
困ったように首をかしげるセーラ。
「そうすれば、呪いを解けるかもしれない」
「ふふ。ありがとうございます」
「礼を言われることじゃない」
「しかし私には、貴方を食べる体力すら残っていませんわ」
「大丈夫。任せて」
俺ゴッキーだからね。
このまま口の中にお邪魔します。
すれば良い。
………どえらい事考えてるな〜俺等。
「クスクス。駄目ですよ。それでは使命をはたせません」
「神の使命などどうでもいいよ」
「良くは無いです」
「俺は、死んでも、どうせまた生き返る」
「え?」
「俺は神からそういう使命を、多分受けてる」
アキリア。
俺を壊して直して遊ぶ気満々だし。
「なんて残酷な使命」
「だからね。黙って俺を食べてくれ」
俺ゴッキーだけど。
栄養あるよ。
「………」
なんかセーラはグスグスと泣き始めた。
そんなに嫌か?
ゴッキーたべるの?
嫌かもな。
いや、俺がゴッキーだとは、気がついてないはず。
「泣くなよ」
「嬉しいのです」
「ん? なぜ?」
「神が私の為に用意してくれた伴侶」
「俺?」
「はい。それがどのような人か、いつも妄想していました」
「へ?」
「素敵な人だったらいいな〜」
「そうだろうね」
………ゴッキーだけどね。
「駄目な人なら、どう躾けよう」
「おい。躾けるって何だよ?」
「神が定めた伴侶が駄目なら、再教育するのが私の努め」
なんか怖いぞ。コイツ。
「案外逞しいな」
「そんな事を、思ったのですが」
「私の為に、貴方が躊躇いなく命を捧げてくれるとは」
「………」
「愛ですね」
「………」
罪悪感です。
俺死んでもイキカエレルシ。
身体は、別の何かになるかもだけど。
「誰かに無条件で愛してもらえる事」
「………」
「それが、こんなに幸せな物だとは、思いませんでした」
「そ、そうか」
「私には、もうあまり残された時間がありません」
「みたいだね」
「神が定めた私の伴侶。私の為に命を投げ出す伴侶」
「………」
「きっと貴方は私のモノ。私はあなたのモノ」
「………」
「女に生まれてきてよかった」
「………」
「私は幸せです」
「………」
「愛のために、貴方の為に、私は悦んで死ねます」
「………」
「待っててよかった」
「………」
「余命が間に合って良かった」
「………」
「産まれて来てよかった」
「………」
「だから。さぁ」
「………」
「どうぞ」
「………」
「わたしを………メシアガレ」
この女の残された余命はきっと本当に短い。
全てを諦めている。
失うものも、もう何もない女。
ベッドの上で死を待つだけだった女。
もはや何も希望を望めなかった女。
哀れな女も
そこに、舞い込んできた、定められた運命。
たぶん。
それに飛びついた。
間に合った。
死ぬ直前に間に合ったと。
自分の命に価値はあった。
女に生まれてきて良かった。
幸せですと
使命を果たせると喜んでいた人間は。
ゾンビのような顔で、人間セーラ。
セーラは幸せそうに、
本当にシアワセそうに、そう嗤った
私を召し上がれ
と