23、チゴヤ商会
夜を徹して、白虎の毛皮に身を固めた銀髪の娘は走る。
たいした体力だ。
ヒゲやバーナードも、後ろから追跡は、してきているのだろう。
しかし、そもそも殆ど休憩せずに走り続ける者。
それを追いかけ、追いつくのは無理だったようだ。
俺はその者の服にくっついてるだけで、楽ちんゴッキーだけれども。
「街か」
「街だねぇ」
辺りはまだ少し暗い。
夜明け直前に、銀髪の娘は街へとたどり着いた。
デカイ。
街は城壁にぐるりと囲まれていた。
街というよりも城塞都市。
もしくは総構えと言うやつか?
「ほぼ要塞じゃないか」
街の入り口には、篝火が炊かれ、門番が二人いた、
(おや、貴方はチゴヤ商会の)
(ええ、通ってもいいかしら)
(どうぞどうぞ)
銀髪の娘は、街の門番に顔を知られているらしい。
一言二言かわすだけで、街の中へと入っていく。
まだ暗く人通りの無い街の中を、銀髪の娘は迷う事なく進んでいく。
彼女が何処に行くのか、わからないが、ゴッキー(俺)も白虎の毛皮に隠れながら付いていく。
城塞都市の防御網すら簡単に突破、侵入できた。
ゴッキー最強説は健在だ。
ゴッキーの乗り物。
こと銀髪の娘は、街の中にある建物の中でも、トップクラスに巨大な屋敷の中にはいっていく。
寺院に匹敵するくらいのデカさだ。
ゴテゴテしてて成金趣味全開の建物だけど、こういう家、ゴッキー嫌いじゃないよ。
なんか本能が疼く。
探検したくてドキドキするね。
屋敷の中に入ると、すぐに声をかけられた。
「カルナお嬢様お帰りなさいませ」
「セルバンテスただいまさ」
どっからどう見ても、執事の格好をした初老の老人。
それと銀髪の娘が挨拶をした。
カルナって名前だったのか。
「お嬢様。目的の竜の爪と牙は手に入りましたか?」
「いいえ。商隊は目的地に到着前に野盗に襲われて壊滅さ。モンスターの襲撃も重なって、商隊は散り散りになってしまったさ」
「なんと、それではすぐに失った積荷と、人員の捜索隊を出しましょう」
「必要ないさ」
「しかし、チゴヤ商会の商隊を襲ったものを、そのままにしておくなど」
「わかっているさ」
「放置しておくと、今後も商隊が襲われる危険度が」
野盗は味をしめるとしつこいぞ。
犯罪者に定期収入とか無いからな。
稼げるときに取りに来る。
「今は時間がないのさ。そんな事よりも、姉さんのためにドラゴンの爪と牙を、一刻も早く手に入れる事が優先さね」
「せめて人員の捜索だけでも」
「生きていれば自分で戻ってくるさ」
「それはそうですが」
「大体、今回は討伐されたドラゴンの爪と牙。それを北にあるスーの街から輸送するだけだった」
「………」
「だから護衛だけで結成したさ。商隊とは名ばかりの戦闘部隊だったさ。なのに、スーにたどり着くこともできずに、あっさり野盗にやられやがってさ」
「………」
「野盗にあっさり負ける連中なんて、必要ないさ」
カルナちゃん厳しいね。
「それはあまりにも」
「この時間が無い非常時に、あんな無能を雇ったのが運のつきさ」
「しかし、スーの街で、本当にドラゴンが討伐されたかも未確認ですし。そちらにだけ精鋭を割くにも行かなかったわけで」
「ドラゴン討伐は本当の事さ」
「なんと。まことですか?」
「討伐されたドラゴンの首は、スーの街にある。肝心の牙はともかく、爪は胴体ごと盗まれて、行方不明だとさ。ドラゴンの胴体を狙う野盗が言ってたのさ」
それ、野盗じゃなくてヒゲとバーナードじゃね?
………あいつ等が商隊襲ったの?
それとも別口の野盗?
なんつ〜か、世も末だなぁ。
人間の世界って大金が絡むとヤバすぎる。
「では、一刻も早くスーの街につかいを出しましょう」
「野盗に襲われるのが落ちさ。精鋭は出払っていて戦力が残ってないんだろ?」
「商隊を出す必要はありません。一人でも、スーの街にたどり着きさえすればいい。ドラゴンを討伐した者たちが、スーの街にはいるはずですから」
「輸送をスーの街の連中に頼むのかい?」
「はい。高くつきますが、セーラ様の命には変えられません。スーの街に生まれた、新たなドラゴンスレイヤーに頼みましょう」
「わかったさ」
「では、早速野盗を掻い潜って、スーの街にたどり着けそうな者達を、数人見繕って派遣しましょう」
「私がいくさ」
「その疲労では無理でしょう」
まぁカルナちゃん、走りっぱなしだったからね。
「ちっ」
「ドラゴンの牙はそれで良いとして、爪はどうしましょうか? ドラゴンの胴体が行方不明だと言うことは」
「スーの街には無いかも知れない。か?」
「はい」
「他に回した連中から連絡は?」
「王都に出向いたチゴヤ様が交渉してるはずですが、相手が王族となると、かなり厳しいかと」
「他は?」
「まだ確定的な情報は、何処からも」
「ならば私らも、行方不明になったドラゴンの胴体を探すさ。爪だけ一つ入手できればいいさ」
「はは、すぐに賞金をかけてまいります」
「この際、綺麗事は言ってられないさ。ドラゴン盗んだのが、野盗だろうが、犯罪結社だろうが関係ないさ。買ってきな」
残念。
ドラゴン盗んだのはゴッキーでした。
加速
 




