208、発情期78
「竜変幻」
ミチミチと自分の内側から肉が盛り上がる。
すでに何度も味わった変幻スキルの感覚。
体が巨大化する感覚。
でも………なんかいつもと違うな。
何時もよりもガッツリ、パワーが満ちてると言うか。
ミチミチと巨大化する自身の体積で、
閉じ込められていた牢屋を、自分の竜になりつつある巨体が内側からぶち破る。
牢屋と言うか、建物ごと、ぶち壊す、
「う、うん? うわ、な、なんだ?」
「牢屋が崩れる。逃げろ」
「脱獄のチャンス」
あちこち周囲から声がする。
俺の他にも牢屋に捕まってる罪人いたの?
まぁ、考えて見ると、そりゃそうか。
そりゃあね。
新入り罪人の俺以外にも、捕まってる罪人いるわな。
ここの領主の伯爵ってあんなだし。
俺は薬の材料候補で、高待遇で隔離されてたっぽいし。
離れた部屋に他の罪人いたんでしょう。
ま、気にしない。
それよりも竜変幻スキル。
竜変幻スキルの感覚が何だかいつもと違う点が気にかかる。
自分の内側から長い首が1本生える。
そして、次々と長い首が………たぶん8本。
希望通りのヤマタノオロチ。
でも
………なんだコレ?
視界が、おかしい。
複数の首から、それぞれの視界情報が送られてくる。
首は8本だけど思考は1つ。
それは良い。
でも、視界が変だ。
どうなってる?
8本の首が重くて、二足歩行は出来そうにない。
四足歩行………両手が前足の役割で、ふさがってしまった。
犬や猫の様な四足歩行形態。
その為、手は使いづらい。
8本の首は自由自在に動かせる………か?
………手のかわりに8本の首を使うしかないのかな?
体のバランスコントロールが難しい。
この竜変幻は、体のコントロールが今までよりも格段に難しい。
しかも、ふと重大な失敗に気がついてしまった。
「あああ、しまった。翼が無い。これじゃ空飛べない」
なんてこった。
しくじった。
ヤマタノオロチに、こだわるあまり、空を飛ぶと言う概念が頭から抜けていた。
なんてこった。
俺の頭はトコロテンか何かか?
8本の頭の変わりに大切な翼を失ってしまった。
移動どうしよう?
空を飛ぶ快感が……、
………まぁ、良いか。
本当は良くないけれど………
残念だけれども
残念だが、次がある。
失敗は次の糧にすれば良い。
今は、8本の首の視界という、新しい感覚を楽しむのが………
「うう、駄目だ。頭がクラクラする。気持ち悪い」
8本の首を楽しむどころじゃない。
8つの首から8つの視覚映像が頭にぶち込まれる。
おかげで、乗り物酔いに近い感覚が襲ってくる。
「うえぇ。吐きそう」
『何を馬鹿な事を………してるんだ君は………』
「あ、アキリア助けてくれ。視界が首の数だけあって気持ち悪い」
『………生臭野郎の使徒らしい間抜けな失敗だね』
「しばらく黙ってたと思ったら辛辣だなぁ」
『だって、君は、またも体色が青いし………』
「まじで? 俺青い?」
『うん』
不機嫌そうなアキリアの声に釣られるように、八本の首、16個の目で、自分の体を確かめてみる。
………首が八本ある首長の4足草食恐竜みたいな体。
全体的に確かに青い。
1本の首だけ赤かった。
「何だ? これ? 首一本だけ赤い。てか視界が多くて酔ってしまう」
『裏切者。8本中7本の首が裏切者』
「どうでも良い。助けて。気持ち悪い」
『はぁ〜〜〜。1本の首以外は目をつむりなよ』
「おお、その手があったか」
言われたとおりに8本ある首のうち、7本まで目をつむる。
おお凄い。
頭に送り込まれる視界が、いつもどおり1つになった。
うん。
コレで行けそう。
正常に戻った視界で辺りを見廻すと………
「なんだ、こりゃ。俺のせいか?」
『酷いね』
あたり一面瓦礫の山。
俺が入っていた牢屋は、建物ごと壊れていた。
周囲には、ちらほらビビリちらしてる人影も………
ひどい有様だ。
ちらほら人間もいるが、一人残らず慌てふためいている。
グドウ伯爵と戦った城から10Mほど離れた場所。
城の離れの建物か?
どうやら俺は、地下室の牢屋に閉じ込められていたらしい。
その閉じ込められていた建物の基礎ごと、竜変幻の余波で地下から建物を破壊したらしい。
………思ったよりも体格が大きくなってしまって大惨事。
体も、前よりも人回りデカくなってる気もする。
だけれども、それよりも首が………8本の長い首が凶悪なほど、俺の体を、大きく威圧感ある風体にしあげていた。
あかん。
道歩いてて、こんなのに、でくわしたら、泣くか漏らしてしまう。
自分で自分を見てそう思うんだ。
周囲の人間には、たまったものではあるまい。
「………なんか何時もよりも、パワーが満ち溢れているというか」
『そうなの?』
「ここまでやる気は無かったのに、自然と建物破壊しちまった」
『ふ〜ん。ま、どうでも良いけどさ。はやく逃げなよ。グドウ伯爵がすぐ来るよ』
「おおっと、そうだった」
グドウ伯爵は、俺が竜の姿になるのを期待して待っているに違いない。
………この姿見たら驚くかな???
首と尻尾を含めた大きさは、前回の2倍に近い。
………大きさはパワーだ。
8本の長い首の巨大なヤマタノオロチ。
見た目がちょっと………自分でもやっちまった感がある。
嫉妬しすぎた。
嫉妬のパワー怖い。
伯爵も驚いてくれるかなぁ?




