201、発情期71、反転、堕落
仮面を外した伯爵。
顔の大部分が、醜い何かにおおわれている。
何だアレは?
植物?
苔?
虫じゃないよな?
わからない。
植物の様な細い虫の様な何か。
それに覆われて無い部分の大半は………
ケロイド状になっていた。
正常な肌など、ほとんど無いのに………
一目でわかった。
雄ではない。
戦慄した。
「オマエ、女だったのか!」
「私の1番古い記憶。
産まれてきた事が失敗だった………
記憶だ。
他の人とは、違いすぎた」
黒い仮面を外した伯爵の顔。
それは1分1秒であっても、平穏や穏やかさなど許されぬ。
そんな痛みに耐える苦悶の表情。
尋常では無い。
苦痛と苦悩に耐える証。
比較的無事な眉間。
眉と眉の間に、ハッキリと、あらわれた血管と、シワ。
それが常に小刻みに震えている。
あまりの凄惨さに、思わず見入ってしまう。
「私は今日一日を生き残るために必死なのだ。
聖なる者を殺してでも、
一時的でも良い。
痛みを止めたい。
外道なのも自覚している。
だが、それでも毎日必死に生きている。
ひるがえって、貴様らはどうだ?
私よりも遥かに恵まれていながら………
毎日を必死に生きてはいまい。
それどころか………
毎日の幸せを、痛みを感じることもなく
普通に生きれる1日。
私にとっては、何より変え難い1日を、湯水の様に使い捨てている」
「!!!」
「私には、それがどうしても我慢ならん。
許せぬ。
妬ましく、恨めしい。
どうしようもなく。
外道の私ですら、
毎日を、必死に生きているというのに
神の加護を受けながら、のほほんと堕落………
貴様等、貴様等使徒が、うらやましい」
それだけ言って、身をひるがえすグドウ伯爵。
カツンカツンと、来たときと同じく足音だけで、わかるプレッシャー。
なんだ?
言いたい事は、言い終わったのか?
急に来た道を戻り、帰ろうとする。
「おい。まて」
「待たぬ」
神にすがらねば、癒える事の無い呪いを背負った伯爵。
どれだけか他人に、言える事の無い呪いを、病を、痛み苦しみを背負ったグドウ伯爵の後ろ姿。
「それなら………神の誘いに………」
「断る」
にべも無い。
それでも
苦しみの中、神の誘惑を蹴る。
尊い。
記憶は残っていないが………
アキリアに会うまで、たぶん俺も大差無いような環境。
碌でもない環境で碌でもない事を、やってたかも?
俺は誘惑に乗った。
たぶん俺には出来なかった選択をした者。
強い精神力。
グドウ伯爵。
去り行く伯爵の後ろ姿。
そこに神威を見る。
瞬間、体に走る電激。
長い事、ドラゴンテイムスキルによって、抑え込まれていた感情。
そして発情期スキルが、ここに来て火を吹いた。
脳天から心臓を走り、男の子のシンボル迄届く衝撃。
一目惚れ。
この瞬間。
陥落、堕落、墜落。
信じられない事に、俺はたぶん、恋に落ちた。
「惚れた。グドウ伯爵。お前のせいだ。お前が欲しい」
「???」
「俺のモノになれ」
『!!!』
「!!!」
「………」
「………」
去ろうとした足を、ピタリと足を止める伯爵。
ワナワナと、体を震わせるグドウ伯爵。
振り向く、その顔には………
怒りを抑え込む努力の跡が見える。
「貴様は………
どこまでも、どこまでも、どこまでも
何度も何度も………
私を、からかいコケにして
私を苛むのが………
そんなに楽しいか?」
「単純に………惚れた! 興奮した! お前のせいで、俺は興奮がおさまらない」
「私に欲情できる男はいない」
「ん〜〜〜? どゆ事?」
「今まで
何人モノ男が、私の地位と金に目をくらませて、
言いよってきたが………
私の裸を前にして、男でいられる男はいない
どの様な豪のものですら。な」
「あ〜。それは、それは」
なる程。
グドウ伯爵の、呪いだか病に侵された全身。
顔だけで、俺は絶望を見た。
その全身を見た男達は、揃って萎えたわけか………
無理も無い。
が………情けない。
「もしも、私を愛せる男がいるとするのなら、私と同じ呪いを背負った、あの方………
いや、貴様には関係の無い事を言った」
一瞬、夢見るような表情になったグドウ伯爵は………
絶望的な顔とのギャップのまま、
そう言い残して
カツカツとした足音を残して………
グドウ伯爵は牢屋から去っていく。
その足音は………………
軽い。
気持ち、弾んで聞こえた。
………………
「アキリア。確かに伯爵。カッコいいな」
『君さぁ〜。本当に君さぁ〜。最悪だよ。』
「………」
『僕が目をつけた子を、横取りしようなんてさぁ』
「お前が悪い」
『なんでだよ。あ〜、もう。本当に去勢しちゃおっかな〜』
「………」
『大体セーラって子の方は、どうする気だよ?』
「………」
『ねぇ、どうする気?』
「わかんない。誰だっけ? それ。お前なんとかしろ」
『なんでだよ。君の問題なのに〜』
「俺は何も知らんし」
『無責任。女の敵。ミンチに、されちゃえ』
「お前がな………」
『なんで?』
「俺はアキリアに記憶を消されて、頭真っ白のひな鳥状態。それでグドウ伯爵へ………刷りこみが………おこなわれたんだ」
『へ? どゆ事? そんな事して無いよ』
「そ〜ゆ〜事だ」
邪悪に嗤う。俺。
………
………………
脳内でギアチェンジがおこなわれた。
火が入った。
もう、止められない。
『え? あれ?』
「俺の全ての罪。アキリアが、かぶってくれると、ありがたい」
『まさか!
きみ………
僕に浮気の責任を、なすりつける気か〜〜〜!』




