200、発情期70、伯爵………
「お前は………神を嫌いすぎだ」
「………」
グドウ伯爵は………動じない。
微動だにせずに、牢屋の鉄格子ごしに、対峙する。
コイツは………
治療法にも、神の言葉にも興味無いのか?
興味深い。
大抵の人間は、願いや神が大好きだ。
目の前に人参を吊るされた馬のようにとびつくのに。
コイツは………
俄然、興味が湧いてきた。
ムクムクと、好奇心が鎌首をもたげ、恐怖心を抑え込む。
何だか………
ワクワクする。
少しだけ、アキリアが押すコイツの事を知りたいと思った。
思ってしまった。
「伯爵………何故、赤子のヒャッハーや、その恩人だかを殺した?」
「………」
無言の伯爵。
俺が何の事を言ってるのか、理解出来ないか?
ヒャッハーや、その知り合いの事など、覚えてない可能性もある。
「挑まれたから、身を守るため………か?」
「チガウ」
む、覚えては、いるか。
「なら何故だ? お前は強い。殺す必要はあった?」
「………二人共、聖なる者だったからだ」
「聖なる者?」
「そう。産まれ付き呪われた私には、全ての聖なる者が、妬ましく呪わしい」
「妬みで、殺したと?」
「違う」
「ならどうして?」
「痛みを止める為だ」
「………どう言う事!」
「聖者の血肉を傷に塗ると、痛みが、おさまる気がするのだ」
「お、前」
牢屋番が言ってた、薬の材料と言うのは………
「耐えきれぬ痛みの果てに………一縷の安らぎを得る。
さながら、砂漠で出会う、オアシスのように………
私は聖者に、嫉妬と安らぎを想う」
コイツは、何を………言っている?
自分が不幸なら、他者に何をしても良いとでも思ってる?
思い上がってる?
「………ソレは、悪だ」
「善か悪かは問題では無い」
「なに?」
「私の痛みを、止めてくれるかどうか。それが問題なのだ」
「………我慢は出来ないのか?」
「痛い。どうしようもなく。聖者を傷つけて、一時の安らぎを得たいと、あさましく思う程に………」
伯爵は狂ってる。
そう思っていた。
だが、そうでも無いのかもなぁ。
コイツは………痛みに耐えきれず。
狂人の真似事をしている?
「ならば、神の治療を受け入れろ」
「出来ぬ」
「それで、痛みは、止まるのに。なぜ?」
「………………止まらぬ」
「どうして?」
「そもそも………私の痛みは神のせいだ。
痛みを与えた神の慈悲にすがるなど、出来るモノか。
今更………
私の過去と美学が許しはしない。
体の痛みは止まろうとも、
誇りと心が血を流す」
怒りを押し殺す様な伯爵の声。
瞳は赤く輝いていた。
「お、お前は………」
『伯爵。カッコいい〜〜〜。
ゼヒトモ玩具ニシタイ』
舐めてた。
俺はこいつ等を舐めてた。
思っていたよりも、ずっと………
伯爵は………
そしてアキリアも………
伯爵の覚悟は救いようも無く、
思っていたよりも、重く堅く。
地獄のようにカッコ良く。
………殺してやりたいほど哀れだった。
いっそ………トドメを刺してやったほうが、伯爵にとって幸福なのではあるまいか?
そんな事を考えてしまう程に………
アキリアは………
福音スキルごしに伝わる気配がおかしいな。
おそらくランランとした目で、アキリアが身を乗り出してるのが、何となくわかる。
たぶん大喜びだ。
アイツ………俺の時は、どうだったのだろうか?
俺を勧誘したときは………
俺も、あんなふうに勧誘を受けたのだろうか?
そして俺は………
恐らくは、伯爵よりも無様に………
勧誘にすがったのだろう。
「アキリア。ヨダレたれてるぞ」
『!!! おおっと、コレは失礼。ジュルリ』
「本当にヨダレたらしてたのか?」
かまをかけただけだったのに………
やっぱり駄目だアイツ。
「見ろ」
伯爵がゆっくりと、自分の黒い仮面に手をかける。
絶望を見た。




