199、発情期69、
カツン。
カツン。
石畳を叩く硬い靴の音。
足音から、感じられるプレッシャー。
………凄いな伯爵。
足音だけで、只者じゃないのがわかる。
「グドウ伯爵。か」
『早く上手く。僕の玩具になるように、上手に伯爵を口説くんだよ』
「自分でやれって」
『………君にとっても、良い話だよ』
「なぜ?」
『僕なら伯爵を治せるんだ。上手く、この手札を使って生き残るんだね』
「………」
『慈悲深い僕に、感謝しても良いよ』
「本音知ってると………感謝なんて、できないな〜。俺の事など、どうでも良くて、新しい玩具が欲しいんだろ?」
早く早くと、新しい玩具をせがむ子供のようなアキリア。
カツン。
遠くから聞こえていた靴音が………
俺の牢屋の前で止まった。
顔を上げれば、奴がいる。
黒い仮面は、戦った時のまま。
全身黒ずくめも変わらず。
しかし、ヒラヒラとした大きめの服を着ていた。
肌は一切露出していない。
フードまでかぶり、死神めいた装いだった。
「伯爵、全身鎧はどうした?」
「………」
俺のスキルは、もう使える。
そんな事は伯爵こそ、よく知ってるはずだ。
つまり俺との再戦闘の可能性がある。
なのに、鎧もつけずに………
「その軽装。どういうつもりだ?」
「鎧など必要無い。貴様の力は鑑定済みだ」
「んん?」
「ここに入れる前、部下に調べさせた」
「いつの間に!」
「結果。もう、貴様は脅威では無いと判断した」
「………」
「………」
「………………」
「………………」
『黙って無いで、早く本題に入りなよ。説得説得』
アキリアは、急かしてくる。
完全に伯爵には、舐められてる。
くそぅ。
いや、まぁ既に一度負けてる。
竜としては、強い者には敬意をはらう。
別に再戦する気は無い。
………けど、何かナメプされてるみたいで、嫌だ。
抗議でもしてやろうと、牢屋ごしに伯爵と目を合わす。
………伯爵の血走った赤い目と、俺の目が合う。
………
………………
アカンわ。
抗議どころじゃない。
血走った目が怖い。
コイツ、危ない薬でもやってるのか?
戦闘中と大差ない目。
覚悟ガンギマリ感ある目が危なっかしい。
闘志が萎える。
常人なら、戦闘中と、それ以外で気迫というか、スキが出来そうなものだけれど………
コイツ………たぶん24時間戦闘態勢でもとっていそう。
怖い。
なので、産まれかけた反抗心は、一気に霧散した。
しょうが無い。
アキリアの要請どおり勧誘するか………
危ない奴を、自称神の元へスカウト???
大丈夫かなぁ。
何処かから、怒られないかなぁ?
何か、とんでもない間違いを犯そうとしてるのでは?
そんな気もする。
「自称神からの伝言を預かってきた」
「海神………か?」
「いや、別口。海神の敵からのヘッドハンティングだ」
「………」
「詳しくは知らんが、体を治してやるから、犬になれとさ」
「!!!」
『ちょっと! 言い方、もっと丁寧に』
「海神の使徒に命狙われて、ビビったから。番犬として、お前さんを飼いたいとさ」
「………」
『君なんかに、頼んだ僕が馬鹿だった。猿でも、もっと上手に勧誘するよ』
「お前さんが、どの位の呪いだか、病だかを患ってるのか知らないが、話にのれば、治してくれるとさ。どう?」
「ふざけるな。同じ様な言葉で、何度騙されたことか」
「いやいやいや。本当だって。いや、まて。本当かどうかは知らんが、本人そう言ってるし」
「本人?」
「福音スキルってのが、生えかけてるだろ?」
「ああ」
「そのスキルあれば、自称神と話せるから、直接交渉してくれ」
「断る」
一瞬の躊躇もなく拒否する伯爵。
何故だ〜〜〜?




