198、発情期68、牢屋
伯爵に負けた。
捕まって………今、牢屋の中にいる。
意外に清潔な牢屋。
こざっぱりした服を与えられた。
ソレは良いのだが………
『ハァ〜。君にはがっかりだよ』
「伯爵様に挑むとは、命知らずな竜め」
頭の中に話しかけてくる、自称慈悲深き女神。
目の前にいる、おしゃべりな牢屋番。
俺を監視する見張りか?
その2人から………
『まさか、アッサリ負けるとはね〜』
「竜とはいえ、伯爵様に勝てるわけが無いだろう」
『使徒が人間に完敗するとか、ありえな〜い』
「お前はミンチにされて、伯爵様の薬になるのだ」
『全く。生臭い半魚人の使徒だし、しょうが無いか』
「早く竜の姿に戻れ。そしたら薬の材料にしてやる」
『海神の使徒は、みんな弱いなぁ』
「竜の肉。つまみ食いできると思うと。ジュルリ」
アキリアは、俺をなじる。
伯爵の部下、牢屋番も俺を薬の材料にしてやるとか、食べるとか脅してくる。
精神的に結構くる。
どんな拷問だ?
これが………敗北者の運命か。
弱肉強食。
負けたのだから、仕方ない。
だが………俺をなじる、この2人に負けた訳では無い。
そう思うと、理不尽だ。
『ところで、もうスキルを使えるんでしょ?』
「ああ、アキリアと話せてるしな」
『逃げないの?』
逃げる?
キョロキョロ牢屋を見渡す。
所謂、牢屋の中では、多分かなりマシな部類。
鉄格子こそあるものの、後は石壁に木を敷き詰めたっぽい。
竜になれば、楽勝で破壊できるだろう。
人間形態でも、ブレスで破壊できるかも………
でもなぁ〜。
「牢屋番の話を聞いたろ」
『聞いたけど、それが何?』
「伯爵は、俺が竜の姿になるのを待ってるのさ」
『え………』
「竜の血肉で、伯爵の呪いだか病だかを治せる?」
『無理でしょ。そういうレベルじゃないしね』
「そうか。でも、その事を伯爵は知らないしなぁ」
『なる程。竜、しかも使徒。良い薬になりそうだ』
「わざとスキを見せて、竜化を待ってるんだよ、きっと。困ったもんだ」
………もしかしたら、ヒャッハー………
いや、怖いから考えるのは止めとこう。
『そうだ。あの子に伝えてよ』
「あの子? 伯爵の事か? 何を………?」
『僕の部下になるのなら、体を治してあげるって』
「出来るのか?」
『まぁ、ね!』
「それなら自分で言えば」
『あの子、福音スキルを、かたくなに拒否するんだ。おかげで話が出来なくてさ』
「ほ〜」
福音スキルを拒否するとは………
自分の手持ちスキルが余程大事で手放したく無い?
それとも神を嫌ってたからか?
どっちもありそう。
『あの子カッコいいし、強いし。アレがいれば、セーラって子に煩わされなくていい。良い玩具になりそうだ』
「お前………」
『それに比べて………だいたい、君は弱すぎなんよ。根性がなさすぎる』
「………」
『全く、何度負ければ気が済むんだか? 折角ドラゴンに、してやったのに。最強種、全ドラゴンが泣くよ』
「………あんなのに勝てるかよ。相手が悪かった」
『はぁ〜〜〜育て方間違ったかな〜』
「おい? 誰がいつ俺を育てたって?」
『もっと強いドラゴンに育てる気だったのに………』
「お前………」
『去勢しとこうかな〜』
「発情期スキルなんてつけておいて、どんなマッチポンプだ、お前………」
アキリアの奴。
ゲーム感覚で、俺の成長を見てたのか?
なんて奴だ。
『あ〜あ。半魚人に寝返るし。変な虫ついてくるし。真面目にやってよね』
「とんでもね〜言いがかりだ。俺のせいじゃない」
『いいかい。伯爵を勧誘する役にはたつんだよ』
「………聞いちゃいないな」
「何を………1人でブツブツ言ってる。コイツも伯爵に恐れをなして、気が狂ったか? まぁ良くある事か………」
アキリアと話していると………
牢屋番に、そんな判断をされてしまった。
くそぅ。
反論出来ない。
カツン。
カツン。
硬い足音が響いてくる。
「おっと、伯爵様のおこしだ。俺は席を外す。せいぜいミンチにされぬように、口の聞き方に気を使うんだなドラゴン」
「………」
牢屋番らしき見張りは、そう言ってそそくさと去っていった。
明らかに伯爵に怯えている。
………部下にまで、恐れられてる。
なんて奴だ。
 




