190、発情期90、静かなグドウ伯爵
グドウ伯爵は、静かに俺を見ている。
………
………
さっきの感触から、キレるかと思ったが………
叫ぶ声も鎧の音もさせず、じっとしたまま。
意外と冷静?
てか、ソレが、かえって怖い。
グドウ伯爵は、ピクリとも動かなくなり………
首を傾けた姿勢で、コチラだけを見ている。
………
眼。
赤い目。
さっき迄、目に宿っていた赤い光が消えた。
今はタダの人間の充血した赤い目。
それが、仮面の隙間からこっちを見ている。
「ううう。余計に怖い」
「な、なんか嵐の前の静けさ、みたいさ〜」
「怖い事言うな。余計に怖くなる」
「だって、あの目。アレはもう………」
「何だよ?」
『トラウマ? 心の傷をえぐったね』
ちょいちょいカルナとの会話の合間。
アキリアからの声が頭に入ってきて、気に触る。
だけど、トラウマ?
「アキリアなにか知ってるのか?」
「義兄さん?」
「カルナ、待て。神っぽいのからのお告げだ」
「神」
『ん〜〜〜。伯爵はスキルに産まれ付き、デバフスキル持ってるみたい。君ってば、それ関係のトラウマ踏み抜いたんでない?」
「デバフスキル? モヒカンスキルとかヒャッハースキルみたいな?」
『それの、更に上位で、外せないデバフスキル』
「え? ………それってヤバくね?」
『ヤバいね。激ヤバ』
「!!!」
『だから僕は、あの子を好きに、なっちゃうんだけど……』
「げぇ。産まれ付き超デバフ持ち。更にアキリアに気に入られる、だと………」
アキリアに気に入られるって………
後天的なデバフじゃないか?
口に出すとアキリア怒るから、言わないけど。
先天的デバフスキルと、後天的アキリアのお気に入り?
どっちがヤバイか、わからんぞ。
『デバフ持ちが、懸命に足掻く姿は楽しいね!』
「オマエ………さぁ」
『気持ちはわかるでしょ?』
「ヒャッハーもデバフ持ちだったけど………」
『あ〜。二人の戦いは、特等席で見たかったなぁ』
駄目だコイツ。
デバフ持ちが好きとか、言ってるくせに………
ヒャッハー死亡に、何の感想も持ってない。
つまりは………生死はどうでも良いっぽい?
楽しければ、死んでも構わなそう。
………やっぱり、アキリア危険かもしれん。
上手く使えば、メリット多いけど………
デメリットも、半端ない気が………
気を抜くと、何をさせられるか?
そんな事を考えている間も………
グドウ伯爵は………
充血した赤い目で、じっとコチラを見ている。
ううう。
これは………
さっき迄の、勢い任せの行動を辞めてる伯爵。
これは………
怖いな。
冷静な変人ほど、気を抜くと危ない。
変人が冷静になる時は、大抵何かやらかす前だから………
アキリアだの、半魚人だの、セーラだの。
あいつ等騒いでる時よりも………
黙りこくった後が、あぶないからさ。
嫌な経験のせいで、グドウ伯爵の今の静けさが、
余計に怖い。
空にホバリング状態の俺。
伯爵を刺激しないように、ゆっくりと高度を下げる。
地面に下りると危ないか?
グドウ伯爵が、いつ動くか?
動かないか?
分からない。
なので………
「危なそうだから、カルナ先に逃げてな」
「へ? え? 義兄さん何言ってる。の?」
何もわかってないカルナ。
空飛ぶ俺は、適当な高さ迄、高度をおとし………
手に抱えてたカルナも地面に落っことした。
「この高さなら、死にはしないだろ?」
「嘘ぉ? ひゃあぁぁぁぁぁ」
愉快な声を上げて、2.3M程の高さから落ちるカルナ。
大丈夫。
下は畑っぽい、柔らかそうな所を狙って落とした。
………このままグドウ伯爵にロックオンされた俺といるより、だいぶマシだろう?
俺に、そう思わせるくらい………
静かに佇むグドウ伯爵は不気味だった。




