189、発情期59
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
黒い全身鎧の歩く音がする。
アキリアに気を取られてる場合じゃないな。
これは………
グドウ伯爵のが、やばそうだ。
さっきまで、鎧から、そんな音はしなかったのに。
城から落下していった、はずみか?
それで鎧か、グドウ伯爵自身が、どこか破損したのだろうか?
グドウ伯爵が歩くたびに、ガシャガシャ大きな音がする。
ううう、余計に怖くなった。
グドウ伯爵を視認しやすい場所へと、ふわふわ飛んで移動する。
が………
しまった。
「………………」
「………………」
しまった。
こっちが、向こうを見つけやすい場所へと移動すると言う事は、向こうが、コチラを見つけやすいと言う事でもある。
つまりは………
グドウ伯爵と目があった。
グドウ伯爵の、黒い仮面の下から覗く目。
何故か目から赤い光が放たれている
赤く妖しく輝く十字の光が、黒い仮面を1部染めていた。
「竜型の使徒めぇぇぇ。
何処に逃げたかと思えば、
私が少々弱ったと見るや、戻ってきたか!
弱った私になら、勝てると?
舐めるなよ。
卑怯者め
良いだろう。
かかってこい
再戦だァァァァァ
貴様から、ねじ切ってやるぅぅぅ」
絶叫する、ハスキーボイス。
いや、ゴメンナサイ。
ねじ切る?
再戦?
そんな気………無い。
弱ってるとか、強いとかじゃ無くて………
ただただアンタ怖いから、戦いたく無いんだ。
『そうだ伯爵の言うとおりだ。卑怯だぞ。やっちゃえ伯爵』
『おい。アキリア。オマエ』
アキリアの奴………
完全に伯爵の応援団してやがる。
もう逃げちゃおうかな〜?
倒れたセーラの方を見ると………
巨大化したセーラは、まだ地面に仰向けで倒れている。
あ、こっちも………目があった。
セーラに視線を送り、目玉でグドウ伯爵と、反対の方向を、しめす。
アイコンタクトで、撤退を伝える。
伝わるか???
セーラは頷き、了解の意思を示す。
セーラが頭良くて助かった。
セーラを置いて逃げると、後で何をされるか分からないから………
セーラはふわふわと、再び上空へと舞い上がる。
「ヤレヤレ。2体1でも私達に勝てる。………と?」
「あれ? セーラ?」
「全く、とんだ勘違いですからね。そもそも1対1でも、貴方に勝ち目は、全くありませんよ」
………撤退どころか、セーラが挑発をはじめてる〜
ヤメテ〜。
伯爵刺激しないで〜。
「勘違いは、そちらだ。既に私は使徒を1匹仕留めている」
「はぁぁ。産まれたての赤ん坊1人を仕留めたのが、そんなにも自慢ですか?」
赤ん坊?
ヒャッハーか。
そういや赤ん坊のまま、戦いを挑んだんだったか?
アイツは。
こんなやべぇ奴に………
アイツ勇者だなぁ。
俺はこんなにも逃げ出したいのに。
「ナニヲ言っている?」
「赤ん坊にしか勝てない貴方が、何を偉そうに」
「き、貴様」
「そもそも赤ん坊を殺す時点で。貴方のほうが、卑劣卑怯。………と言うか、人として恥ずかしくありませんか?」
セーラが伯爵を煽る。
煽る煽る。
「………………」
「赤ん坊を仕留めて誇る? 貴方の頭と誇りは大丈夫?」
「!!!」
「ま、大丈夫じゃ無いから、そんなにも、みっともない鎧で全身を隠してるんでしょうね」
「貴様ぁぁぁ〜〜〜〜」
セーラの煽りに、グドウ伯爵が絶叫した。
………セーラの奴、俺とのアイコンタクトで、一体何を勘違いした?
俺、煽れって支持出して無いぞ。
「さぁドラゴンさん。二人で戦いましょう」
「………………」
『あ、卑怯だ。汚いぞ。正々堂々一対一で、戦いなよ』
「………………」
「まとめて串刺し、にしてやるううぅ」
煽るセーラ。
猛る伯爵。
応援するアキリア。
………駄目だコイツラ。
仕掛けたのは俺だけどさ………
俺だけどさ。
なんかもう、イロイロ台無しだ。
………萎えた。
「………俺さ。興味無くなったから。帰るわ。あとは好きに………」
瞬間。
背筋が震えあがる。
グドウ伯爵の顔が、目が………………
みるみる
絶望的なモノに変わっていったのがわかる。
なんだ?
どうした?
「興味無くなったから、帰るわ。
だと………
き、興味が無い?
私に………
使徒のお前が?
神にも愛されたお前が、お前も……
私に、興味がない
だと………」
酷く傷つけられた、モノの声。
首をガクンと傾けたグドウ伯爵は、
………信じられ無いモノを見るような目で、
俺を見ていた。
「に、義兄さん。今すぐ謝るさ。なんか姉さんの煽りよりも、義兄さんの煽りの方が効いてるさ〜」
「煽ったつもりは、全く無いんだが………」
「煽りで姉さんに勝つとか、義兄さんアンタ何者?」
『君って、偶に人の心無いよね〜』
「いや、わからん。わからんぞ。なんで怒るんだよ?」
伯爵を………
怒るというか、傷つけた?
いや、さっぱりわからない。
が………
「ほ〜ら。ドラゴンさんも、やる気満々です。謝るなら今のうちですよ」
セーラの煽りに、ピクリとも反応せずに、グドウ伯爵は、泣きそうな目で、俺だけを見ていた。
何か、カチリと地雷を踏んだらしい。
いや、踏み抜いたか?
ううう。
胃が痛い。




