18精神力(23)
心身ボロボロになって戦線離脱。
いや、ゴッキーになって戦線離脱した。
何て敗北感だ。
ドラゴンである自覚をした直後。
覚醒したと思った俺が、ゴッキーにまで身を落として、
敗走している。
正直すまんかった。
ブ〜ンと羽音をさせて飛ぶ。
ゴッキーが飛ぶ音だ。
最悪に嫌な音。
これが敗北の音か?
記憶をアキリアに消されたはずなのに、
要所要所覚えてるのは、なんじゃらほい。
「そろそろ周りに敵もいなさそうだし、もとの姿に戻るか」
『ええ〜戻っちゃうの? そのままでいなよ』
ふざけるな。
無視だ無視。
あ、俺は今の姿、虫だった。
「何時までもゴッキーでいられるか。俺は戻るぞ。変幻」
まずは人間に変幻する。
竜の姿は手足短くて、
怪我の手当が、しにくそう。
「て、あれ? 人間に変幻できない」
『プププ。アハハハ』
爆笑するアキリア。
無理もない。
俺の体は一回りデカくなった。
しかし、また。
ちょっと大きなゴッキーに変幻していた。
??????
「どういう事だ? オイ、アキリアどうなっている?」
「これから君は、ゴッキーとして生きるのさ」
な、なんだって〜。
うそだろ。
絶望的な事を聞かされた。
「オイ。なんとかできないのか?」
「僕の所に、鶏だの小鬼だの豚だの送りつけてくれたからね〜。ささやかなお返しだよ」
「いやいやいや。ささやかじゃ無い。反撃がきつすぎる」
これ何倍返しだ?
罪と罰が釣り合ってない。
『大変だったんだよ』
「なにがだよ?」
『次々やってくる魂を、半魚人の縄張りにポイするのは』
「半魚人ってなんだ?」
『僕と喧嘩してる嫌な奴さ』
「そんなのいるの?」
『二千年間くらいの間、殴り合ってた』
「長すぎる」
『だけど勝負がつかないんで、最近は嫌がらせしてる』
それもどうなんだろな?
千年単位ってスケールでかすぎて、わけわからんね。
「そんな事よりも、もとに戻してください」
『え〜。どうしようかな〜』
「本当に、たのむ」
ゴッキーの姿で頭を下げる。
………ゴッキー。
頼み事を、するのも、されるのもナンカ嫌だ。
『って、ホントの事言うと、それ僕のせいじゃないよ』
「へ?」
『変幻スキルは、扱いが難しいんだよ』
「そんな事言ってたな」
『イメージ力と、精神力に大きく影響を受けるからね』
イメージ力と精神力?
初めに変幻スキルの説明受けたとき
そんな事を、言ってたような?
言ってなかったような?
覚えてないような。
「どゆこと?」
『君は戦いに負けて、ゴッキーになって逃げ出したよね?』
「ああ」
『今、どんな気分?』
「最悪だ」
『弱った精神で変幻スキルを使うと、弱いものにしか、変幻できないよ』
確かに負けて、心弱って折れてるけれども。
あぁ。それでゴッキーかぁ。
「今の俺の精神力が、ゴッキーレベルだと?」
『君は負け犬だもんね〜』
「くそう。途中までは良かったんだ」
『今までゴッキーに変幻して逃げた人は沢山いたけど』
「どうなったの? ねえ」
『大抵しばらくはゴッキーのまま、すごしたさ』
「なんてこった」
『面白いだろ』
「面白くない」
『だから僕は、変幻スキルを配るのが好きなのさ』
駄目だ。
こいつ最悪だ。
だけど、まて………
要は精神を立て直せば良いんだ。
簡単じゃないか。
「まぁ、良いさ。もとに戻れるなら問題ない」
『え? 嘘ぉ。落ち込まないの?』
「しばらくゴッキーを満喫するのも良いかもね」
『ちょっとまって、それで良いの? 嫌じゃ無いの?』
「まぁ本性ドラゴンゾンビだしね。腐ってるし。大差ないさ」
『そんなぁ………もっと落ち込みなよ。絶望しなよ〜』
落ち込む俺が見れなくて
がっかりしてるね。
アキリア。
「いいか。もとに戻れるゴッキーと、戻れないゴッキーでは、安心感が違うのさ」
『そんな、あっさりと』
「戻れるなら無問題」
『ああ、コレはだめだ。結構早く立ち直りそうだ』
「いい事だろ」
『もっと心折らないと。面白くない』
折るなよ。
お前はやっぱり邪神かなんかだろ?
デカイゴッキー(俺)が、ぶ〜んと空を飛ぶ。
だけどゴッキーって、長距離飛べないのな。
途中休憩必須よ。
必須。
何でも食べれるから、食事の心配は無い。
もうすぐ夜だ。
血が騒ぐ。
ゴッキーの身体、夜行性なんだね。
「む、美味そうな植物発見。いただきま〜す」
モグモグ。
「うま〜い」
コーンコーン鐘の音がする。
福音スキルだ。
『なんで、君はゴッキーを満喫してるんだい?』
「ん〜これはコレで、なかなか楽しいよ。素早いし」
『今までゴッキーになった子は、皆絶望して泣いてたのに』
「軟弱な」
『君はイキイキしてるね』
「オッス。俺ゴッキー。名前は火力発電太。慈悲深き女神アキリアのペットさ。よし。名乗りは完璧だ」
何一つ嘘は言っていない。
これでアキリアのヤバさが、半端なく伝わるね。
ゴッキー飼ってて名前が名前だけに。
『まって、ちょっとまって〜僕のペットと名乗らないで』
「今から半魚人とやらに会うのが楽しみだ」
『え?』
「アキリアと喧嘩してる半魚人に挨拶したら、どんな顔するのかな?」
『やめて〜。半魚人に君を見られたら』
「ふふふ。アキリアってゴッキー飼ってるんだぜ。頭おかしいよな〜」
邪悪に笑うゴッキー事、俺。
『やめて〜。僕の評判と、精神が折れちゃうよ』
「だったら、さっさと元に戻す方法教えろよ」
『あ、やっぱりゴッキーは嫌なんだ』
「当たり前さ」
『精神的に立ち直るしか、方法ないよ』
「そうか〜」
『そうだね。同種のゴッキーと戦って勝利すれば、立ち直れるんじゃないの?』
ゴッキーと戦う?
ゴッキーの身体で?
それはもう拷問だ。
「却下。む、なんだ? 近くになんかいるな」
『え?』
「俺のゴッキーセンサーがビンビンだ」
『なんだよ。その嫌なセンサー』
ブ〜ンと空を飛ぶ。
むむむ、なんか感じるぞ。
あれは戦いの気配だ。
夜の帳の中。焚き火の炎が見える。
そこで何者かが戦っていた。
とても綺麗な女の子と、もう一人。
………アレはヒゲじゃね?